桐野夏生のレビュー一覧
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一読後、うーむと頭を抱えてしまいました。
不条理な環境に置かれた主人公をどこか突き放した視点から描くいつもの桐野さんらしい筆致は楽しめたのですが、多くの作品が長編のプロローグのように思え、この続きを読みたいという欲求不満ともやもや感が残ってしまったからです。
シンプルといえば確かにそうなのかもしれませんが、桐野さんレベルの書き手だったらもっともっと掘り下げた部分までじっくり描いて欲しかったなあと感じました。
収録された7作の中で一番読みやすくて面白かったのは、やっぱり「神様男」でした。
現代の地下アイドルを取り巻く歪な構造が悪意とユーモアを交えて描かれていますが、この作品だけが現代日本を舞台 -
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桐野夏生『奴隷小説』文春文庫。
帯には『様々な囚われの姿を容赦なく描いた7つの異色短編』とある。確かに変わった設定の、イヤな後味を残す短編ばかりが収められている。が、最初の2編はまあまあ面白かったが、3編以降は次第に尻窄みといった感がある。
『雀』。恐ろしく、おぞましい物語。どういう設定なのか解らぬままにストーリーは展開し、この物語の全貌を知るとき、何とも言えぬ不快感に襲われる。他人に決められた好きでもない男との結婚は女性にとって、さぞや苦痛なのだろう。
『泥』。突然、囚われの身になった女子高生たち。これも気持ちの良い物語ではない。泥の下には…
他に『神様男』、『REAL』、『ただセッ -
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あまりに健全すぎないか!?ってびっくりするくらい、イヤミス的な読後感の憂鬱さがなかった。なんだろ、村のミロシリーズとかよりもぜんぜんさわやかな感じ。ここ数作は読んでなかったんだけど、最近こんな路線なのか?
ゆるふわのアナ、姉御肌のリーダーエリス、近くて遠いシュン、と設定としては定型的なのに、掘り下げて夜の闇みたいに深い奥行きを出しているのはさすが。一生ついていきます。
ただ、宗教がらみに話を展開しちゃうとこ、個人的に食傷気味だったので少し退屈だった。東直己がわりとやるのよ。尤も東直己は消費者問題とかと絡めて現代の軋みを炙り出すんだけど。純文学的な文脈で新興宗教を扱うのであれば、ひとひねりないと -
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どんな感情に仕分ければ良いのだろう。
男に襲われた女性たちの悲劇を、興味深く読めば良いのだろうか。書いているのも女流作家。だからと言って被害者の本質を正確に投射できているのだろうか。正直に言うと、技巧を凝らした勧善懲悪モノとしてエンターテイメント調に描かれているものの、男女の不倫や事件を少し軽率に扱い過ぎではないのだろうか。少女漫画によくある人間関係の歪みが織り成す闇と、その闇に魅了された読者の視聴率稼ぎ。イヤミスというジャンルはそんな人間の欲望を知りながら、嘲笑と共に生まれてきたのだろう。しかし、人間ドラマとしてこうした一面がある事を潔癖に拒絶してはならない。多様性を受け容れ事が成熟であり -
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誰もが当人にしかわからない事情を抱えている。
そして、誰もが自分にしか通用しない正義を信じている。
物語に登場する人物は、何があっても最終的に悪いのは他人だと思っている。
自分にも悪いところはあっただろう、でも、それ以上に悪いのは他の人間だと・・・。
吐き気がするほどの身勝手さが、服を着て話し、偉そうに自分の正義を押し通す。
映画に魅入られ、映画・・・映像と関わることを職業として選んだ人々。
でも、本当に好きなのは映画ではなく、自分自身。
名声や人気が何よりも大切で、欲しいものだのだ。
実力以上に自分を評価し、周囲が認めてくれないと腹を立てる。
監督としての実績もなく、力量も未知数なのに、我を