あらすじ
先史時代の鳥類のような奇怪な骨を見つけたのは、廃墟と化した大戦後のベルリンのアパートの一室だった……化学者でもあったプリーモ・レーヴィの世界観が凝縮された表題作「天使の蝶」をはじめ、傑作「ケンタウロス論」、「転換剤」「完全雇用」など15篇。アウシュビッツ体験を核に問題作を書き続け、ついに自死に至った作家の、本邦初訳を多数収録した傑作短編集。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
SFでありながら非常に詩的で神話的で終始背中にぞくぞく来るものがあった。もうどこまでも私好み。以下激しくネタバレ。///シンプソン氏のNATCA社シリーズは、3DプリンターやVRの超すごい奴が出てきたりして、思わず私たちの「これから」に思いを馳せずにはいられない。にしても「検閲は鶏に」とか「測定される数値こそが美」とか痛快なまでの皮肉と「痛みこそ生の番人」というような真理が同居してるし、トレックで女優さんのハプニングとか細部に至るまでもう本当すごい。蜂の話とかも面白かったのに…辛いなぁ。何度でも読む。
Posted by ブクログ
今の時代を見ているようで
非常に恐ろしいように思えます。
と、言うかこれからの人間への警告も
含まれているのでしょうか…
彼は化学者でもありました。
それゆえに、これらの未来の商品に関しては
本当に洞察力がありました。
そのうちの一部は出てきています。
だけれどもその中には絶対に
日の目を浴びてはいけないものもあります。
表題作も然り、痛みを快感に変えるそれも…
著者はどこかに心の闇があったのでしょうか
最後は自殺してしまいます。
貴重な方をなくしましたね。
Posted by ブクログ
化学者で作家のプリーモ レーヴィ短編集。科学者としての知識が微妙に醸成され、ブラックユーモアでクスリとしてしまう独特な世界観を持ったお話揃い*
Posted by ブクログ
イタリア作家の短編集。抜きん出た寓話性で人間や社会を抉り取る。が、あまりに滑稽で皮肉が効いている語り口はストーリーが排除されていて、読み手が物語に入って感動したり、考えさせられるという作風ではないので、最初は取っ付きにくかった。
しかし、徐々にこの作家の作風に馴染むに連れて、その深みに引き込まれていく。読み終えた今となっては断言出来る。紛れもない傑作短編集。必読!
Posted by ブクログ
鶏が検閲をしたり、天使を作ろうとして鳥の化物ができてしまったり、創世記でヒトを作ろうとしているときの会議の様子やケンタウロスや車の性についての話、営業マン・シンプソン氏によって勧められる不思議な機械。。化学者でもあり、アウシュビッツを生き延びた著者によるものであるからなのか、科学的で自由な発想で書かれているのだが、どことなく皮肉めいている。あまり読んだことはないんだけど、星新一や渋澤龍彦のような感じもした(個人的に)。
4,5話くらいあるシンプソン氏の機械の話は、本全体を読みすすめていくと楽しみになってくる。今度はどんな機械が出てくるのだろう・・・と。シンプソン氏が出てくるものでは「完全雇用」が好きだなぁ。機械というより、ハチなどの昆虫と会話をして色々協定を結んだりするものなんだけど。でも、最後の「退職扱い」は読んでいて薄ら寒くなった。ハチとも会話をしたシンプソン氏があんなことになってしまうなんて。
○「退職扱い」より
哀れなシンプソン! 彼の人生はもはや終わったも同然だ。NATCA社のために何十年と真面目に働きつづけたというのに、同社の最後の機械によって排除されてしまったのだ。(中略)死を意識しながらも、シンプソンはけっして怖れていなかった。すでに六回、それも六回とも違うパターンで体験ずみだったのだから。それは、黒ラベルのテープのうち、六本に刻まれていた。
あとから考えてみると、その機械によって廃人同然になってしまったこと、死についてのテープがあったこと、そしてそのタイトル(考えすぎかもしれないけれど;)・・・背筋がぞぞっとしてくる。科学技術も使い方を誤ると怖いものだ。。
プリーモ・レーヴィの他の著作も読んでみたいなぁ。
Posted by ブクログ
人類は天使になる途中のネオテニーである、という仮説のもと行われた残酷な人体実験をめぐる表題作ほか、ブラックユーモアに満ちた幻想SF短篇集。
今の気分に合っていて一気に読んだ。シンプソン氏という営業マンが登場するシリーズが楽しい。藤子AでもFでもあるような、アシモフやフレドリック・ブラウンを思いだすような、漫画的でライトな読み味が懐かしい。
シンプソン氏が売りつけてくる機械は、2025年から見るとハッとするほど正確に未来を予見している。ChatGPTそのものみたいな〈詩歌作成機〉、原子レベルから複製できる3Dコピー機〈ミメーシス〉、他人の思考と感情まで体感させてくれるVR装置〈トレック〉などなどをサラッと開発、商品化しているシンプソン氏の勤め先については、アメリカの企業であること以外謎のまま。作者のレーヴィは化学者でもあったらしいけど、シンプソン氏はあくまで科学をビジネス視点で評価する。
例えば顔の美醜を測る装置がでてくる話では、絶対基準の美とは何たるかを語る野暮は冒さず、基準を客に委ねることで購買意欲が上がるんだ、と意気揚々と語る。コント的なオチだけど、美の基準はわが社にあるなんてことは言いださないところがしたたかだ。
最後にシンプソン氏はVRにハマり、語り手にも売り込んでくる。これが体験提供者の視界だけでなく、感覚とか感情とか思考まで全部記録して追体験できるというシロモノなんだけど、面白かったのが、説明を聞いた語り手が「提供者側は全部記録されていることを意識しているだろうし、その意識すらもVR体験者は追体験することになりますよね」と疑問を投げかける。するとシンプソンは「そうです。でも記録されているという意識を脳の片隅に置きながら目の前のことをやるっていうのは、VR体験者が自分はVR装置をつけていると意識しながらVRを味わうのと同じようなものだから違和感もじきに慣れますよ」みたいなことを言う。このやりとりが今っぽいなぁと思った。
シンプソンもの以外では、車同士で感染する病から与太話が繰り広げられる「猛盛苔」、サナダムシの細胞からジョン・ダンみたいな詩を読み取る「人間の友」が〈異常論文〉系のSFで面白かった。「ケンタウロス論」ではノアの箱舟を降りた後の生き物たちはこぞって異種交接をした、その結果が現在の地上の豊かな生態系であって、ケンタウロスもそこで生まれたのだと、まことしやかにケンタウロス視点の創世神話が語られるのも楽しい。
表題作「天使の蝶」は、レーブ教授という名前からプラハのゴーレム伝説のラビを連想した。もしそこから名前を引いているとしたら、ユダヤ人救済のシンボルを作った人がナチを思わせる人体実験をした研究者のモデルになっているという、キツい皮肉だけど。
今読んでも新しいとか、珍しいモチーフがあるというわけではないけれど、古典的なネタを上手に料理して、科学によって人類が陥る袋小路を描きながら、あくまで軽い作品に仕上げているところに凄味がある。だいたい同世代の同国人であるカルヴィーノが、小説の「軽さ」を重要視していたことを思いだす。
Posted by ブクログ
怒涛のレーヴィ第一弾。
プリーモ・レーヴィが何者か、知っているか否かで読みが大きく変わるだろう。
天使の蝶、詩歌作成機、転換剤、トレック……字面の上に過ぎないが彼の体験を知っている者としては、すべての物語がある一点を指しているように思えた。
それにしても……しんぷそおおおおおん
Posted by ブクログ
表題作の''天使の蝶''、''人間の友''と''ケンタウロス論''は特に読んでほしい。
言葉で他人に説明するのは難しいけれど、私は私の目隠しが少し薄くなったように感じました。ああ、そうだったのか!って、分かった瞬間に、何でそんなふうに思ったんだ?って忘れてしまうような、そんなよく分からないお話です。
解説を読んでから再び読むとまた違った見方が出来るのでとても奥深い一冊です。
Posted by ブクログ
作者が科学者だという事実を先に知ってしまったからなのか、
全体的に作品が骨格張って、別世界のレポートを読んでいる様な
感じがしました。それはとても良い意味で、です。
起承転結の[結]の部分が曖昧なのが憎い。そして面白い。
Posted by ブクログ
ユーモアセンスに溢れたプリーモ・レーヴィ幻想短篇集なんですが、彼のアウシュヴィッツでの体験記や、そこからの帰還を綴った自叙伝を先に読んでしまうと、素直に楽しめないのも事実。『ケンタウロス論』に代表される、レーヴィの幻想文学ではお馴染みの動物系シリーズもどこか悲しげ。それに反して、「シンプソン」シリーズは楽しんで読めます。
Posted by ブクログ
彼の人生を知っている分、読んでいて深読みして本当に読んでるのがつらくなったりもしたんですが、基本的にユーモラスなお話でした。かなりブラックユーモアだけど。純粋にお話としてとても楽しめて、考えさせられる部分もやっぱり本当に本当にあって、うーん…ケンタウロスみたいにレーヴィが引き裂かれてたとしたら、読んでる側も引き裂かれるんだなあ。お話を楽しんでる気持ちと色んなことを考えてしまって胸がつまるのと、両方あって、どっちにも振り切れないです。でも間違いなく良い本だと思う。心から、レーヴィの小説がもっともっと翻訳されてほしいと思います。
Posted by ブクログ
原著1955年刊。
ユダヤ系イタリア人で、戦時中アウシュヴィッツに収容されたが、大学で化学を学んだことが幸いし、奇跡の生還。その後出版したアウシュヴィッツについての証言『これが人間か』(旧邦題『アウシュヴィッツは終わらない』)を出版し、これがじわじわと評判を呼ぶ。
そんな特異な経歴を持つ作家レーヴィはどんな小説を書いたのだろう、と素直な興味を持った。しかし実際に読んでみると、ソフトなSFといった趣の軽いエンタメ物語で、ここには「異常な体験」も「人間存在の深淵についての意識」も認めることはできない。
まあ、暇つぶしに読むような、軽いエンターテイメントという感じがした。あのアウシュヴィッツ生還者のレーヴィの、と思って手に取るのでなければ埋もれてしまいそうな小説集である。
この短編集の中では「天使の蝶」「ケンタウロス論」辺りはわりあい面白かったか。
Posted by ブクログ
ロダーリ、ブッツァーティを翻訳した関口英子さんによる現代イタリア作家3人の作品を全部読んだけど、どれも良かった。この短編集は、強制収容所から帰還した、科学者としてのレーヴィの体験が大いに生かされた作品。程よくウィットが効いている。好きだったのは「転換剤」。怖いけど、こういうものあってもおかしくないんだよね。一部作品は連作のようになっているのも面白い。2012/434