小川洋子のレビュー一覧
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ネタバレある小父さんの一生。
始め、彼が亡くなった所から過去を遡る描写は衝撃だった。この物語を全く知らずに読んだためだ。どこまでが姪(私の中では)の語らいで、どこからが小父さんの語らいなのか。
流れるよう描写展開は美しかった。静に始まり静に閉じる。ある意味、人から見た人生ってこういうもんだよなとか思った。本人はそこに感情が重くのしかかるから、動的な人生であったろうが、話として大きな展開が少ないと感じるのはまさにそういう事ではないのだろうか。
1つ無くしたら次の拠り所を探した小父さんが段々とそれらの悲しみを感じ生きるのは辛くも感じたが、始めから最期までことりは彼の傍にいたのだった。 -
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◼️ 小川洋子「最果てアーケード」
上手いな、と思う。クローズドな世界と、孤独。
昨年「猫を抱いて象と泳ぐ」を読んで以来、折りにふれ小川洋子を手に取っている。著者の居住地=自分の地元近くが舞台が多い、というのもあるが、その独特なクローズドの世界と繊細な設定、発想、描写が好きだからでもある。
古びたアーケードの商店街。既製品から切り取ったレースを売る店には、とにどき客に遺髪を持ちこまれる。紙とともに古い、使われた絵はがきをたくさん置いてある店、シンプルな揚げドーナツを売る「輪っか屋」、ドアのノブだけが商品で、ドアを開けると人が座れる窪みのあるドアノブ屋、さまざまな店に囲まれて育った少女の私は配達のアルバイトにいそしむ。父は、火事で亡くなったー。
これまで読んできた長編のほとんどで、主人公が特異な生活をしている。クローズドな空間、なんというか、自分のポリシーやこだわりに沿った、常人の域からは少し外れたような領域を持っている、でも本人にとっては居心地のいい、なくてはならない箱庭のような世界である。それが著者の特徴と捉えている。
舞台となっている最果てアーケードも似たような感がある。ただ、今回は、古い商店を見て誰もが抱いたことのある、どんなお客さんが来るんだろう、何を売って商売が成り立っているんだろう、という好奇心に応える側面と相半ばしている。話を読めば怪しくもなく、真っ当な店と温かい住人たちの話だ。
少女の目を通して見る、まだ狭い、でも懐かしい、昭和の社会とちょっと変わったエピソード。好奇心、ほのぼの感、そして悲劇と孤独感。
設定と、商売と、人情のはざまに横たわる、底知れない喪失感と孤独。とても上手に織りなし編み込んでいる。連作短編は面白いことに長編と変わらないテイストがある。この発想どこから湧くの?と思うこともしばしば。
私的にお薦めの1冊。 -
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【短評】
『博士の愛した数式』で名を馳せた小川洋子による「舞台」をテーマにした短編集。
バレエに憧れを抱く少女が手繰る工具達の舞台。帝国劇場に住み着いている「失敗係」という謎の人物。舞台のパンフレットに役者のサインを貰うことに心血を注ぐ女性。帯に記載されていた物語の断片が非常に魅力的であり、平素の好みとは違う領域であることを承知で、惹かれるように手に取った次第。
うーん。評価が難しい!
決して厚くは無い一冊に8つの掌編が納められているからして、展開は実にシンプルだ。構成・構造のお話をするならば、例えば「バレエに憧れを抱く少女が手繰る工具達の舞台」という物語は、それ以上でもそれ以下でもなく、そんな物語なのである。驚くべき展開や意外な結末に帰着することはない。また、意図的なものか、登場人物が全体的に作り物めいていて、その心の動きも含めてやや不気味さが先行した話もあった気がする。
捉え何処の無く、それでいてどこか綺麗な(これを以て「幻想的」というべきか、私には分からない)文章で綴られた景色は、舞台を見ているような目まぐるしい美しさに満ちていた。各話の評価は、そうした空気感がハマるか否か、というところに尽きる。
「嗚呼、これは良い劇を見たな」とか「今回は外れだったな」とか、そんな風に摘むのが良い作品なのかも知れない。
① 指紋のついた羽 ★★★☆☆
綺麗なお話だなぁと嘆息するともに「あっ、こういう感じね…」となる作品。個々のシーン単位の美だけが印象に残り、それ以外の要素は滑り落ちていったような感覚。あと、少女も縫い子さんも何だかちょっと怖い。何故だろう。
② ユニコーンを握らせる ★★★☆☆
かつて女優だった伯母の元を訪ねる高校生。普段はぼんやりとした伯母が、コップの底に描かれたかつての舞台の台詞を演じる際のきりっとした感じが印象に残る。何かが残ったようで、何も残っていない(逆もまた然り)といった作品。
③ 鍾乳洞の恋 ★★★☆☆
意味不明。「歯」ではない何らかの病を抱えているのだろうが、脈絡のなさと気持ちの悪さが先行してしまった。残念。
④ ダブルフォルトの予言 ★★★★☆
良かった。帝国劇場に潜む「失敗係」という題材で長編一作書けるほどに魅力的だと思った。歴史と伝統ある劇場にはそんな不思議が紛れていても良いだろう。また、事故保険金で『レ・ミゼラブル』を全公演観劇するという試みも魅力的だ。雲散霧消しがちな本作品のなかで、自分の感性に最もヒットした作品である。
⑤ 花柄さん ★★★★☆
これも好き。割と収集癖がある類の人間なので、花柄さんが宝物を集め、宝物に囲まれて眠る幸福感は何となく分かった。小さく、密かで、ささやかな人生の潤い。これもまた舞台の魔力なのだろう。花柄さんが幸せな夢のなかで眠ることを願う。
⑥ 装飾用の役者 ★★★★☆
④及び⑤にはやや劣るが、これも好み。コンパニオンなる仕事のことは良く知らないが、個人的な劇場を設置し、人間を住まわせる(人生を演じさせる)という老人の歪んだ愉しみには、ぞっとする美しさがあった。一方で、この話を通じて何を思えばよいのだろう、という感覚は拭えなかった。
⑦ いけにえを運ぶ犬 ★★★☆☆
協奏曲に聴き入る男が「馬車の本屋」を回想するお話。協奏曲パートと過去パートがマッチしておらず、特に前者が流れる。「馬車の本屋」については、既視感のある話で、意外性に乏しかった。
⑧ 無限ヤモリ ★★★☆☆
収録作のなかでも特に変な話で、登場人物が全員不気味。ただ、少年がジオラマに消えていくラストシーンは何故か印象に残っている。
全体的にチューニングに苦戦した感のある読書となった。
そんななかでも鮮烈な印象を残す景色が幾つかあったのは収穫である。 -
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ある国で監禁された8人の人質たち。子供の頃のちょっと不思議な経験、あれはなんだったんだろうと微笑みながら思い返す記憶、心のどこかにしまっていた物語がしずかに厳かに語られる。
ひとりひとりの物語が色鮮やかで、だけれど、きちんと完結しており、この話にはこの語り方、この長さが最適解。でもずっと苦しいのはそれがラジオから流れて来た人質のひとりのみんなの命をかけた人生の朗読会だから。
自分の中にも物語があるのではないかと考えてしまった、けれど、ろくな物語はなさそうです。
俳優の佐藤隆太さんの解説が唯一の光となり、もはや物語の一部でありひとりの人質だったのかもしれません。