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Posted by ブクログ
鶏が検閲をしたり、天使を作ろうとして鳥の化物ができてしまったり、創世記でヒトを作ろうとしているときの会議の様子やケンタウロスや車の性についての話、営業マン・シンプソン氏によって勧められる不思議な機械。。化学者でもあり、アウシュビッツを生き延びた著者によるものであるからなのか、科学的で自由な発想で書かれているのだが、どことなく皮肉めいている。あまり読んだことはないんだけど、星新一や渋澤龍彦のような感じもした(個人的に)。
4,5話くらいあるシンプソン氏の機械の話は、本全体を読みすすめていくと楽しみになってくる。今度はどんな機械が出てくるのだろう・・・と。シンプソン氏が出てくるものでは「完全雇用」が好きだなぁ。機械というより、ハチなどの昆虫と会話をして色々協定を結んだりするものなんだけど。でも、最後の「退職扱い」は読んでいて薄ら寒くなった。ハチとも会話をしたシンプソン氏があんなことになってしまうなんて。
○「退職扱い」より
哀れなシンプソン! 彼の人生はもはや終わったも同然だ。NATCA社のために何十年と真面目に働きつづけたというのに、同社の最後の機械によって排除されてしまったのだ。(中略)死を意識しながらも、シンプソンはけっして怖れていなかった。すでに六回、それも六回とも違うパターンで体験ずみだったのだから。それは、黒ラベルのテープのうち、六本に刻まれていた。
あとから考えてみると、その機械によって廃人同然になってしまったこと、死についてのテープがあったこと、そしてそのタイトル(考えすぎかもしれないけれど;)・・・背筋がぞぞっとしてくる。科学技術も使い方を誤ると怖いものだ。。
プリーモ・レーヴィの他の著作も読んでみたいなぁ。
Posted by ブクログ
人類は天使になる途中のネオテニーである、という仮説のもと行われた残酷な人体実験をめぐる表題作ほか、ブラックユーモアに満ちた幻想SF短篇集。
今の気分に合っていて一気に読んだ。シンプソン氏という営業マンが登場するシリーズが楽しい。藤子AでもFでもあるような、アシモフやフレドリック・ブラウンを思いだすような、漫画的でライトな読み味が懐かしい。
シンプソン氏が売りつけてくる機械は、2025年から見るとハッとするほど正確に未来を予見している。ChatGPTそのものみたいな〈詩歌作成機〉、原子レベルから複製できる3Dコピー機〈ミメーシス〉、他人の思考と感情まで体感させてくれるVR装置〈トレック〉などなどをサラッと開発、商品化しているシンプソン氏の勤め先については、アメリカの企業であること以外謎のまま。作者のレーヴィは化学者でもあったらしいけど、シンプソン氏はあくまで科学をビジネス視点で評価する。
例えば顔の美醜を測る装置がでてくる話では、絶対基準の美とは何たるかを語る野暮は冒さず、基準を客に委ねることで購買意欲が上がるんだ、と意気揚々と語る。コント的なオチだけど、美の基準はわが社にあるなんてことは言いださないところがしたたかだ。
最後にシンプソン氏はVRにハマり、語り手にも売り込んでくる。これが体験提供者の視界だけでなく、感覚とか感情とか思考まで全部記録して追体験できるというシロモノなんだけど、面白かったのが、説明を聞いた語り手が「提供者側は全部記録されていることを意識しているだろうし、その意識すらもVR体験者は追体験することになりますよね」と疑問を投げかける。するとシンプソンは「そうです。でも記録されているという意識を脳の片隅に置きながら目の前のことをやるっていうのは、VR体験者が自分はVR装置をつけていると意識しながらVRを味わうのと同じようなものだから違和感もじきに慣れますよ」みたいなことを言う。このやりとりが今っぽいなぁと思った。
シンプソンもの以外では、車同士で感染する病から与太話が繰り広げられる「猛盛苔」、サナダムシの細胞からジョン・ダンみたいな詩を読み取る「人間の友」が〈異常論文〉系のSFで面白かった。「ケンタウロス論」ではノアの箱舟を降りた後の生き物たちはこぞって異種交接をした、その結果が現在の地上の豊かな生態系であってケンタウロスもそこで生まれたのだ、とまことしやかにケンタウロス視点の創世神話が語られるのも楽しい。
表題作「天使の蝶」は、レーブ教授という名前からプラハのゴーレム伝説のラビを連想した。もしそこから名前を引いているとしたら、ユダヤ人救済のシンボルを作った人がナチを思わせる人体実験をした研究者のモデルになっているという、キツい皮肉だけど。
今読んでも新しいとか、珍しいモチーフがあるというわけではないけれど、古典的なネタを上手に料理して、科学によって人類が陥る袋小路を描きながら、あくまで軽い作品に仕上げているところに凄味がある。だいたい同世代の同国人であるカルヴィーノが、小説の「軽さ」を重要視していたことを思いだす。
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