山本一力のレビュー一覧
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家庭の中にはさまざまな喜びと悲しみ、悔しみ、争いがひしめいている。
幸せそうに見える家族でも苦しみがある。
それは事実で、当事者は大きな心労を抱える。
小説とはそういう苦しみ、そして人間の業のようなものを描きながら、それらを否定しては生きてはいけない人間を慈しむ物だと感じている。
本作品は上方からやってきた豆腐職人が良き伴侶を得て、周囲の人々に助けられ努力の末成功する、そんな「良い話」で進みながら、家族間の思いの行き違いで家庭崩壊の道を辿るが最終的には家族が力を合わせて新しい道を進んでいく、というなんともベタなストーリーに思えてしまう。
話の中盤からのみんなに好かれていたはずの働き者で心優 -
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1人の青年が仕事と恋愛に葛藤する様子を描いた作品です。
愛する気持ちをいつの間にか知っても、その愛が続くとは限らない。そんな誰もが経験するリアルが描かれています。
恋愛は不誠実なのに仕事は誠実。
何に対しても一直線に一生懸命で、目の前のこと、目の前にいる人を大切にする主人公健吾の生き方は、不思議となんだか憎めません。
物語ではワシントンハイツとの出会いが、後の健吾の人生に大きな影響を与えています。
私達も誰かや何かとの出会いが旋風となり、一瞬先の未来の自分と、遠い知らない誰かまで届いているのかもしれない。そう思うと、人生が少し愛おしく感じる気がしました。
社会に出たばかりの青年時代を懐 -
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山本周五郎、藤沢周平に続く凛とした時代小説の作家だと思う。
「万両駕籠」「騙り御前」「いわし祝言」「吹かずとも」
と連作長編。
江戸時代にはいろいろな職業があった。損料屋とは庶民に鍋釜ふとんをわずかなお金で貸すなりわい。侍だった喜八郎の仮の姿、転職組み。このキャラクター、ストイック。紺木綿の薄着で素足、背筋が通っている。目に力、かすれ声、若い。
その喜八郎が奉行所を辞めて損料屋になるについてのいきさつからこ憎い面白さ。役人の保身はいつの時代でもあるのだなー。ってあたりまえかな。
田沼時代のバブル崩壊後、札差という金貸し業が上に取り入り陰であくどくかせぎ、のさばるのを彼がある方法で、あ -
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東京の下町にあるその名も『深川江戸資料館』のなかで一日を過ごしているような小説。
『深川江戸資料館』とはは知る人ぞ知る、江戸の町並を等身大で再現してあり歩けるスペース。あたかも江戸時代にタイムスリップしたような感じ。裏だなあり、火の見やぐらあり、白壁の土蔵あり、掘割、船宿、屋台、長屋の部屋、お店の造り、店先の品物など芸が細かい。吹き抜けになっていて上からのぞくと江戸時代の上空から見たよう。
登場人物の生きた時代を宝暦12年からと、かっきりと切り取って、背景の歴史的事実も調べて書き込んである、真実味が増すではないか。
まして、テーマは家族愛。実に身につまされること、穴があったら入りたくなる -
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昔、飛行機の中で、著者原作の映画「あかね空」をやっていて、妙に印象に残っていたので、別の江戸ものを読んでみようと思い手に取った。
駅伝は中学時代の3kmのみ、マラソンは柴又の60kmが自身の最長距離なので、金沢-江戸 間をそれより早いスピードで踏破する飛脚の脚力には脱帽だ。あっという間に読み終えた。
惜しいのは、松平定信の加賀藩虐めの動機にイマイチピンと来ないところ。政策レベルでは、現代の感覚では飛んだ愚作である棄捐令(借金棒引き)を出して信用大収縮をお越し、その善後策としての加賀藩虐めでは、隠密政治力をフルに発揮する、という、力の入れどころが何かとチグハグな徳川政治。
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玉枝は、深川の料亭「江戸屋」の女将である三代目秀弥の一人娘。周囲の人々の温かく、時に厳しい目に見守られながら、老舗の女将としての器量を学びつつ一人前に成長していく。山本作品にたびたび登場する四代目秀弥の少女時代にさかのぼり、母から娘へと受け継がれる江戸の女の心意気を描く、波乱万丈の物語。(カバーより)
時代物一辺倒の夫が感想を聞きたい、というので大至急読みました。
はい、凛として筋が通っていて好きですよ、こういうの。
ちょっと妬けますがね。
だって美人で、能力があって、器であるのですもの、ヒロインが。
しかし、なかなかのいい文章で、時代がよくわかります。
作者のお人柄でしょうか、 -
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「たすけ鍼」の続編です。
前作「たすけ鍼」を読んだのが2017年で、内容がうろ覚えだった為(我ながら、星だけつけてレビューを書いていないし・・(;´∀`))、前作を再読してから本書を読みました。
深川のスーパー鍼灸師・染谷先生を巡るあれこれ六話が収録されています。
人々の身体の不調を治すのは勿論、人助けや世直し的な相談まで受けてしまう染谷先生。
朋友の漢方医・昭年先生との老年になっても仲良しな感じは微笑ましいものがあります。
第五話「つぶ餡こし餡」第六話「立夏の水菓子」は、続いているので二話で中編ともいえます。旧知の菓子屋夫妻が渡世人(いわゆる“反社”みたいな人達)に付け入れられて染谷先生に -
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第126回直木賞受賞作品
親子二代の家族の絆
やはり、家族とはいえ、いや、家族だからこそ、お互いの気持ちを理解することは難しい。
互いを思いやるが故にすれ違う気持ち。
しかし、最後はやはり家族の絆がしっかりと描かれています。
また、本作では、悪役は一人。他は悪役っぽかったりしますが、人情熱い人たちばかりでした。
ストーリとしては、
江戸に下った豆腐職人の永吉。そして、その永吉を手伝ううちに夫婦となったおふみ。
しかし、京の豆腐は江戸ではなかなか受け入れらません。
そんな中、二人が力を合わせてその苦労を乗り越えていくのが前半。
そんな二人には、長男栄太郎を授かってから、徐々に不幸と行き違いが -
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ネタバレ上方から身一つで江戸へ下ってきた永吉が、深川の裏店で豆腐屋”京や”を開く。上方と江戸の豆腐の違いに悩みながらも、真摯に豆腐作りに打ち込み、やがて表通りに店を構えるまでになる。
それは、永吉の確かな腕と質の良い大豆を贅沢に使う製法だけでなく、おふみの明るく行動力のある支えや、嘉次郎のアドバイス、相州屋の女将の陰の支え、そういった人に恵まれたことも大きかっただろう。
しかし、その一方で、おふみの両親を含めた、永吉と家族の間には、不幸な出来事も多く、永吉が亡くなった後は、京やはどうなってしまうのだろう、、、と気が滅入る展開が続いた。
あとがきで触れられているように、著者の作品には『家族力』がテーマ