吉川トリコのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
******引用******
「こんなこと、あたしが言うことじゃないかもしんないけど、いや、べつにいいんだけど、花ちゃんの好きなようにしていいんだよ。この部屋で眠りたいだけ眠って、あのパンをつぶして食べようがつぶさず食べようが、そんなことはどうでもいい。好きにすりゃいいよ。なんにも文句言わない。でも、」
そこでなっちゃんは一旦、言葉を区切った。鏡の中、目だけはそらさないで。
「誕生日までにいっこだけ、なんでもいいから欲しいものを見つけなさいよ。そうしなきゃもう遊んであげないよ」
厳しい口調ではなかった。子どもをなだめるような優しい声だった。でもそれは命令だった。
―― 『しゃぼん』 p.82 -
Posted by ブクログ
R-18文学賞受賞作「ねむりひめ」に表題作「しゃぼん」「いろとりどり」「もうすぐ春が」の3作を加えた全部で4つの短編。表題作のサイドストーリーもあるため、収録順に読むことをオススメします。一貫して「少女」の目線で描かれているので、読み手を選ぶ作品であることは否めません。男性には理解し難い部分もいくつかあるのではないでしょうか。女性になろうとしている途中の少女は見透かされているような気持ちを、かつて少女だった女性は自分の面影をどこかしらに感じるかと思います。露骨な性描写はありませんが、それぞれの関係性が妙にエロい、雰囲気エロな1冊だと思いました。漫画を読んでるみたいに、さらりと読めます。むしろ漫画にしたら結構面白いんじゃないか。全体的に結構イライラする感じの女性が出てくるのは、というか、出てくる女性にそう感じてしまったのはなぜなんだろう。何年後かに読み返せば、答えがハッキリするのだろうか。
-
Posted by ブクログ
「ふつう」の家が、いかに大変か。ルームツアーやインテリアが大好きなのでいつかは私も家を建てる、もしくはリノベーションで自分の理想を詰め込んだ城を建てるんだ!と思っていたのでこのエッセイ、というか家を建てる実録のような本は面白かった。吉川さんの小説がすきでご本人のエッセイは初めてながらも隅々に感じ取れるフェミニズムや脱プラスチック、など一見癖に取られる部分も、一人の人間としての吉川さんのこだわりが見れるのも良かった。まだまだ家を建てるという事は家族しかも子どもがいるを想定した男性の持ち物というのは売り手側のアップデートは追いついていないのだなと感じる憤りは私にも体温が感じるようだった。書斎やキッチンは男女関係のない言葉なのに性別の代名詞のよう。画して、無事に家を建てるとなるとまぁこんなにも思考と話し合いを1年以上しあわなければ完成しない労力…あまりに多忙。家を建てるイコール打合せと書かれているが、普段の生活仕事をしながらこなせるのだろうか、注文住宅の大変さ。全ての家に物語がある、本当に家を建てるのは金銭的な面以上に精神的な面でも尊敬する。
しかし多忙であっても建てる前の準備が一番のピーク。楽しさとはここにある。生活が始まればたちまち毎日「ふつう」だというけれど、人間は不便は常に意識し快適は気が付かないのだと書かれていて、家を建てる事を通して一大イベントに相当する人生の気付きを得られたのだと思った。
やはり私も自分の思いが詰まった家をいつか建てたい。きっと金銭的な理由で色んな事を断念しなければならず思い通りに行かないかもしれないけれど、家が一番好きな場所になるのが人間として一番幸せだと感じる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ子どものころから母に「ちゃんと貯金しなさい」と言われて育ち、お年玉をすべて没収はされなかったけれども、もらったものは大半を銀行(自分の口座)に預けるのが当然で、ある程度溜まったら定期預金にしていた。結果的に、大人になってから、少し安心できるくらいの貯金になったので、それはメリットだったけれど、「お金を使うのが下手だな」という自覚がある。若いときにもっとバカみたいな注ぎ込み方をしておけばよかった。年を重ねると、どうしたって守りに入る……というか、使えるお金に体力がついていかなくなる。
母から受け取った呪いのひとつが「お金がなくなったら困るでしょう」という不安だ。
生活レベルを落とすことに恐怖に近い不安があり、今と同じくらい稼げなくなったらどうしよう、と思い切った使い方ができない。
「生きてるうちは生きなきゃいけない」は、ジワっと刺さる。
余命2~3年と区切られた途端に、それならばと豪奢なお金の使い方ができる気持ちは分かる気がする。
まじめで、節約家で、地味なOLに見えた主人公・唯は、だんだんとちょっと価値観がおかしいよね、と歪んでいき、ピンクの髪をした、派手な、ホストである瀬名の方がまっとうにすら見えてくる。
「キャバクラって究極の接客業じゃん」というようなことを言ってたのは、ハッピーマニアのシゲタだったか。
ホストだって、姫たちのことをよく見て対応しないとやっていけない。そこをうまく泳ぎ切ってきただけのことはある、ということか。
二人は家族関係も正反対。
金銭に困っていなくても、家族関係が歪んでいる唯と、家族やご近所さんとの人間関係はよさそうでも、金銭的な問題を抱えている瀬名。
母から受け継ぐ呪いはいろいろあるけれども、唯は、早くに母を亡くしたことで、それを解く機会も失っていたのかなと思う。
荒療治のようなお金の使い方と、ありえないような人間関係から、その呪いが一気に解けたのかもしれない。
最終的に、実稲という義理の姪に引き継ぐ形で、キルトの趣味をうまくつなげられたのは救いか。
キルトもだけど、ひと針ずつ手を動かす系の趣味は、どうしたって重たい。
母を亡くしたばかりの子どもに対する配慮は必要だろうとは思うけれども、再婚した唯の継母が、家中に使われていた、前妻手作りのキルトを一掃した気持ちは、分かる。
それにしても、結果的には、みんなから「イケメン」と言われる人と、なんだかそれなりに楽しそうな生活を送っているのは、そこだけはちょっとうらやましい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ100分で読めるとあるようにサクッと読むことが出来た。
全体として、ややご都合主義的な展開に感じる部分もありつつ、愛生の恋が実ってほしいと思わせる魅力があった。アーティストでありながらアイドルとしての役割を求められる苦しさには人間味があり、自然と続きを読み進めてしまう作品だった。
一方で、最後に明かされる実は恋愛ゲームだったという展開には意外性を感じたものの、愛生に対して「クソミソホモソ野郎」という表現が出てきた場面では、少し白けた気持ちにもなった。
ゲームのキャラクターや“推し”という存在は、結局のところフィルター越しに見た表面的な魅力を好きになっているだけで、自分の解釈と異なる部分や人間臭さが見えると、どこか距離を置きたくなるのかもしれない。
普段、私たちはさまざまなものを消費して生きているが、消費する側は消費される側の内面にはあまり関心を持たない。むしろ、そこに踏み込むこと自体に忌避感があるのではないかと考えさせられた。
本作は、ゲームという枠組みの中でキャラクターという存在をメタ的に捉え直し、「自分はどういう視点でそれらを見ているのか」を問いかけてくる点が印象的だった。
表示されていない作品があります
セーフサーチが「中・強」になっているため、一部の作品が表示されていません。お探しの作品がない場合は、セーフサーチをOFFに変更してください。