あらすじ
弟はあの病室のあのベッドの上で、完璧に優しかった――
病に冒された弟と姉との時間を描く表題作、海燕新人文学賞受賞のデビュー作「揚羽蝶が壊れる時」、
第二作品集収録の「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」。
揺らぐことのない美をたたえ、みずみずしい輝きを放つ秀作群。
作家小川洋子の出現を告げる最初期の四篇に、著者あとがきを新たに加え、カバーデザインをリニューアルした新装版。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
博士の愛した数式が良かったから他の読も〜と思って、小川洋子が好きという人からおすすめされて読んだ。短編です。けど、4つあるうちの3つは苦手だった。(冷めない紅茶は良かったよ)
はっきり言うと胸くそ系だと思う。でも、主人公の心の中で思っていることや自分が嫌悪する世界を見る視線の残酷さ、悲しいことに、認めたくないんだけど、それはどこかで知っている気がする。それを言語化して突きつけられると、だとして何?って言いたくなってしまう。自分の中に心当たりがあるが故にこうやって怒りのような気持ちが湧いてくるんだと思う。不快感、というか不愉快感?
はぁ〜、まじでここまで変態性を描かれてしまうと暗い気持ちになるよ。でも、だとして何、を感じるのが小説を読む醍醐味でもあるからな〜。久しぶりに自分の許容範囲を越えたという点では読んで良かったし、何を伝えたかったんだろうとすんごく悶々とさせられた。そしていつまでも記憶にも残ってしまうんだろうけど、決して好きではない。だかしかし高評価は押さざるを得ない。
あと、あの人なんでこの本をわたしにおすすめしてきたんだろう…?(ザワザワ)みたいな気持ちにもなっちゃった。。
Posted by ブクログ
終始、肉体も心もともに、グロテスクで、生々しくて、不穏で、でも静謐で、美しくて。
筋肉、指先、感情。
何かの始まりさえ、生々しい感情のさざなみに溶け込ませてしまう。
なんだかんだ優しく、時に残酷に、主人公たちの、何かが欠如してしまって、死を、喪失を、心にぽっかり空いた穴を埋めていく。
あとがきまで、これら四つの短編と同じくらい生々しくて不穏ででも最後には光がさして。
静謐が身体を、読者である私の身体を貫いて、一塊が胸の中に残り、一塊は風になって消えていくような。そんな読後感でした。
なんだろう、この満足感は。それでいて、もっと小川さんの小説に浸っていたいと抱きしめたくなる感情は。
表題作の「完璧な病室」と最後の「ダイヴィング・プール」に既視感があった。なんだか語っていることは似ているようで似てないようで、既視感があると言いつつラストの描写は相反していて。
何年かあけてまた読み返したくなる。
新装版が出るほど愛されるのが納得だ。
Posted by ブクログ
デビュー作の「揚羽蝶が壊れる時」を含む、初期の四作品を収録。
「揚羽蝶が壊れる時」の中で、「正常と異常、真実と幻想の境界線なんてあやふやで、誰にも決定できないもの」という文章に、小川作品の原点を見たような気がします。
ものすごく優しい視点で描かれた、グロテスクさと美しさの混じり合った独特な世界を堪能することができました。
四編とも死や喪失感を思わせるような作品なのですが、表題作の「完璧な病室」が特に良かったです。
21歳で亡くなった弟の記憶、安らかな病室、張り詰めた空気。
「完璧」という言葉がとてつもなく哀しく聞こえます。
銀杏の黄色から雪の白へと移ろいゆく季節の中で、息もつけないくらいに静かな美しい世界に身をゆだねることができました。
あとがきもとても素晴らしかったです。
Posted by ブクログ
小川洋子を前にするとどんな自分の文章も気に入らなくて何も書けなくなるな。
読むことができてよかった。新装版を出してくれて本当にありがとうございました……。
Posted by ブクログ
表題作の「完璧な病室」は、大学の自主ゼミで集中ゼミの課題図書になった関係で、8人くらいのメンバーで一段落ずつ音読をして議論していく、というレベルの精読をしたこともあり、かなり思い出深い小説だった。当時は、コピーで読んだので、手元に小説を持っていなかったのだが、自分で小説を書いているときに、まったく書き進まなくなってしまい、何か参考にしたい小説があるかと思い返したとき、自分で買い直すことにしたのが、この本である。
初読の時から、文体と内容が合致しているというのは、こういうことを言うんだろうと思ったことを覚えている。ガラスや水、雪、真っ白な病室といった細かな描写が、常に白く、透明であることが、白血病によって少しずつ命を削られていく弟の体の衰弱に重ね合わされていく様は、物語の展開に文体が常にマッチしているような感覚を与えられる。白血病は、少しずつ弟の身体から血の気を失せさせていく。ある意味、透明に近づいていき、死という形で完全に透明になってしまう弟というテーマが、冒頭から続く、透明なものの描写の積み重ねによって、すでに表現されているのだろうと思う。
だからこそ、汚いものの描写が、物語の中で際立つことになる。手術室でチョコレート膿疱になってしまった内臓が摘出される場面と、夫がビーフシチューを食べる姿が重ね合わされるシーンなんかは、最も対照的になるシーンだろうと思う。人が美味しそうに食べている姿を見て、グロテスクな手術のシーンが語られる様子は、食べるという生きていくために必要不可欠な毎日の行為が、いかに汚いものとして、語り手の目に映っているのかを、よく表している。
それとは対照的なのが、弟がぶどうを食べるシーンだ。そもそも弟は、決まった品種のぶどう以外の食べ物をどんどんと食べることができなくなっていってしまう。それは、真っ白で清潔な病室の中での出来事であり、食べられなくなるということによって、弟の存在は、清潔になっていくように感じられるのである。
なぜ、語り手にとって、生活というのは、そんにも汚く、醜いものになってしまったのだろうか。それは、母の描写として描かれることになる。
精神的な病に罹っていた母が家事をする家の中は、常に混沌として、汚れていた。その最も象徴的なエピソードとして語られるのが、庭に放置されたショートケーキのエピソードである。母は、どういうわけか、お皿に乗せられたケーキを庭に放置してきてしまう。当然のことながら、そこには大量のアリがたかる。その虫にたかられたケーキをしっかりと見てしまい、処理することになったのは、娘である語り手だった。
こんなにも食べ物が、食べるという行為が、気持ち悪いものとして描かれる小説もなかなかないように思う。その気持ち悪さの生々しさが、この小説では凄まじい。
語り手の語りには、弟の死を、美しい記憶として残しておきたいという強い思いが感じられる。そんな感覚に共感してしまい、この小説が、自分の小説の一つのお手本にしたいと思うくらいに、好きになった。大好きな誰かとの思い出は、美しい思い出としてしまっておきたい。
大切なものを、大切なものとしてしまっておくには、どのように過去を語ればいいのか。その語りのあり方を感じ取るのに、最良の一編だと、未だに思っている。
Posted by ブクログ
完璧な病室 生活感のない、完璧に清潔な弟の病室に惹かれる私。そこに完璧に溶け込む綺麗な弟と、いつまでも一緒にいたい。一方、食べるという行為や生活そのものに嫌悪感を抱いている。その不快さを、これでもかというくらい気持ちの悪い描写であらわしていて、こちらまで食欲が無くなりそうだった。
揚羽蝶が壊れる時 一緒に暮らしていた祖母(さえ)は痴呆症になり、今まで信じてきたものを一つずつ忘れて胎児に遡っている。わたしのお腹では、祖母の痴呆症が進むのと同じ速度で、わたしとは違う塊が密度を増していく。
揚羽蝶の標本を握り潰したあと、この人はベイビーをどうしたんだろう?カレンダーを破いたのは祖母とのお別れの意味?自分が認識している世界が正常か異常か分からない、というのが印象に残った。全体的に抽象的な表現が多くて、難しかった。このお話は、読者に何か伝えたいというよりは、著者が書きたいことを好きに書いたという感じなのかも。
そういえば、小川さんの本で人物の名前が出てくるのはちょっと珍しい。
冷めない紅茶 中学の図書室司書だった女性が、ライオンゴロシについて話す場面が面白かった。美しい人が、恐ろしい植物の生態について語っている。
「一緒にいる楽しさよりも、いないつらさでその人の大切さが胸にしみる時、わたしはその人を特別に愛することができる」 愛することが完全な形になるには、頭で理解するだけじゃ足りなくて、やっぱり痛みが必要なんだ。
ダイヴィング・プール 孤児院に生まれた、唯一孤児じゃない私。自分に何かとりとめのない気持ち悪さが取り付いていると感じる。家のアルバムは集合写真ばかりで、私は大勢の中に紛れている、それを切ない気持ちで眺める。「アルバムを閉じるパタンという音を、自分の家が孤児たちの間で押し潰される音のように聞く」 普通の家族らしい生活が奪われているように感じたんだろうな。孤児と自分が同等に扱われることに嫌な感情を持ってしまうこと自体、自分が嫌なヤツになりそうだし、複雑な立場だなと思う。「自分も孤児だったら良かったのに」という思考も理解できる。孤児院での生活のやるせなさを癒すため「残酷な気持ち」中毒になり、純を中和剤とする日々。表現が強烈だから引いてしまいそうになるけど、彩に限らずこういうサイクルに陥ること、あるよねと思う。
Posted by ブクログ
学生の頃に冷めない紅茶を読んだのが小川洋子さんの読み初め。具体的に何が、ということがうまくつかめないながらも心に残って好きな小説でした。今回30年ぶりの再読でまた同じ感想を抱き、小説の素晴らしさとともに、相変わらず言葉にできない自分を感じました。
Posted by ブクログ
「博士の愛した数式」を読んで以来、小川洋子の小説やエッセイに夢中になった時期もがあったのですが初期の作品も読んでみようと初めて買った文庫本でしたが積読になってました。
この人にかかると、毛穴から汗が吹き出して止まらなくなるような表現力が呪縛のようにねっとり絡んできて息苦しさを覚えて少し距離を置いてみたくなったんですよね。
この人に睨まれると動くことさえできずに直立不動になってしまうほど緊張します。よそ見してる隙に逃げ出したくなるのですが、またこっちを向いたら制止してヘビに睨まれたカエルとゆうかダルマさんが転んだ状態ですよぉ。
【完璧な病室】
弟の病状を説明する主治医の均整のとれた肉体にうっとりする表現なんか、水に滴る筋肉を想像するとか小川さん以外が言ったら、ただのエログロ変態だと思ってしまうのですけど。ベットに鞄を置いたらぴんと張られたシーツが風紋のようになったとか、胸がざくろが割れたように痛かったとか卑猥に感じると思えば、摘出したチョコレート嚢胞がビーフシチューと同じ色してたとか、しばらく食欲なくしそうな視覚表現だけど、これに嗅覚まで加えたら吐くかもしれない。ホルマリン漬けの胎児を眺めて悦に浸ってそうな不安げな安心感にドキリとします。
【揚羽蝶が壊れる時】
この作品は臭すぎでした。アンモニア臭だとか生ゴミの匂いがプンプン臭覚を刺激するんです。
認知症の祖母を施設に預け終わった後の罪悪感だとか、もうこの人の表現にかかったら度の強い眼鏡掛けて足元がグニャグニャ揺れてピントが定まらず頭痛がして吐き気を催すような感じでした。散りばめられた言葉の中に、ノイズとかロッキングチャアにモーターバイクにバレリーナ、これ絶対に佐野元春の歌詞に出てくる単語意識してますよね。元春はさりげなく悪ぶって気障だけど害はないのに対して、小川さんは妖艶さが加わって退いてしまいそうになるんです。帯に「こうして小川洋子は出現した」って書いてあったけど、私だったら「妖狐が出たぁああ!」ってビックリマークもあと3つぐらい付けたくなる。「ライオンゴロシ」って棘をもつ植物の生態にゾクゾクしました。
初期の洋子さんは艶かしくグロテスクで好奇心旺盛なマッドサイエティストって感じでした。
残りの2つも不穏で不安定な不思議な感覚。
読んでいるだけなのに五感が刺激され心拍が乱れるは、急にトラウマが襲ってきたりで臨死体験に近い感覚を味わうことができました。
4つの短編に出てくる『わたし』が同一人物に見えてしまう。年やら名前は違っているけど何度も転生してるようでゾワーって感じが悩ましい。
これだけ振り回されたら、安らかに眠りたいって思ってしまうww
Posted by ブクログ
小川洋子さんは死にまつわる静かな話が多い。その文章は心を落ち着かせてくれるけれど同時に暗さも感じる。デビュー作からそれらは一貫していることが分かった
Posted by ブクログ
p192「しかし、わたしを本当に不快にさせたのは、ごめんなさいという文字だ。わたしは、 空缶を転がすようないい加減さで、ごめんなさいとか頑張ってとか言われるのが嫌いなのだ。サトウはまだ、そのことにも気付いていないのだろうか」
Posted by ブクログ
4.8
キター!これが見たかったんです小川洋子(・̥-・̥ )
小川洋子時系列で追ったことなかったけどデビューしたての方がより毒々しくて優しすぎなくて最高
Posted by ブクログ
昔外国人と話せる英会話アプリをやっていて、そこでダイヴィングプールを勧められたことがあり、ずっと気になっていた。あの外国人、センスが良いな……。
どの短編もずっと暗くて陰鬱で神経質な感じだった。どれも読んでいると心がヒリついて落ち着かない。ぱちぱち続く静電気に顔を歪ませながら読み続けるみたいな、不思議な痛さのある読書体験だった。でも不愉快だったわけではない。10代の時に感じていた、かさぶたを剥がす気持ちよさみたいなもの、いちいち色んなことに積極的に傷ついてみたり不愉快に感じてみたり、そういう心って大人になると健やかな生活を妨げるから意識的に忘れていくもののような気がするけど、それを久しぶりに思い出させられた感じがする。
Posted by ブクログ
デビュー作含む最初期の四篇。毒気や性的な意識が強かったり内容が難しかったり。クセが強いけど最初期の作品を作者のあとがき付きで読めるのはありがたい(作品の解説とかそういう内容ではないけれど)。「揚羽蝶が壊れる時」が難しくて消化不良。
Posted by ブクログ
ふいに小川洋子さんの本が読みたくなって手に取った。
小川洋子さんの、残酷で美しい、繊細な文章が心地いい。
「ダイヴィング・プール」が1番お気に入り。
Posted by ブクログ
同僚が貸してくれた本です。
これは小川洋子さんの初期の頃の以下4作品を収めたもの。
「完璧な病室」
「揚羽蝶が壊れるとき」
「冷めない紅茶」
「ダイヴィング・プール」
なんとも独特な世界でした、どの4作品も。小川洋子さんは、グロテスクな事象や残酷な心理描写などを、なんとも精巧で均等で美しい文章で表現するなーと思いました。本書の中でもあったような表現をお借りすると、つるりと冷たい陶磁器の美術品のような印象を受けました。
一番好きだったのは「冷めない紅茶」かな・・・。登場人物の関係性を含め、すごく曖昧で不思議な世界で、え、これはどういうことだろ、どうもこうもないのだろうか、と一瞬一生懸命考えましたが、もうこれはこういう世界のお話なんだと思うことにすると一番好きなお話になりました。
一番わからなかったのは「揚羽蝶が壊れるとき」かな~。
「ダイヴィング・プール」は、読んでいて少し苦しかったです。
表題作「完璧な病室」は、好き嫌いでいうと好きな方かな、くらいですが、一番小川洋子さんらしい作品のような気がしました。気がしただけです。
読んでいる間はなんだか、いつもの現実とは違う、一段暗い世界を、ゆっくり歩いているような感覚で、決して明るく楽しい短編集ではないですが、美しい文章に浸りながら小川洋子さんの世界をより知れた気がして、良い読書でした。
Posted by ブクログ
「完璧な病室」
無駄なものはなく清潔で安心できる場所。
弟の病室で二人で過ごす時間は静かで、時を刻むほど清らかになっていく。相反していたものは、心の病があった母とのかつての生活。それらを全て包み込んでいくものの温かさが、この小説全体を包み込んでいるように思えた。
ほかに、「揚羽蝶が壊れる時」「冷めない紅茶」「ダイヴィング・プール」
あとがきまで読み終えて、人のすべての奥底までが細やかに描かれた小説が、自分の物のように感じられる読者になりたいと思った。