山本一力のレビュー一覧
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主に熟年夫婦を題材にした8つの時代短篇小説。
山本さんのデビュー当時の私の書評には「どの作品も時代小説らしいしっとりした情緒の中で、物語が悲惨にならずポジティブです。そして爽やかな読後感が得られます。そこが山本一力さんの魅力ですね」とあります。
その後、数作は江戸の庶民、特に小商人を主人公にした成功物語が次々に出され、気持ち良く読ませて貰っていました。
しかし、多作になるにつれ物語が荒れて来て、新刊に手が出なかったり、たまに手を出しても失望したりを繰り返してきました。
この作品は、失望とまでは行きませんが、やはりどこか「急いだ」感じや「手抜きとは言わないが、十分に詰めてない」感じがします。
せ -
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江戸、浅草で「だいこん」という一膳飯屋を営む若い娘「つばき」の半生。「つばき」が炊いたご飯は天下一品。きっぷが良く、思ったことははっきり言い、自分が信じたところを突き進む。
「人が働く様は美しい。」「中途半端な才覚よりも、誠実であることの方がはるかに尊い。」
山本一力は、江戸という時代、深川・浅草という下町で様々な生業で地道に生きる人々を丹念に描く。しかもその多くは親子の姿。そして粋・器量・心意気。
「梅咲きぬ」は老舗料亭。「あかね空」は京風豆腐屋。 「菜種晴れ」は天ぷら。「かんじき飛脚」は飛脚屋。「まとい大名」は火消し。「だいこん」は一膳飯屋。もうここまでくると、一冊一冊の作品の善し悪しで -
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気迫で「炎のほうが逃げていく」と言われ伝説となった父、命を賭した火消しを継いで成長してゆく息子。火消し親子の物語。
火消しに命を張る男たちの誇り高い姿と男の見栄を描いた江戸火消しの心意気と人情。
「武家は命を捨てる覚悟が甘くなっている。」「火消しにはぶっとい骨の通った男たちが、群れを拵えております。この稼業で絶対にやってはならねえのが、筋違いの振舞いなんでさ。」
「ひとつの間違いが仲間全員の命を危うくする。ゆえに現場の状況が読める格上の者には断じて口答えは許されない。短く答えて、ただちに動く。これが火消し社会の絶対の掟。」
山本作品には、滔々と流れていくような清冽さや震えるような心理描写はな -
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「三度飛脚」は、江戸・金沢間570kmを毎月3度、夏場なら5日間で走り抜く。平場なら15kgの荷を担ぎ一日に80km走り抜く。しかも、「同じ側の手足を同時に出すのが飛脚の走り方。体がよじれなくてすむため、見かけには不器用でも長い道中を行くには身体にやさしい走り方。」本当だったらすごい。
「筋」は、幕府の棄損令による世情の不満を転化するため、外様への仕掛けを強める。取り潰しを防ぐため加賀から秘薬「密丸」を運ぶ三度飛脚とそれを阻止するお庭番の攻防という流れだが、「本筋」は飛脚達の生き様、それを取り巻く人たちの思い。
筋としては多少無理があり、もう一つに見えるかもしれないし、終章の攻防にそれぞれの思