桐野夏生のレビュー一覧
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2006年から2014年に書かれた作品を集め、2017年に単行本化された短編小説集。
「奴隷小説」というタイトルが不思議と全編に結び付いている。特に巻頭の「雀」「泥」や最後の「山羊の目は空を青く映すか」は奴隷化された存在をめぐる寓話的な物語だ。
この社会にあって、女性や経済的弱者は奴隷として扱われているようなものであり、それに対する怒りや悲哀を、桐野夏生さんは常々意識しているのだろう。
個々の短編小説は、一般的な短編小説作法の基準から言うとやはり「オチがない」「唐突に中途半端に終わる」感じがあって、型にはまった書法を嫌う桐野さんが短編を書くとこうなってしまうのかな、と思う。少ない紙数では十全に人間関係や主人公の変化を書き切れないし、長編にあるような「解放への脱出」に到達することも出来ない。多くの場合、一つの状況を描くだけで終わってしまっているような気がする。
桐野さんの場合は、短編小説分野は入門としてはふさわしくなく、この作家の作品世界をじゅうぶんに知った上で読むのでないといささか物足りなく感じるのではないだろうか。
とはいえ、象徴的な領域に描出された苦痛に満ちた世界イメージが示されている点で、楽しんで読んだ。 -
Posted by ブクログ
2010年単行本化、桐野夏生さんの長編小説。
今回は、面白く通読できるものの、桐野さんの作品としては幾らか物足りないものを感じた。たぶんその理由は次のような点だ。
(1)主人公はじめ主な人物は少年であり、いつもの「女性の視点」がほぼ無かった。
(2)小説ならではの心理描写はさほど優れず、プロットと行動・会話ばかりが浮上して、ジュブナイル風の平易な物語となっていた。
(3)社会システムや理不尽な「周囲の人びと」への怒りがあまり表面化されないのが、いつもの桐野作品と異なり、苦痛が控えめだった。
(4)桐野作品がしばしば体現する小説的形式の破綻が無く、「ふつう」に感じられてしまった。
2008年のリーマンショックにより日本では「派遣切り」など経済格差がいよいよ拡大し、貧困層が激増したが、こうした情勢に着想を得て、「破綻した福祉システム」下に生きるホームレスの少年たちを描いている。渋谷は廃屋が増え、半ばスラム化しているし、東京の地下には一部のホームレス少年たちが住み着いている。
どうやら一定の職を持つ富裕層は通勤し普通に暮らしているようなのだが、彼らの様子はほぼ描かれないし、そのような階層とのギャップや軋轢が作中にはほとんど出てこないのが、私としては不満に感じたのかも知れない。
現在15-16歳である主人公イオンは孤児で施設を脱走し都内の公園や廃屋をねぐらとし辛うじて生きている。都内でNGO「ストリートチルドレンを助ける会」に所属してホームレスの少年たちを援助しようとする「優しいおとな」モガミとイオンとの微妙に移ろう関係性が、小説全体の骨子の一つとなっている。
モガミとケンカしてイオンは「アンダーグラウンド」の世界に入り、そこで軍隊のような組織を模して暮らす少年たちと合流するのだが、この「地下世界」での少年たちを巡るプロットは、劇画調(今は劇画という言葉は無いのであれば、コミック調)であり、なんとなく大友克彦さんの「AKIRA」を思い出させるものだった。全体にコミックとしても表現できそうな本小説は、『残虐記』(2004)などと異なり、容易に映画化できそうである。
何故本書で心理描写が冴えないのかと考えてみたら、主人公が少年であり、ほとんどの登場人物が男性ばかりであるからかもしれない、と気づいた。極微の領域にかすかに変移する女性心理とは違って、抽象性に心奪われ単純で直線的なわかりやすい心情しか持たない男性心理を描くのは、よりシンプルな図像を描出することにしかならないのではないか。
少年イオンの心には明確な神話があって、幼年期に過ごした施設で出会った双子の年長の少年「鉄」と「銅」への強烈な憧憬が、あまりにも純朴でストレートな「少年の心」を支配している。
『OUT』『グロテスク』でも男性の心や経歴を描く時、そこには「神話」が露出されていた。『残虐記』では、不可知な男性の欲望を主人公の女性が勝手にあれこれ想像して「神話」を見いだすというプロセスが描かれていた。
桐野夏生さんは、女性とは異なる男性性の核心に「神話」を見いだし、いつもそこから現実的なるものと対立させながら「男性の物語」を奔出させる傾向があるのではないだろうか。たぶんこの「男性の抱える神話」は、「少年的なもの」なのではないだろうか。
そう考えてみると、桐野夏生さんの全小説という領野の中で本作が占めるポジションというものが、興味深く思われてくる。
ラストで明かされる「ハウスでの実験」は、『抱く女』(2015)にも登場するので、作家の着想のこのつながりにも驚いた。これは本書巻末の参考文献に挙げられている『洗脳の楽園—ヤマギシ会という悲劇』(米本和広著)なる本(もちろん未読)に着想を得たのではないか? wikipediaの「幸福会ヤマギシ会」の項目を見てみると、どうやらそのようだ。 -
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ネタバレ上巻が終わって、止まらず下巻に行ったのに、
急に時間軸が変わってて、ちょっと拍子抜けした。
でも、バラカの不幸はどこまでも続く。
読んでるうちに、
あー!そいつも悪いヤツか…となっていくので
誰が出てきても、
そいつもダメなんじゃないの!!
イヤイヤ、ソイツ信じちゃダメだろ!と、
そういう意味でハラハラしてた。
でも、最後イマイチ、伏線回収については消化不良感あり。
あんなに丁寧に描いてきたのに、結局父娘は再会しなかったかんかーい!と思った。
まぁ。
最後は、やっと穏やかな日常を取り戻せたようで良かった。
でも、戸籍とかないのにどーしたんだろうねー。 -
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開業医の川辺は、勤務医の内科医である妻に嫉妬心を抱いていた。
患者からも院内からも人気があり、同じ病院の医者と不倫関係にある妻に。
川辺は、鬱憤に耐えきれず、犯罪を重ねてしまう。それは、連続レイプ。
川辺、そのクリニックで働く看護師、川辺の妻カオル、川辺に苦しめられた被害者の女性達、川辺の同期。様々な目線を通して、一連の事件が追われていく。
夢中になって読んでしまった。
この物語の特徴は、ヒーロー的存在の探偵役を立てていないことだ。
川辺なる「犯人」を追うべく、様々な登場人物たちが、少しずつヒントを探り出してかき集めていく。その過程に惹きつけられる。
また、特別なトリックも凝った謎掛けもない。犯罪、行為全てを、私たち読者にストレートに提示している。
もうこうなったら、早く気づいてー!と、私たちは登場人物を応援するのみだ。
私は、看護師の青山さんが好きかな。
人間らしいずるさや弱さもあるけど、正義感もある。
面白い一冊でした!
桐野夏生さん、男性と思い込んでいたけど、女性だったのですね!
他の作品も読んでみます!
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ネタバレ
面白かったのは間違いない。読み始めたら止まらなくなり、「バラカ」という1人の少女の数奇な人生を、並走するように猛スピードで読みきった。
だが。ちょっと風呂敷広げ過ぎと言うか情報量多過ぎと言うか……。
上巻では、キャリアと財力を手にした四十路過ぎの独身キャリアウーマン2人が、それに飽き足らずドバイの人身売買組織から幼女を購入。その前に現れた元カレの悪魔のような策略により二人の運命が狂いだす。こういう女のルサンチマンを書かせるとホント筆者は上手くて、こっちはその醜悪さに閉口しつつも目が離せなくなる。
並行して綴られるのは出稼ぎで来日した日系ブラジル人の一家の日常だ。やがて失踪した妻と子を探して彷徨する夫。妻が傾倒していた怪しげな宗教団体は敵か味方か。
この失踪した妻に連れられた子供が主人公「バラカ」で、その後キャリアウーマンの養子となり、二つの物語は複雑に絡み合うのだが、下巻に入ると一転して東北で起こった大地震の「その後」の話となる。原発廃炉派がバラカをシンボルとして祭り上げ、敵対する推進派とバラカを巡って綱引き状態となる。
筆者が意図したかどうかはわからないが、この下巻には筆者の政治的スタンスが垣間見えたように感じ、(その是非はさておき)上巻とのカラーの違いに面食らった。
人の業が色濃く描かれていた上巻のほうが面白かったなあ。小説3本分くらいのプロットを一気に詰め込んだような満腹感がありつつも、結末は慌てて風呂敷を畳んだようにあっさりしていて、やや物足りなく感じた。 -
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ネタバレその昔、僕の友人がですね、桐野夏生の「メタボラ」を評して「ポップにグロい」と言っていたのですが、あの表現、まさに言い得て妙だなあ~、と思って、今頃感心しております。そうなんですよね。桐野作品、まさに、ポップにグロい。「ああ、これが現実社会なのか、、、そうなのか、、、」と突きつけられる容赦のなさ。その消費文化っぷり、そのグロさっぷり。あの表現、うん。まさに、桐野作品の真理を突いている気がする、と、この「緑の毒」を読んで、至極納得した次第です。
この作品、なかなか興味深いのは、連載時は、角川書店の雑誌「野生時代」に2003~2011年もの長期間にわたって、断続的に連載していたものなんですって。あしかけ8年に渡る連載!?長い。長いぜ。なんでそんなに長い年月かけて連載してたのかしら?そこまで、超大作でもない感じの作品ですし。謎ですね。ちょっと、ここらへんは、謎です。
あと、冒頭に、シェイクスピアの「オセロ」の一文が、エピグラフで挙げられてまして。嫉妬の怖さを言及した文章でして。で、小説の題名も「緑の毒」だし。green eyed monster. 緑の目の怪物。西洋では、嫉妬の色は緑色、って感じになるみたいですね。だからまあ、嫉妬は緑、というのが、この作品のテーマなのだろうなあ。嫉妬の怖さを描いた作品なのだろうなあ。
という思いで、読み始めたのですが、あれ?そんなに嫉妬、重要ではなくね?って思いながら読んでました。最初の章こそ、川辺康之が、嫁さんのカオルの不倫で嫉妬に狂って変になっていく感じを述べてましたけど、この川辺がマジ変人。カオルが不倫している事への嫉妬の気持ちで自分が逆に悦んじゃう、みたいなドMやないっすか。変態だなあ。
で、その嫉妬の気持ちの荒れ狂いっぷりから、水曜日の夜によなよな、連続レイプ犯罪をやっちゃうよ、みたいな流れ?になってるのか?って感じなのですが、、、嫉妬、関係ない気がするぞ?嫁のカオルが不倫してなくても、川辺、なんらかの犯罪に手を染めてたんではないのかなあ?というくらいに、なんだか変態です、この人。
で、いきなり最初から、主人公?って感じで登場した川辺はレイプ犯だわ、第二章になったら目線がレイプ被害者の亜由美に代わって、この亜由美の姉ちゃんは引きこもりだわ、で、うわあ桐野さん、、、相変わらず、えげつなく酷い物語を綴るなあ、、、ってこう、早速ね、鬱な感じになるんですけどね。
第三章になったら、やたらとこう、桐野さんっぽくないというか、普通な感じになってくる。若宮伸吾、登場。このキャラが、めっちゃ好青年。妹のルリ子がレイプ被害にあったことに、心の底から憤慨して、ぜってえ犯人とっつかまえてやる!ルリ子!お前の無念は、兄ちゃんが晴らしてやるからな!と意気込む麗しき兄妹愛。家族愛小説ですやん?バリに、真っ当に良い兄貴。うお?桐野さん。なんか、テイスト違わなくね?
って思ったら、こっから、なんかこうね、一気に物語が、ポップになるんですよ。しっかりグロいんですが、凄くこう、桐野的にマトモ、というか、なんというか。
嫌なキャラばっか登場するんではなくて、カオルの不倫相手の玉木は、なんだか爽やか男臭いキャラだし、ピーターフラット2の住人の、飲み会企画した本木 夢も、なんだか善人。川辺の、元共同経営者だった野崎 友秀なんかも、なんだか憎めない。
そんなテンションで、なんだか矢鱈とポップに、話が、、、進んでいく、、、という思いで一杯でした。川辺はマジで人間のクズ、みたいな酷い男でしたよ、ええ。レイプ犯だし、医院経営の方針も、全然親切にしない診療、がモットーのダメ経営者だし。でも、何だかほかが、あれ?案外、善人多いじゃん?とか思って、サクサクと読み進めてしまいました。不思議な感じだった。
が、まさに「ポップにグロい」というそのまんまの評価となる気がする、そんな一作でしたね。
ってか、性犯罪、絶対いかんよ。ダメですよダメ。川辺にレイプされた被害者の女性たちが、どうしても警察に被害を届けたくない、と、しり込みしてしまう気持ち、これはマジで真実なのだろうなあ、、、そこだけは、マジで真摯に受け止めたい。性犯罪と幼児虐待は、マジでダメだよ。ということを、肝に銘じたいですね。そんな思いは、確かに感じました。
物語の最後も、川辺は、えらくアッサリと捕まる感じで、若宮伸吾、どっから絡んできてたのよ?という感じでいきなり登場して、ちょっと微笑ましかったですね。で、川辺の後日談を全然描写しないところとか、桐野さん、クールやなあ、とか思う。最後の章の、描き下ろしの話の主役ポジションの人物が「お前じゃないが仕方ない」の海老根 たか子ってか!というのも、うーむ。潔い。たか子、沖縄のいきつけの飲み屋で、じろじろ自分を見てたオッサンに、キレてるし。そんな終わり方も、うーむ。なんだか、いさぎよい。 -
購入済み
昔からこの方の絵は大好きです。今ではちょっと古臭く感じる方もいるかもしれませんが、とても綺麗に描き込まれていて素敵です。この短編集は以前どこかで見たことのあるものもありましたが、久しぶりに森園みるくさんの作品を見れてよかったです。