あらすじ
あなたが見ている世界は、ほんとうに「正しい」世界なの?
天才少女の薫と平凡な雪子――二人の友情の行方は
天才少女と呼ばれ、成長に従い無駄なことを切り捨てていく薫と、無駄なものにこそ人のあたたかみが宿ると考える雪子。
すれ違う友情と人生の行方を描く表題作。
男が先輩の結婚式で出会った美女は、人間関係を「レンタル」で成立させる業者だった――「レンタル世界」。
既存の価値観を心地よく揺さぶる二篇を収録。
解説・小出祐介(Base Ball bear)
あなたは自分が持っている価値観こそ正しいと思い込んではいませんか?
そしてその価値観を他の誰かに押し付けてしまったことはありませんか?
この本には2作品収録されていて、どちらも他者との価値観の違いから、感情が揺さぶられ変化していく人間模様を描いています。
1作目の『レンタル世界』では、人間関係をレンタルすることを良しとしない主人公が、正反対の考えを持った女性に惹かれ、自分の考えと正面から向き合うことを余儀なくされるうちに、何年もの間気づかなかった衝撃の事実にたどり着きます。
2作目の『ままならないから私とあなた』では、親友との価値観の違いに気づいていたけれど、向き合おうとしてこなかった主人公の人生が、そのせいで思わぬ方向に大きく動きます。
相反する自分の価値観と相手の価値観。違うからこそ、人は他者に惹かれ、愛することができるのではないか。だけど、自分の存在をも脅かすほどのあまりにも大きな違いを受け入れることはそう簡単ではない。一緒に過ごした時間の長さと相手への理解は必ずしも比例しないという事実に、哀しくも気づかせてくれる一冊です。
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Posted by ブクログ
面白い本だった。面白いというのは、腹を抱えて笑ったという意味ではなく、興味深く考えさせられたという意味での面白さだった。
表題作ではユッコと合理主義者な薫という二人の異なる価値観をもった女の子の過去から現在を描く。薫は子どもの頃から、自分の物差しでいらないと切り捨てたものは一切手をつけない。
自分の体験の話だが、「おれは将来プロゲーマーになるから。家庭科、体育、音楽、美術、理科…とかは必要ないから受けない」と言っていた中学生を頭の片隅に思い出していた。中学校で習う全てのことは人としての土台になるもので、そこから徐々に自分の得意を見つけてそこを伸ばしたりするものではなかろうか。これはいらなかったなと切り捨てるのは大人になってからいくらでもできるのに、まだ中学生で土台もできていないのにも関わらず、自らの幼い物差しで選別しようとするなんてなんと傲慢な、とその当時は思った。でもそういう価値観を持った子どもに、わたしの価値観をもって説いても全く響かないものだと、今は思う。
物語でも、学生時代からその合理主義を遺憾なく発揮する薫に、若干の違和感や心のモヤつきを感じても何も言い返さないユッコ。言い返さないのではく、自分の体験や経験不足で自分の意見に自信が持てず、またこのモヤモヤをどう表現していいか分からないのだろうなと思った。
二人が大人になって、やっと二人の価値観をぶつけ合えたときは心が跳ねた。最初はユッコが優勢で、不便のなかにある出会いを一生懸命説くのだが、薫から「それってズルくない?」と強く言われてしまう。ユッコに完全に感情移入していたわたしは冷や水をかけられたようだった。確かに、薫のいうように、AIを自分の都合の良いところでは存分に活用しているから。しかし、AIが人間にとってかわるようなことになると急に人間のあたたかみが〜といって逃げる、と、薫の指摘は非常に刺さる。しかしユッコは最後にこう話す。
「人と人との関係だけは、効率とかじゃないんだよ。それだけは絶対に合理化できないし、何も省けない」
「確かに、できるようになった方がいいことっていっぱいあるけど。できないこととか、わからないこととか、コントロールできないこととか……そういうものが自分にもあること、そんなに怖がらなくてもいいんだよ。誰でもなんでもできるようになったら、皆同じになっちゃうから。ままならないことがあるから皆別々の人間でいられるんだもん」
人と人の関係は効率とかではなく、合理化できないって薫自身が今痛感してるからこそ、この言葉たちは薫に刺さったのではないかと思う。こんな面倒くさい価値観のぶつけ合いをするのは、お互いがお互いを想ってる証拠だと思うから。気持ちをわかってほしいから、言葉を尽くして話すってことは、相手のことを大切に想ってないとできないと思う。どうなってもいいって思ってたら、話し合いなんてせずにあなたとは分かり合えませんって一方的に決めつけて離れることもできるのだから。
「ままならないことがあるから、人間。」
ユッコの妊娠が判明し、薫がそう呟いて終わる最後のシーン。妊娠こそままならない。欲しいと思ってもできないこともあるし、今は仕事を頑張ろうと思っていてもできることもある。
一本目のように結婚していて奥さんと娘がいても、男の人としか急にできなくなってしまうこともある。
ままならないことがある人生。ままならないから自分は不幸だ、不運だと思うのは簡単だが、ままならなかったことが自分の人生の糧になり、成長できたと思えるようなその後にしていくことが大切なのではないかと思った。
Posted by ブクログ
価値観や考え方は人それぞれ、というのをこの物語を通して何度も痛感させられた。
どんなに言葉を尽くしても分かり合えない。自分がいつだって正しいと思い込み、それを相手に言い聞かせようとする。
たとえ親しい間柄でも、相容れない意見にぶつかり合うことだってある。
相手は偏った考えを持っていて、だから自分の常識を教えてあげないといけない、そんな傲慢さを誰しもが持っている。
自分の軸を持つのは大事だけど、正義にとらわれすぎない柔軟さも大事だと思った。
Posted by ブクログ
久しぶりに朝井リョウさんの小説を読んだ
「やっぱり好きだな」と感じた
文章がすーっと頭の中に入ってくるから読みやすい
それでいて考えさせられる
価値観が違うからそれを押し付けあうのは違う気がする
ただ、「ままならないから〜」の方は、努力型の雪子の性質を認めてあげることも必要なのではないかと感じる。だって幼い頃から雪子は薫の変?なところも認めてきてたから。
現代風刺のような本、とても面白かった
Posted by ブクログ
薫ちゃんズレてるな、と感じるのは私も前時代的なのかな
恋愛の描写がすごく好きだった
最後どうなったか描かれてないけど、主人公の性質を考えると夢を諦めて、結婚して子供を産むんじゃないかなって気がした
科学技術であんなことができるって分かったら私ならもう創作続けられないかも