京極夏彦のレビュー一覧
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ネタバレ期待通り楽しく読むことができた。
今までの作品と比べると、舞台となった日光の歴史についての言及が多く、トラベルミステリー的な要素が強かったように感じた。本作初登場の緑川佳乃は、病理学者として地方大学の医学部で助手をしていて、中禅寺や榎木津、関口と幼馴染でもある。小柄だが非常に聡明なキャラクターで、今後の作品で活躍しそうな予感を抱いた。
毎度の事ではあるが、京極堂の説教は心に沁みる。しかし、本作の京極堂の説教は他作品とは違う印象を受けた。以下、少しだけ触れておく。
「違うんだよ緑川君。...。化け物とは、異った文化習俗を持つ他集団との間に生まれる恐怖、軋轢や齟齬そのものなんだ」
中略
「化け物は、人と人、文化と文化の間に置かれる緩衝材のようなものなんです。...」
中略
「居ないものを居ることにすると云う優れた文化はどうやら廃れてしまったようです。...」
これらのフレーズからは、メタフォリカルなモノの捉え方が軽視され、科学的合理主義や個人主義的思想に時代が移り変わっていくことに対して京極堂が諦観の念を抱いているように読み取れ、切ない気持ちになった。本作の時代設定は昭和29年であり、歴史的には高度経済成長期に突入する前年という時代設定だ。
日本がこれから先進国へと成り上がっていく変革期にあって、時代の流れに翻弄されながらも逞しく生きるキャラクターの姿に勇気をもらった。
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ネタバレ女性が殺害され、周囲の人間に被害者の人柄について嗅ぎ回るケンヤ。“知り合い”としか名乗らず最後の章まで正体は明かされなかった。ただ被害者の周囲の人間に被害者について尋ねるも、自らの現状や生い立ちについて語り出し、しまいには生きることが辛いという結論に各々至る。それに対し、ケンヤは「なら死ねばいいのに」と言葉を浴びせる。
結果的に女性を殺した犯人であるのはケンヤだが、肉体関係を持っていた上司や度を超えた誹謗中傷をしていた隣人など、被害者を自らの欠点のかき消しのために利用していたりと、人間の暗い部分が浮き彫りになっていた。やはり人間関係では皆相手のことを見ているようで、自分が最優先なのだと、また善良な一般市民だと謳いたいだけなのかもしれないと思った。 -
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貧乏長屋で起こる出来事の謎。困惑する差配の藤介を前に、
解き明かすのは、引きこもりの若き本草学者・久瀬棠庵。
「虫のせいですね」江戸の長屋を舞台にした連作奇譚ミステリー。
馬癇・・・祖父を殺したと孫娘は言った。
しかし棠庵は殺しではないと言う。
気積・・・長屋のおきんは己之助に虫が付いたと言った。
己之助は飯を食べられなくなって、塩を撒けと言う。
脾臓虫・・・同じ在所の娘が首を吊ったと幸助は言った。
彼女の勤める料亭で食事をした4人の死は虫?と伍平は言う。
蟯虫・・・金兵衛長屋での庚申講は虫のせいかと金兵衛は言った。
その講の人々の前で根岸は凶の対処法の咒を言う。
鬼胎・・・根岸との縁、棠庵が長屋に来た訳を藤左衛門は言った。
本当に鬼胎は鍼でしか治せないかと里江は言う。
脹満・・・店子仲間から勧められる縁談に困惑してると棠庵は言った。
「この人は飢えていますね」え、2倍も太ったのにと藤介は言う。
肺積・・・助けられた棠庵に会いたいとお登勢は言った。
すべては終わったのにお登勢はこの長屋に残ると棠庵は言う。
頓死肝虫・・・厄日か?殺しに誘拐等々、藤介は天手古舞に
振り回される。そんな彼に自分は病葉だと棠庵は言った。
藤介は奔走し知恵を絞って指図し、事件は解決へ。
あたしも病葉だよ。
あんたと欠けてる処が違うけどねと藤介は言う。
ある程度世間知はあるが、本気の度合いが緩い差配の藤介。
本草学者で知識はあるが、人の心が分からない久瀬棠庵。
そんな二人に、クセツヨな貧乏長屋の面々や、
藤介の父で隠居家業?が長い藤左衛門も交えての、
お江戸長屋が舞台の連作奇譚ミステリー。
花を添えるのは、石黒亜矢子の素っ頓狂な挿画。
「虫の所為ですね」「虫とは関係ありません」
長屋という狭い世間に関わる、人死、自殺、乗っ取りの謀、
誘拐等々が発生し、世間は広がります。
各話導入の会話は長くて、ちょっと煩わしいけれど、
落語の長屋噺での八っつぁん、熊さんの会話を念頭に置いて
読めば、なかなか面白く味わえました。
藤介と棠庵、なんか病葉バディ爆誕?
また『耳嚢』の作者が登場したり、著名人の名前が出てきたりで
棠庵自身の謎が深まったし、お登勢の今後を考えると、
続編が書かれる予感がします。いえ、書いて欲しいなぁ。 -
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江戸時代で、貧乏長屋の面々と差配さんとの掛け合いとくれば、落語ですね。京極作品らしい蘊蓄もでてきますが、妖怪ではなく虫ですから、いつもよりいろんなことがシンプルです。起きている出来事も剣呑ではありますが、人の浅はかさ特に欲がらみとなると、落語の定番ともいえましょう。
落語だと物知りはご隠居などのご老人が多いですが、本作では久瀬棠庵なる二十歳そこそこの長屋の住人です。博識ながら棠庵は人の気持ちが分からない、自分の心は欠けているといいます。しかし、藤介が指摘したように、余りにもいろいろ見通せるために一つ所に感情を寄せられないように思います。そもそも心なんて得体のしれない物です。自分の感情だってコントロールできない。そんなあやふやなものを頼りにするのは、判断基準としてはおっかないことかもしれません。とはいえ、法や理だけを基準にしたのでは、やはり割り切れないものも零れるものもあるのでしょう。まさに、智に働けば角が立つ情に棹させば流される。人の世は住みにくいですねえ。
しかも藤介が言うように、欠け方が違うだけでそれぞれみんな心の裡は歪なんだと思います。君も病葉、われも病葉。真理なんてものがお分かりの方はそれで宜しいが、そうでなければ欠けていることを自覚したうえで、道義的に譲れないことを基準にして、何とかやっていくしかないのかもなとか思いを巡らせました。 -
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巷説百物語シリーズの第6作目
舞台を江戸末期の遠野へと移し、盛岡藩筆頭家老の密命で巷に流れる噂話を調べる宇夫方祥五郎を主人公に物語が展開する。
全部で6話。
どの話も遠野の昔語りから始まって、巷の話、事件の当事者の話、最後にそれを解体する話という構成。
昔語りの遠野の方言はなんとも味がある。
ここまでのシリーズでも登場している
長耳の仲蔵、亡者踊りの柳次が主に妖怪変化の仕掛けを施して事件を解決していく。
今回は座敷童のような女の子、花が良いアクセントになっている。
又一が八咫の鴉(やた の からす)として最後の話「出世螺」に登場する。
これで続巷説百物語の後の話だとわかった。
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京極夏彦の和風ミステリー『鉄鼠の檻』、分冊文庫版の2巻。
禅僧・小坂了稔殺害事件捜査のため、明慧寺で聞き込み捜査を行う山下警部補ら警察一行。「修行中の僧侶の脳波を測定する」という当初の目的を進める名目で、警察らと共に明慧寺へと向かう関口、敦子、鳥口ら一行。そんな最中、新たな殺人が発生する。老師・大西泰全が雪隠(便所)に頭から突っ込まれ、脚だけが出ている状態で発見される。禅僧二人が殺害されたことで「次は自分が殺される」と怯えるのは典座・桑田常信。この事件について、彼は何を知っているのか―――。
京極堂による「憑物落とし」、まずは禅宗の歴史・系譜のお勉強を兼ねての第一回(多分)。明慧寺の成り立ちと寺内に混在する禅宗分派、飯窪女史が明慧寺に脳波測定を依頼した理由(過去の事件)、過去のとある事件をきっかけに精神を患い土牢に閉じ込められている前の典座・博行(etc.)。次々と提示される事件の背景を語るための材料。読んでいて解ったつもりでいるが、間違いなく解っていない私。最終的に余すことなく纏め上げるんだろうなぁ・・・京極先生、マジパネェっす。 -
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百鬼夜行シリーズ待望の十作目。永らく出なかった新作だけあって悦びも一入、じっくりと時間をかけ味わって読ませて戴きました。
嘗て読み漁ったシリーズ作品の懐かしき登場人物達の躍動に心躍るばかりです。
肝腎の内容に関しては相変わらず圧倒の一言に尽きます。一体何うやって斯様な御話を考えているのか。此が一人の人間の脳味噌から出て来ると言うのが俄かには信じられぬ程です。
巻末の解説で小川哲氏が触れていますが、本作の圧巻は何と言っても其の「構造(構成)」でしょう。一つ一つは独立した違う御話に見える複数のパートで構成され、謎が解明に近付くにつれ其々が連関していきます。然し全てのパートが収斂し、真相に至ろうとした瞬間、一気に全体像は胡乱になってしまう。
正しく作品の構造それ自体が鵼という化け物のメタファーになってしまっている。脚が虎だと云う事は見れば分かる、頭が猿だと云うのも判る、胴が狸で尾が蛇だと云う事も又然り。然しその集合体であるところの本質は一体何なのか。一見したところでは容易に正体が摑めない。何やら妖しげな化け物の相(すがた)が立ち現れる。
期待に違わぬ労作、価値有る読書となりました。因みに以下のフレーズが気に入っております。
むずかりたいですなあと鳥口は云った。
それを云うならあやかりたいだろうと御厨は思
ったのだが、益田もトラキチも何も云わないので
黙っていた。 -
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とりあえず三部作の一作目。
なんだこれ?
名だたるホラー作家が実名で登場している。
妖怪が現代に現れ、世の中が大混乱。
水木しげるが憂い、荒俣宏が奮闘する。
会話文が多くて、今までの京極小説っぽさがない。
大御所がラノベ書いたらこんな感じなのか?それにしても語彙が多くて、会話文だらけの展開でもどこか新鮮で面白い。
端役だったけど、岩井志麻子が男性に刺されそうになって逃げてるところがツボだった。妖怪関係なく身の危険にさらされる女流作家。
黒史郎さんがいい人なのに貧乏くじ引くのがほほえましい。ダゴンみたいのに憑かれて可哀そう(だけど笑える)
ちゃんとした感想は最終巻まで読んでから。
今のところは面白い。バ●とか●ねとか中学生みたいな暴言多く、もしかしたら読む人選ぶ可能性はある。だが、私は好きな一冊。 -
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『絡新婦の理』で事件に翻弄された美由紀と、京極堂の妹で雑誌記者の敦子が探偵役となる3篇。京極堂とその悪友(?)3人は登場しないけれど、百鬼夜行シリーズでお馴染みの面々が登場してきて、雰囲気は随分賑やかである。
ある意味普通を地で行き、十代ならではの素直な感覚をいかんなく発揮する美由紀と、理性的であろうとすることが信条の敦子は、互いに足りないところを補い合える良いコンビだった。密会場所となるのが、駄菓子屋というのも楽しい。『天狗』に登場する(いつぞやかの榎木津に結婚式を滅茶苦茶にされた)美弥子も含めて、京極先生の描く女性というのはどことなく清々しいのは何故だろうか。3篇とも人死にが出ていて物騒極まりないのだが、周辺の要素がそんな感じなので、軽やかに読み切ってしまう。
一番気持ちが良いのは、事件終盤の美由紀の啖呵のシーン。普通の女子高生……なはずだけど、楽観的を通り越してものすごくメンタルが強い。精神の強靭さがずば抜けている。
シリーズの若い男性陣からほんのり好意を寄せられる敦子だが、第三者視点で描かれる人物像と、本人の思索思考とに差があるのも興味深かった。あと、3篇のタイトルが『鬼』『河童』『天狗』といつになく抽象的だったのは、京極堂自身が登場しないからか。美由紀と敦子の認識範囲の中で設定可能なキーワードのような。
なにはともあれ、テンポよくスカッと感じられる一冊だった。分厚くて重いのが難点だけど、またいつか読もうと思う。