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あなたは自分が持っている価値観こそ正しいと思い込んではいませんか?
そしてその価値観を他の誰かに押し付けてしまったことはありませんか?
この本には2作品収録されていて、どちらも他者との価値観の違いから、感情が揺さぶられ変化していく人間模様を描いています。
1作目の『レンタル世界』では、人間関係をレンタルすることを良しとしない主人公が、正反対の考えを持った女性に惹かれ、自分の考えと正面から向き合うことを余儀なくされるうちに、何年もの間気づかなかった衝撃の事実にたどり着きます。
2作目の『ままならないから私とあなた』では、親友との価値観の違いに気づいていたけれど、向き合おうとしてこなかった主人公の人生が、そのせいで思わぬ方向に大きく動きます。
相反する自分の価値観と相手の価値観。違うからこそ、人は他者に惹かれ、愛することができるのではないか。だけど、自分の存在をも脅かすほどのあまりにも大きな違いを受け入れることはそう簡単ではない。一緒に過ごした時間の長さと相手への理解は必ずしも比例しないという事実に、哀しくも気づかせてくれる一冊です。
Posted by ブクログ
効率や意味を求める薫の性質が自分に重なる。
趣味や関心事は多くあるが、いずれも私は価値を説明しやすいものを好んでいる気がする。例えばワインだって、教養になったり、テイスティング能力が向上したり、と成長や価値に紐づいている。
一方で、人からの善意だとしても効果的でないときに無駄だと感じてしまっている節もある。
土砂降りの深夜、人の家に向かっている時に、駅まで迎えに行こうかと聞いてくれることは、その人の愛だったと思うし、旅行のパッキングにやけに時間が掛かっているのだって、現地でのことを想像してその時間も含めて楽しんでいるのかもしれない。むしろ、そういった内省や感受性こそが「心の豊かさ」や「他者への想像力」に繋がっているのだと思う。
しかしこれまで積み重ねてきた性格もあり、全く意味があると思えないものも含めて愛したいと素直に思えないかもしれない。ただ、自分には価値が分からないものでも、誰かにとっては意味があることかもしれない。むしろ、自分が価値を理解できていないだけかもしれない。
誰もが同じ基準で価値の有無を判断し、説明できないものを排除していったら、世界は同質化していく。ただ実際の世界ではコントロールできないものだったり違いだったりがある中で生きていくのだ。
ままならないから、私とあなた。なのだ。
Posted by ブクログ
やっぱり言語化力が優れすぎている。自分がうっすら思ってたと思われることが明確な言葉にされていて、言語化されたことで本当は違う可能性もあるのに、自分は元々そう考えていたって思っちゃう。そういうレベルの言語化の高さだった。
以下は、はっとした文章
できないことができるようになっていくなんて、もちろんワクワクする。世の中はどんどん便利になっていくし、目標の達成に費やす時間や手間だって大幅に省ける。だけど、だからといって、これは意味がないから、これは無駄だから、とあらゆるものを削ぎ落としていったら、そこに残るのは、誰にとっても必要なもの、誰にとっても意味があること、それだけだ。たったそれだけを身に付けた私たちは、確かにあらゆることが無駄なく遂行できるようになっているかもしれないけれど、きっと、心も体も同じ形をしている。 そうなると、重なり合ったところで、何の発見も、影響も、与え合うことができない。自分自身では引き起こせない感情の揺らぎに、出会うことができない。
たとえ自分が正しいと思っていても、その正しさを押し付けられる相手の気持ちを想像し、反射的に投げつけかけた言葉を再構築する。自分ではない誰かと共に暮らすとは、そういうことの繰り返しだ。
確かに、合理性によって省かれる人間的なものはいっぱいあるかもしれないけど、その代わりに、これまでになかった新しいものに、人間的な何かが宿る。そうやって巡ってきたんだよ、今までも。私たちだってその一部でしかない」
「自分じゃない誰かのことを理解したいって思ったり、理解しようといろんなことしてみたり、失敗したり、そのうえでやっぱりすごく好きだって思ったり、相手からもそう思われてることがわかってどうしようもなく嬉しくなったり、愛しくて尊くてたまらなくなってむしろ嫌いになりそうなことが起きたり、心には触れられないからせめて体に触れたくなったり、どうしても理解できないことはそのまま遠くから眺めるしかなかったり……そういう部分はやっぱりどうしたって合理化できないし、どこかのプロセスを省いたりとかもできないんだよ。失敗しまくるんだけど、改善方法もないの。ぶつかるしかないの、これからどうなるかわからないことに、ぶつかっていくしかないの」
「誰でも何でもできるようになったら、皆同じになっちゃうから。ままならないことがあるから、皆別々の人間でいられるんだもん」
Posted by ブクログ
SNSよりもリアルの方が繋がれるはず、
AIが作る作品は心がない、、
そんな、世の中に溢れる一般論や、自分の中にある一般論をバッサリと切られるような感覚を覚えた作品だった。
ラストの畳み掛けとこの後味は、まさに朝井リョウ。笑
リアルの繋がりが、すべて本当とは限らないし、案外表面的にしか関わりのない人の方が、さらけだせる気持ちだってある。
便利さが、人とのつながりを希薄にすることもあるけど、その便利さは、誰かが誰かを思う故に生み出されたものだったりする。そして、そこから生まれるつながりもまた、存在する。
結局のところ、根底にある、人が人を思う気持ちは変わらないのかもしれない。
表面的な世界も、人工的に作られた世界も、すべては誰かが誰かを思うからこそ、存在するものだから。
Posted by ブクログ
再読。朝井リョウの本の中で1番好きかもしれない。表題作は、薫子の気持ちも、薫の気持ちも双方理解できることが多く、最後の言い合いのシーンはどちらの言葉にも共感した。渡辺くんとの出来事を回想し、「10分間の休憩も、ホットミルクも、あのときの私にはいらなかった。だけど、だからといって、いらないと切り捨てることをしないだけの想像力が、相手が大切にしているものを自分の中の正しさで排除しないだけの想像力が、今の私には身についている。」というフレーズがとても良かったし、こういった想像力は自分にも欠けている部分があるなと感じた。ずっと大切にしたい言葉。
Posted by ブクログ
朝井さんの故郷である岐阜への旅のお供に。
朝井さんは時代を風刺した作品を書かれるのが上手い人だなと思っており、なるべく新刊とされているうちに読むことで、内容をより新鮮に感じることが多いなと思っていました。
そのため、約10年前に単行本として発表されたこの作品に対して、懐古的な感想を持つだろうと思っていました。
ところがどっこい、2025年に読んでもとっても新鮮!
AIの進歩が凄まじいここ数年を生きている現代人が感じることを10年前に予見してたのか?
それとも人間は10年前から同じようなことをずっと考えながら今まで生きてきたのか?
というようなことを思いながら読み切りました。
結論、朝井さんの作品は何年後に読んでも面白いということがわかりました。
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