小川洋子のレビュー一覧
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劇場も星空も暗闇だ。その中に星という煌めきがある。劇場でいう役者さんだ。
星の部分だけでなく、暗闇の部分にもスポットライトを当てて書かれた作品のように思えた。
劇場の話なのに、なぜ役者さんが主役の章はないのだろう。劇場の案内係だったり、幸運を運ぶ椅子のありかを知っている売店員だったり、観劇を愛してやまない人だったり。劇場や、劇場を取り巻く人々には、それぞれのストーリーがある。そのどれもが美しいからなのではないかと思った。
そして読み終えてみると、暗闇だと思っていたところにも、星はあった。
案内係にも、売店員にも、観客にも、それぞれの小さな煌めきがある。それらが劇場という場所でつながり、一つの星座になる。
『劇場という名の星座』とは、そんな名もなき人々の物語をつないでできた星座なのかもしれない。
その星座を眺めているような、あたたかい一冊だった。 -
Posted by ブクログ
密やかで、美しくて、どこか妖しい。 これぞ小川ワールド。
愛とか性とか、 直接的な表現はないのに、 行間に漂う色気に吸い込まれそうになる。
……おそろしやです。
焼け跡に残ったきのこ、文鳥の骨、楽譜の中の音楽…。
人々が持ち込む、大切な思い出や失いたくないあらゆるものを「標本」として保存する奇妙な標本室が舞台です。
そこで働く若い女性が、標本技術士の男に惹かれていく物語。
何かを標本として永遠に「封じ込める」。
って、それだけでなんだかとっても危険な香り。
彼から贈られた靴を履き、封じ込められることを望み、どんどん溺れていくさまは、不穏なのに神秘的でもありました。 -
Posted by ブクログ
【科学の扉をノックしたらーー宮沢賢治や伊与原 新、アンネフランクがいた件】
読み始めてすぐに、嬉しい驚きが!w(°o°)w
宇宙の章に登場する専門家が、先日読んだばかりの『賢治と星を見る』の渡部潤一先生だったのです。素敵な偶然と先生の語る宇宙や星の話は実に興味深く一気に引き込まれました。
作中には「宮沢賢治」は出てこないが、不思議なほど頭の中に「宮沢賢治」が浮かび上がってきました。宇宙の章では、当時の最先端の天文知識を有し、夜空を見あげてる賢治の姿。「石っ子賢さん」と呼ばれた賢治が愛した鉱物の話や、飢餓になると自らを乾燥させて仲間の土台になる粘菌の姿に、『銀河鉄道の夜』の「サソリの火」のような自己犠牲の美しさを見てしまったり……。✨
先日読んだ伊与原新さんの『オオルリ流星群』とは真逆のアプローチですが、星空を見上げたときのあの「救われるような感覚」や科学を「人間の生(生き方)」へと昇華している点など、どことなく共通しているように感じました。彼女の原点であるアンネ・フランク(隠れ家で外界や未来を想像する)にも通じる、目に見えない大切なものを慈しむ心がある気がします。✨
ただひとつ残念なのは、レビューにはわかりやすかったと合ったけど、私が馬鹿なのか遺伝子やSPring-8の話があまり理解できず、脳がビックバンを起こしそうだったこと。(笑)
ただ分からないなりにも十分興味を引く内容でした。
読んだ本たちが不思議と一本の線で繋がり、夜空をふと見上げたくなるような、とても豊かな読書体験になりました。( ꈍᴗꈍ)
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Posted by ブクログ
身内の妊娠という生命の神秘を、綺麗な言葉で包み込むことを許さない。そこにあるのは、冷たく澄んだ文章で淡々と綴られる「生理的なナマモノ感」だ。
つわりに苦しみ八つ当たりする姉と、それを冷ややかに観察する妹。クロワッサンという言葉に「甘ったるいおもちゃみたいな言い方しないで」と苛立つ姉の過敏さなどに度々振り回される。
マタニティドレスに「私のお腹で生命が育っていますよ」という高らかな宣言を読み取ってしまうような、あの装飾された母性に対する強い違和感。
小川洋子さんの文章はどこまでも穏やかだが、その発想はグロテスクだ。
歯医者の治療台で口を開けているときのような、自分の体が他人に支配されている無防備さと恥ずかしさ。電車に轢かれた死体の細かな描写や、体内・口の中といった「肉体の内側」を覗き込むような描写が重ねられていく。
妹の心にあるのは、単純な悪意などではない。姉の中に宿る未知の生命への強烈な異物感と、生まれた瞬間に「壊れていてほしい」と静かに願ってしまうような感覚。鍋の中でぐつぐつと煮詰まるジャムを混ぜる光景には、逃げ場のない息苦しさと不穏な静寂が漂う。
何も変わらないと思って過ごしている日常の、目に見えない場所で静かに進行していく不気味な変化。
私たちのすぐ足元に潜むその歪みを、静かに示してくる怪作だった。