原題も"Frankenstein"、初出は1818年。
フロストシリーズで毎度テンポの良さとユーモアに富んだ訳で唸らせてくれる芹澤恵さんによる新訳。芹澤恵さん、こんな古典ものの翻訳もされているのねー、これからも色々と読みたい訳者さん。
書かれたのが200年前というのがまず驚くし、作者は執筆当時、2
...続きを読む0歳の女性だったということにまた驚く。ちなみにメアリーは17歳のときに妻のいる男性と駆け落ちし、駆け落ちの旅行中で本書を執筆した。その妻が自殺して20日後に結婚したらしい。スキャンダラスすぎるし、今の時代からみても倫理的にどうなんだと思う。しかし本書の序文には、「筆者の主な関心は…(略)、家族の愛情の尊さと普遍的な徳の素晴らしさを示すことにある」なんてあったりもする。前妻が聞いたらキレそう。
そういえば確か、ミドルマーチやジェイン・エアの女性作家たちもなかなかの経歴だった。当時の女性作家たちが、常識の枠にとらわれず、想像の翼を広げる人たちだったからこそ世に出た作品群なのかもしれない。
メアリーのことはおいといて、フランケンシュタインである。これが、驚く完成度の高さ。古さを全く感じさせない。めちゃくちゃ面白くてびっくりする。人造の怪物として名前は知られているけど、実は怪物に名前はなく、フランケンシュタインは、この怪物を生み出した科学者の名前である。
北極点到達のため、船で探検の旅に出ていたロバートは、北極海で瀕死の青年を救出する。その青年がフランケンシュタイン。彼は何故北極海を彷徨っていたのか、その理由を語るのだ。
彼は生命の謎を解き明かし、人間のように複雑で素晴らしい生き物を作り出すという研究にのめり込む。しかし自ら作り出した人工の肉体に生命を吹き込み完成させたい結果、あまりにも醜い異形の怪物だった。
恐れをなしたフランケンシュタインは体調を崩す。怪物がいつのまにか研究室から抜け出ていたのを野放しにしたまま、故郷のスイスに逃げ帰る。
しかし、故郷では愛しい弟が何者かに殺される事件が起きていた。さらには、家族のように接してきた善良な娘が捕まっていた。あの怪物の仕業だと思うフランケンシュタインだが、恐ろしい研究のことを言い出すことができず、無実の娘が死刑になることに苦悩する。
そしてついに邂逅することとなったフランケンシュタインと怪物。創造主から見捨てられた怪物は、苦難の旅を続けながら、ある一家の暮らしをつぶさに観察して言語や愛情を学ぶものの、その容姿ゆえに人間には受け入れられず、孤独感を募らせていた。怪物は、フランケンシュタインに、自分の伴侶となる異性をもう一人作って欲しい、この願いが叶えばもう二度と人前には現れないと約束する。
もう一人の怪物を作る手筈を整えるフランケンシュタインだが、土壇場で、人類に禍をなすことを恐れて破壊する。怒った怪物は、フランケンシュタインの大切な者を殺していく。
怪物を退治するために追っていたフランケンシュタインは、ついに北極海に辿り着いたのだが…。
色々なところで見聞きしたことのある怪物の恐ろしげな容姿が脳裏にあるのだが、私が一番感じたのは、この名もなき怪物が可哀想だなということ。
生まれたての子供のように純粋で、知性もあり、愛情を欲しているのに、誰からも受け入れてもらえない怪物の孤独感、「自分は何者か」という苦悩、唯一の理解者たり得るはずの創造主からすら見捨てられたという絶望感。
大切な者たちを殺されたフランケンシュタインの怒りはもっともでもあるけれど、怪物を創造したことで彼が感じているのは人類に禍を引き起こすことの責任だけで、怪物の未来への責任などではない。禍々しいと断じ、死しか望んでいない。これでは本来的には怪物でなかったとしても怪物になってしまうよね。
最後まで息つかせぬ展開。はっきりとした描写ではなく、読者の想像に委ねられている部分もあるラストだった。