あらすじ
あなたが見ている世界は、ほんとうに「正しい」世界なの?
天才少女の薫と平凡な雪子――二人の友情の行方は
天才少女と呼ばれ、成長に従い無駄なことを切り捨てていく薫と、無駄なものにこそ人のあたたかみが宿ると考える雪子。
すれ違う友情と人生の行方を描く表題作。
男が先輩の結婚式で出会った美女は、人間関係を「レンタル」で成立させる業者だった――「レンタル世界」。
既存の価値観を心地よく揺さぶる二篇を収録。
解説・小出祐介(Base Ball bear)
あなたは自分が持っている価値観こそ正しいと思い込んではいませんか?
そしてその価値観を他の誰かに押し付けてしまったことはありませんか?
この本には2作品収録されていて、どちらも他者との価値観の違いから、感情が揺さぶられ変化していく人間模様を描いています。
1作目の『レンタル世界』では、人間関係をレンタルすることを良しとしない主人公が、正反対の考えを持った女性に惹かれ、自分の考えと正面から向き合うことを余儀なくされるうちに、何年もの間気づかなかった衝撃の事実にたどり着きます。
2作目の『ままならないから私とあなた』では、親友との価値観の違いに気づいていたけれど、向き合おうとしてこなかった主人公の人生が、そのせいで思わぬ方向に大きく動きます。
相反する自分の価値観と相手の価値観。違うからこそ、人は他者に惹かれ、愛することができるのではないか。だけど、自分の存在をも脅かすほどのあまりにも大きな違いを受け入れることはそう簡単ではない。一緒に過ごした時間の長さと相手への理解は必ずしも比例しないという事実に、哀しくも気づかせてくれる一冊です。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
表と裏
真実と嘘
正義と悪
正しいと間違い
その瞬間の逃れ
誰でも隠し事はある
見える幸せと見えない幸せ
偽りの幸せを見せられたらそれは幸せか
価値観の違いからの優しさの食い違い
知らぬが仏
踏み込まない優しさ
思い込み
自分の世界
欲
肉体と精神
効率と非効率
自動化と手動化
人間と機械
違いの共存
芯
自分の人生から逸れると誰かのせいか
子どもは親を選べない
エゴ
Posted by ブクログ
朝井リョウさんの作品はスラスラ読めてしまう。今回も一気読みした。二篇あったが、ままならないから私とあなたの方が好きで刺さった。人それぞれ価値観が全く違い、自分の考えが全てではないことを痛感した。また、学生に焦点を当てている作品はリアリティ溢れる話で共感できる部分も多かった。
Posted by ブクログ
思い通りに行かないからこそ分かる、自分の立ち位置と他人との関係性。これまで出来ないことが出来るようになった、分からないことが分かるようになった、そんな成長過程ってとてもワクワクしますよね。
ままならないことがあるかも知れないけども、誰かと重なり合ったとき、何かの発見や影響、自分自身では引き起こせない感情の揺らぎを生み出すことが出来る存在になっていたいです。
自分なりの試行錯誤で漸く見つけ出した答えにあるのは、画一的な正しさではなく、その人らしさが溢れる尊さであると思います。
Posted by ブクログ
薫と雪子のどちらの考え方にも共感できる。
二人の人生を通じて、「合理性」と「人間の曖昧さ」という相反する価値観について描かれていた。
合理性が好きな自分ではあるが、雪子に感情移入して読んでしまった。
今まで読んだ朝井リョウの作品の中で一番好きです。
Posted by ブクログ
面白い本だった。面白いというのは、腹を抱えて笑ったという意味ではなく、興味深く考えさせられたという意味での面白さだった。
表題作ではユッコと合理主義者な薫という二人の異なる価値観をもった女の子の過去から現在を描く。薫は子どもの頃から、自分の物差しでいらないと切り捨てたものは一切手をつけない。
自分の体験の話だが、「おれは将来プロゲーマーになるから。家庭科、体育、音楽、美術、理科…とかは必要ないから受けない」と言っていた中学生を頭の片隅に思い出していた。中学校で習う全てのことは人としての土台になるもので、そこから徐々に自分の得意を見つけてそこを伸ばしたりするものではなかろうか。これはいらなかったなと切り捨てるのは大人になってからいくらでもできるのに、まだ中学生で土台もできていないのにも関わらず、自らの幼い物差しで選別しようとするなんてなんと傲慢な、とその当時は思った。でもそういう価値観を持った子どもに、わたしの価値観をもって説いても全く響かないものだと、今は思う。
物語でも、学生時代からその合理主義を遺憾なく発揮する薫に、若干の違和感や心のモヤつきを感じても何も言い返さないユッコ。言い返さないのではく、自分の体験や経験不足で自分の意見に自信が持てず、またこのモヤモヤをどう表現していいか分からないのだろうなと思った。
二人が大人になって、やっと二人の価値観をぶつけ合えたときは心が跳ねた。最初はユッコが優勢で、不便のなかにある出会いを一生懸命説くのだが、薫から「それってズルくない?」と強く言われてしまう。ユッコに完全に感情移入していたわたしは冷や水をかけられたようだった。確かに、薫のいうように、AIを自分の都合の良いところでは存分に活用しているから。しかし、AIが人間にとってかわるようなことになると急に人間のあたたかみが〜といって逃げる、と、薫の指摘は非常に刺さる。しかしユッコは最後にこう話す。
「人と人との関係だけは、効率とかじゃないんだよ。それだけは絶対に合理化できないし、何も省けない」
「確かに、できるようになった方がいいことっていっぱいあるけど。できないこととか、わからないこととか、コントロールできないこととか……そういうものが自分にもあること、そんなに怖がらなくてもいいんだよ。誰でもなんでもできるようになったら、皆同じになっちゃうから。ままならないことがあるから皆別々の人間でいられるんだもん」
人と人の関係は効率とかではなく、合理化できないって薫自身が今痛感してるからこそ、この言葉たちは薫に刺さったのではないかと思う。こんな面倒くさい価値観のぶつけ合いをするのは、お互いがお互いを想ってる証拠だと思うから。気持ちをわかってほしいから、言葉を尽くして話すってことは、相手のことを大切に想ってないとできないと思う。どうなってもいいって思ってたら、話し合いなんてせずにあなたとは分かり合えませんって一方的に決めつけて離れることもできるのだから。
「ままならないことがあるから、人間。」
ユッコの妊娠が判明し、薫がそう呟いて終わる最後のシーン。妊娠こそままならない。欲しいと思ってもできないこともあるし、今は仕事を頑張ろうと思っていてもできることもある。
一本目のように結婚していて奥さんと娘がいても、男の人としか急にできなくなってしまうこともある。
ままならないことがある人生。ままならないから自分は不幸だ、不運だと思うのは簡単だが、ままならなかったことが自分の人生の糧になり、成長できたと思えるようなその後にしていくことが大切なのではないかと思った。
Posted by ブクログ
価値観や考え方は人それぞれ、というのをこの物語を通して何度も痛感させられた。
どんなに言葉を尽くしても分かり合えない。自分がいつだって正しいと思い込み、それを相手に言い聞かせようとする。
たとえ親しい間柄でも、相容れない意見にぶつかり合うことだってある。
相手は偏った考えを持っていて、だから自分の常識を教えてあげないといけない、そんな傲慢さを誰しもが持っている。
自分の軸を持つのは大事だけど、正義にとらわれすぎない柔軟さも大事だと思った。
Posted by ブクログ
子供が生まれることを想像して、「分からないものが怖い」という感覚を味わった主人公のその後の行動が面白かった。
ITとかで便利になった時間を何に使うかはその人次第だし、ITで時間が増えても結局その時間は別のことに使うので、それが有意義かわからないが。
ただ、時代は変化するし、いまの時代での 無駄で有意義な時間 というものがあるのであろう。
まだ理解できない部分、腑に落ちない部分があったが、一旦このまま保留にして、自分がこの先の人生でこの小説を思い出す日を待つことにしよう。
Posted by ブクログ
久しぶりに朝井リョウさんの小説を読んだ
「やっぱり好きだな」と感じた
文章がすーっと頭の中に入ってくるから読みやすい
それでいて考えさせられる
価値観が違うからそれを押し付けあうのは違う気がする
ただ、「ままならないから〜」の方は、努力型の雪子の性質を認めてあげることも必要なのではないかと感じる。だって幼い頃から雪子は薫の変?なところも認めてきてたから。
現代風刺のような本、とても面白かった
Posted by ブクログ
文章が好き ◯
作品全体の雰囲気が好き ◯
内容結末に納得がいった ◯
また読みたい
その他◯
価値観を押し付ける人、苦手。
読んでいて、ちゃんと苦しいです。
Posted by ブクログ
薫ちゃんズレてるな、と感じるのは私も前時代的なのかな
恋愛の描写がすごく好きだった
最後どうなったか描かれてないけど、主人公の性質を考えると夢を諦めて、結婚して子供を産むんじゃないかなって気がした
科学技術であんなことができるって分かったら私ならもう創作続けられないかも
Posted by ブクログ
正解も間違いもなくてどの部分を切り取って信じるかの違いで価値観が形成されるんだなと
これからどんどん新しい時代になっていってきっと私は自分の生活が変わってしまうことを怖いと感じるんだろうなと思いました。
Posted by ブクログ
カオル(オーディブルで読んだので音しかわからない)が開発したソフトがお披露目されるシーンで、「いやまさかね」と思ったまんまのソフトで笑った。それはやってはダメでしょう。でも2025年の今、アートの世界はAIが作ったものが圧巻している。私はアーティスティックな人間ではないけれど、触れるもの、身の回りに置くものは人間が作り出したオーセンティックなものにしたいので、カオルが目指す世界は理解できない(もちろんAIのお陰で利便性が高まることも理解した上で)。ていうか大学で研究が及ぼす倫理的な影響について触れなかったんかい。そこに盛大にツッコミたくなった。
カオルは、親友の夢がいつの間にか自分の夢になってしまった。そういうことは自分と他人の境界線が上手くひけない人にはままあることと思う。そういうタチなので、気をつけたい。
あとは、ままならないから私とあなた、は本当に良いコンセプトだと思った。私も夫とはままならないことだらけだが、だからこそ一緒にいる。結局世界はままならないことだらけで、そこに人間関係を築いていく美しさがあると思う。
Posted by ブクログ
風俗行く人が人間関係について語るのグロいわよねーそうだよねー
薫ちゃんの問題点はそこじゃなくて著作権関連だし、ゆっこはちゃんと避妊しなさいよねとは思ったよねー
(10年ほど前の作品だと知り、昨今のAI著作権問題を鑑みるにビックリ!)
子どもがそれぞれ親を反面教師にするの、あり得て面白い
(文庫版加筆だと知りそれもビックリ)
時代が巡るとは淘汰されることではなく小さい世界がたくさんできることってのがなるほど
Posted by ブクログ
4.2/5.0
ユッコの意見も薫の意見も、おそらくどちらとも正解で、どちらとも不正解だと思う。
便利になる、効率が良くなる、手間が省ける…それらって「幸せになる」って言うんですかね?
Posted by ブクログ
効率と非効率が分かりやすく循環したオチ。曖昧を楽しめるのは、余裕があるから、ってなってもつまらない。最近とみに小説を面白く感じているのは、AIの反動かしらん。オーディブルのおかげもあるけど。
Posted by ブクログ
合理的で効率的な無駄をとことんはぶいて生きて行く薫、ままならなさを感じながらも、不効率から生まれる人間らしさや、努力して得た達成感を大切にするユッコ。極端だけど、効率がよすぎるIT化で子供を産む時期なども全て効率的には違和感。でも全て自分の思うよーにコントロールできるのは羨ましいかな?少し考えさせられたぁ〜。
Posted by ブクログ
浅井リョウさんの作品は初めて拝読しました。
気持ちの表し方がとても丁寧でゆっこちゃんのその時その時の気持ちが手に取るように伝わってきました。
人間のままならない思いや、人生について私はどっちかな、どっちもだな、等考えながらも読みやすい作品でした。
結末のドラマ仕立てな作風も好きでした。
Posted by ブクログ
やっぱり朝井リョウさんの作品は癖になる。
多くの人があえて触れないよう、臭いものには蓋をするようにしてきたことに対して、容赦なく言及するので、毎回はっとさせられます。
雪子の「人間らしさを大切にしたり、無駄に思えることや曖昧なことにこそ価値がある」考えと、薫の「合理性や効率性を重視し、変化や進化を好む」考えは、自分と他人の”違い”としての視点で描かれていて、実際この2つの考えの違いで、人間関係が上手くいかないことが多いのが、現代社会だと思う。
また、この対極の考えは自分の中にも併存していて、日頃から都合のいいようにそれぞれ使い分けていたなと再認識させられ、何とも言えない気持ちになった。
薫と雪子、正反対の2人の子供が、同じく正反対の考えを持っていて、親子の考え方がクロスで一致していたことも、この作品をより引き立てている。
結局、人間社会はいつの時代も「ままならない」のだなぁ。
Posted by ブクログ
例えば、生成AIで作られたものに対して自分はどう感じているのか、作品を読みながら、登場人物たちの台詞をなぞりながら考えた。ここに書かれた文章だって自分の癖を学習させれば、勝手にレビューを書いてくれるかもしれない。私が書いたものよりもより、人々に刺さる文章が作れるだろう。でも、その時の年齢、自分の状態などがノイズになって、良い意味でオリジナリティとなるのだろう。自分でああでもない、こうでもないと悩む時間が楽しかったりするのだ。
Posted by ブクログ
Audibleにて拝聴。
いや、本当にままならない。
効率的、非効率的で物事を判断しがちなカオルと、真逆な考え方・生き方をするユキコ。カオルは、そんなユキコとずっと仲良くしている事、ユキコの夢を叶えであげたいと突き進んでいる事に、「意味」を見出していたのかなぁ…?
Posted by ブクログ
価値観の違いをテーマにした2つの物語。
どちらも先が読めますが、サラッと最後まで読み進められました。
どちらの物語も共感出来るのはあまり無かったし、スッキリはしない感じ。
登場人物が好きになれなかったのかもしれません。
ままならない~の方は、切なくなりました。
30年後の話は要らなかったかな~と思いました。
Posted by ブクログ
サラッと読めるけど、現代的というか近未来的というか、考えさせられる内容だった。時代と共に私たちは考え方を変えたり、でも少し立ち止まって本当にこれでいいのか?!と考えたりしながら生きていかなきゃいけないなかなと改めて思った。
Posted by ブクログ
2作品とも、真逆の考え方を持った2人が意見をぶつけ合うことが主軸になっている。
読者である私も、ハッとさせられる気づきを得ることもできた。
ただ、2作品目の方は唐突な終わりに驚いた。
はたしてこのあと主人公はどんな未来を選んで決断して進んでいくんだろう。
Posted by ブクログ
誰しも持ってる心の裏の嫌な部分を描くのが朝井先生の凄いところだなと、、最新の著書を読んだ後だと若さがあってこれもまたよい
しかも作品を重ねるごとにどんどん気持ち悪く生々しくなっていく(お上手になっている)のが流石ですね…
Posted by ブクログ
Audibleにて
久しぶりの朝井リョウ。夜更かしAudible。
何とも言えない読後感を味わえる作品が2つ。相変わらず人の心の裏の裏を書くのが上手いなと思いましたね。人の感覚って違ってしまうものだよなと、ままならないなぁと。実直な人を軸に置いて、周りに変な人を配置させていると思いきや「貴方も大概だけどね」っていう作品づくりは著者の得意分野ですね。
Posted by ブクログ
薫の気持ちも雪子の気持ちもどちらも正解なのかもしれないけど、親友でありながらどうしても理解し合えない部分もあるのは当然だけど。
でも、薫さん、友達が目指してるものを自分の主張で壊してしまうのは間違いでしょうよ?
どうしたって薫のエゴにしか思えないけどな。
自分の道を進んでいても相手を尊重する気持ちだけは忘れないで欲しかったけど。
雪子にその考えを覆してもらいたかったけど、そこが「ままならないから」なんでしょうね。
そう思ってしまうのはやはり私も片方の道だけしか見えてない人間なんだなぁという感想。