小川洋子のレビュー一覧

  • 偶然の祝福

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    久しぶりに再読

    【失踪者たちの王国】
    “さよならも告げず、未練も残さず、秘密の抜け道をくぐってこちらの世界から消えていった、失踪者たちが住むという王国。誰でもたやすく足を踏み入れられるという訳でないらしい王国”
    『嘔吐袋』の話はこの話だったかと再確認。

    どこかで読んだと思っていても短編は何に入っていたか忘れがち。失踪する側は理由や事情があって、日常の延長で自覚なく失踪するものだが、失踪される側は特別な事になってしまうという事実が不思議な感触。

    【盗作】
    「あれ? この話……」となる作品。
    他の短編集にある話とリンクしているから、混乱しがち(『三月は深き紅の淵を/恩田陸』と同じ感触の掴みきれない感覚が好き

    【キリコさんの失敗】
    キリコさんがチャーミングで実に魅力的!

    【エーデルワイス】
    穏やかなのに不穏で良い。

    【涙腺水晶結石症】
    絶望的な状況で判断を誤る人や助けを求められない人が苦手で、その種の話には苛立ちを感じやすいがが、作品が淡々とししていて、その悲劇的な状況に悲壮感がないから神経を逆撫でされる手前でとどまる。スッと終わるから後味は悪くない。

    【時計工場】
    指揮者、果物を背負う老人、愛犬、果物、マンゴー色の蝶……短編集だけと連作だし、連作だけど分断されていて「おや?」と登場人物の作品内の時間軸を探す作業が発生する。逃げ出したいくらいの湿度が心地良い。

    【蘇生】
    短くてスッと消えていく最後の短編。湿度の高い短編の後にカラカラに乾燥した短編が来て、潤いが欲しいと感じた辺りでストンと断ち切られる。

    【変化の段階/川上弘美】
    解説じゃなく新聞読書面からとのこと。文庫本の裏面解説も魅力的。
    “失われたものたちの世界、と私は小川洋子の世界を呼んでいる。”の一文に共感しかない。

    最初に小川洋子作品を手にしたのは『薬指の標本』だった。ゴシック調の表紙に惹かれて、何冊か読むあちに気がついたら「取り敢えず読む」作家リストにインしていた。今のところ『沈黙博物館』が自分内ベストな気がしているけど、結局のところどの作品も違和感はあるのに好きなんだよなあ。

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    2022年02月12日
  • 凍りついた香り

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    死者の記憶を辿る過程で現実と空想の曖昧な境目を往来する涼子。夫の過去や死の輪郭が少しずつ明確に認識されていく一方で、その中身は何処まで行ってもぼやけたまま。予め用意された”間違い”へと突き進む彼の姿は理解はできても共感はできず、その掴みどころの無さに儚さ/畏ろしさのような物を感じた。
    ”過去は損なわれず記憶は保存される”という幸福な事実に縋り付くようにして読み終えた、静謐な語り口で紡がれる喪失と救済の物語。

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    2022年02月07日
  • まぶた

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    様々な視点からのまぶたの連想は、時として切なく影を感じながらも光に近づくような何処かそんな感覚を思わせるものがありました。

    外国でのストーリーも幾つかあり、海外に夢を置く自身にとって一期一会の旅の中での出来事に、日常離れしたまた違ったワクワクもありました。

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    2022年01月29日
  • 洋子さんの本棚

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    ネタバレ

    作家が好きな本について話すというのが好きだし、すごく気になる本も何冊も出てきたけれど、そんなことより何より母と娘の関係や子育てのはなしが印象的。

    「死なないと手渡してあげられないものがある。死ぬことで、遺された人たちは新たな地平に行くことができる。だとすれば、自分にも生きて死ぬ意味がある。」

    「息子の可愛らしさの記憶なら、私も五つくらい保存があって、それをつらいことがあると繰り返し思い出して、またしまっておけば、いつでも再生可能。だから百個も、二百個も要らないんですね。五つでも多いくらい、三つぐらいあれば十分(笑)。」

    「きっと、うちの両親だって、何かすごく馬鹿げた、本人が忘れているようなことを、記憶のあめ玉にしていただろうなと思えるんですね。」

    自分にもあるなあ、記憶のあめ玉。
    なるほど、確かに3つもあればじゅうぶん。
    そう思ってとても、すっきりした。

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    2022年01月23日
  • 凍りついた香り

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    ★3.5、が相も変わらず全く覚えていない再読のおまけで★4。
    本作が発表された年を考えると、この作家の志向は既にこの時点でしっかり確立されていて、この空気を良しとするか否かで読者を選別しているようにも思われまする。
    この観点で小川洋子という独自性は唯一無二なんだろうと。

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    2021年12月30日
  • 不時着する流星たち

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    実在する人物や事実から着想を得た短編集。
    その周りに、光の当たらない薄暗がりに、
    いたかもしれない人たちの密やかな話。

    穏やかな筆致で歪な世界を描き出し、
    切ない幸せと残酷な喪失に心を乱される、
    The 小川ワールドの真髄という感じだし、
    世界が1冊に10個もあるうえに、
    事実が絡んでるから、
    もしやこれは本当のことかも、
    案外自分のそばにあるかも、なんて思ってしまう。
    ファン大歓喜の作品なのでは。

    今作でも、ちょっと変わったこだわり、
    もしくは執着を礎にして構築された
    自分だけの世界を持っている人達が描かれている。
    そのこだわりが行動に制約をうんだり、
    世間とのズレをうんだりして、
    どこか危ういというか、儚いというか、
    不健康というか、微かな緊張感がいつもある。

    その世界は時に小さな幸福をもたらしてくれる。
    閉じた世界の安心感を与えてくれたりもする。
    だけどふとしたことで崩壊してしまった時、
    取り返しのつかない喪失に胸を痛めることになる。
    失意の中で暗闇に椅子を置いて
    永遠にそこに座り続ける人もいれば、
    世界ごと箱にしまって
    ときおり撫でて懐かしみながらも
    別の世界を生きていく人もいる。

    実際には自分は、自分含め大多数は、
    彼らより少し鈍感に逞しく器用に生きてるけど、
    彼らの美しく閉塞的で危うげな世界に惹かれて、
    世界がもたらす幸せと不幸せにどっぷり浸かって
    感情を揺り動かされてしまうから、
    きっと今こうやって普通に健やかに生きているのは
    自分の世界を早々に諦めたか、
    普通を壊してしまうほど
    自分にとってのっぴきならない価値のある礎に
    出会っていないからかもしれない。

    きっと自分がそこへは行かないから、
    どこか、手に入らないものへの憧れに
    近い感覚があるのかな。

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    2021年12月04日
  • 原稿零枚日記

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    最初は小川洋子さん自身の日記なのかと思いながら読みました。途中で違うって気が付きました。タイトルから想像していたより哀しい話でした。いや、作家さんにとっては、このタイトルはとても哀しいのかな。私の夫に本のタイトルを見せたら、「一冊分の原稿が書けてるじゃん」と言われてしまいました。運動会や赤ちゃんのお相撲や新生児室に行く話は何だか本当にありそうだなあ。って感じました。

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    2021年12月03日
  • アンネ・フランクの記憶

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    「アンネの日記」を教条的な読み物として捉えず、「友の日記」として寄り添い、その瑞々しい言葉と記憶を自らの胸に刻んだ時はじめて、あの時代に起きた夥しい死が、真に心に迫ってくる。

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    2021年11月14日
  • 余白の愛

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    静かな静かな物語。
    記憶が現実を癒していく美しい小説でした。
    耳と指が異世界へのコネクトとなる幻想的な話で、余白がなくなった愛が主人公を前に進ませたんだなと感じた。

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    2021年11月06日
  • 余白の愛

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    本屋B&Bの文庫本葉書をきっかけに読んだ。物語もだけど、言葉の紡ぎ方や表現も静かで繊細で緻密。自分の感覚も研ぎ澄まされていくような気持ちになる。全体を幻想的に写しているフィルターは、汚くて不都合なものを隠しているようだった。もう一回読んで、それがなんなのか確かめなければいけない。個人的に純喫茶との相性がいい小説(実証済)。
    やさしさってなんだろう。タイトルも含めて、読んだ人と意見交換したい。

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    2021年10月30日
  • まぶた

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    3.5
    博士の愛した数式の小川さんってこんな感じの作風なのか。。
    少し世間ずれした不思議な人たちのお話たち。
    でもどの人たちもありありと想像できる
    なぞの野菜売りのおばさんの話印象的だなぁ

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    2021年10月27日
  • 夜明けの縁をさ迷う人々

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    9の短編、どれも良かったです。「世にも奇妙な物語」に出来そうな感じ。私は特に「涙売り」と「教授宅の留守番」が好きです。特に「涙売り」は愛する人の役に立てれば自分が痛い思いをしたって幸せなんだってことを短い話の中でも、すごく感じました。「涙売り」の彼女は実際にいたら変な人だけど、それぐらい人を愛することができたら素敵でしょうね。

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    2021年10月13日
  • 妖精が舞い下りる夜

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    作家さんを等身大に感じるのに、エッセイを読みたくなりますよね。作家さんと自分との接点を見出して嬉しくなったり。小川洋子さん、本人も認めるように小説では少し昏い世界をお書きになりますが、阪神の熱烈なファンであるなど意外性たっぷりです。

    おこがましいようですが、小川さんは
    「書きたい人」なのだなぁ、天性の作家さんなんだなぁと思いました。どの言葉を掬いとるかということに専心しつつ、一方で言葉にできない空間に意識を払っている。金井美恵子さんらの小説について綴った箇所も、とても素敵でした。

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    2025年02月13日
  • 言葉の誕生を科学する

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    「言葉」を通して、コミュニケーションや自己意識、時間などについて考察する。
    読みやすくてあっという間に読んでしまったけど、もう一度あれこれ考えながら時間をかけて読み直したいとも思う。

    後半、小川さんが小説の意義について述べる部分が印象的だった。対談が進むにつれて小川さんの中で想いが広がっていく様子を感じた。「ことり」読み直したいなぁ。

    「言葉を解きほぐす技術がないといけない」という言葉は胸に留めておきたい。何事も一言で片付けない。こうして読んだ本も、「これよかったな〜」とラベリングして終わらせない。

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    2021年09月13日
  • 犬のしっぽを撫でながら

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    今まで読んだエッセイにもラブちゃんが登場するのですが、これを読むと何故、犬を飼おうと思ったかがわかります。その理由がまた親近感を感じてしまいました。それから、ラブちゃんと初めての散歩や、もし小川洋子さんがサッカー選手や水泳の選手だったらって話がとても面白くて、私の頭の中ではギャグマンガ風の動画が再生されているような気分でした。

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    2021年09月13日
  • ホテル・アイリス

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    「生」と「死」と「エロス」のトライアングル。
    「死」は突然やってくる。
    「死の準備」と隣り合わせで歪んでしまった欲望を
    持つ翻訳家の前に現れた少女。
    漫然とした「生」の中の住人。
    そこの住人にとって翻訳家の
    '屈折した欲望'は雷のように感じたのだろう。
    雷を脳ではなく肌で理解し受入れた少女は
    翻訳家にとって何よりもの宝物。
    「エロス」とは「愛」と似て異なるもの。
    翻訳家にとって己を迎合してくれた
    初めての「女」であり
    人生最後の「女」
    決して自分で現像することはなかった
    「フィルム」が
    己が生きた証なのだろう。
    己の死が近づいてくるのを感じ始めた男にとっては
    切ない物語。

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    2021年09月11日
  • いつも彼らはどこかに

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    最近、時折読んでいる小川洋子さんの文庫本は、全て、私が引っ越してきた町で見つけた古書店で購入したもので、実は少々煙草の匂いが残っていました。まあ、気にする方もいらっしゃるとは思いますが、私は問題なし(むしろ、後で見開きがよれよれになっていることに気付いた方が嫌)。

    逆に、私の前に読んでいた人はどんな人だったのだろうと、想像してしまう。リラックスしながら読んでたのかな、なんて。自分のスタイルで読書したいのは、すごく共感できる。

    前置きが長くなったが、この短篇集に登場する人たちは、皆、それぞれの行動スタイルというか、夢中になるものを持っている。しかし、その裏には、何かを失ったことが原因になっている人たちが多い。

    失ったものがあるから、それに代わるものを探しているのかな。それでも、いなくなったものを想像するのは、納得できるものを探し続けているんだ。

    その結末は様々だけど、新たな人生の糧になることもあるし、微妙に思うこともある。けれど、その人が自分で判断すればいいわけであって、時には、共感しづらいものもあったが、それだけ人生は幾通りにもなるということだと思う。私が理解できることだけが、世界の全てではない。そう思わせてくれる小川洋子さんの作品は、周囲との共感の少ない私にすごく合う。

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    2021年07月22日
  • 余白の愛

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    私にとって小川洋子さんの小説を読むことは自分の軸を整えること。人生で大切にしたいものを示してくれているような気がするのです。

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    2021年07月16日
  • まぶた

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    小川洋子ワールドがなんとも言葉にできないけれど、心地よい。リンデンバウム通りの双子が個人的に大好きだった。

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    2021年07月12日
  • 科学の扉をノックする

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    10年近く本棚に眠っていたので手に取った。

    まずこの本の特徴として、小川洋子さんが書いているだけあって文章が読みやすい。
    読みやすいといってもユーモラスだというわけではなく、何というかスラスラ入ってくる。
    それは一つ一つの情景・感情描写にも普段から気を使い、細部にまで目を向けているからだろう。

    このような作家特有の繊細さを持って科学について書かれるとどうなるか。
    科学をストーリーとして味わえるのだ。
    科学の内容だけでなく、そこに携わる科学者の心情までも事細かに描いてくれている。
    よって、「科学をしている人」を客観的に見ることができるのだ。
    「科学者はそんなことを考えながら科学と向き合っているのか」と感心させられることが多い。
    科学者が書いた本だと、どうしても科学の内容に重点が置かれる。
    作家が科学について書くことで、科学と科学者との間の相互作用を描くことができるのだ。

    自分は特に
    3章 命の源”サムシング・グレート”
    6章 平等に生命をいとおしむ学問”遺体科学”
    7章 肉体と感覚、その矛盾に挑む
    の3つの章が非常に印象に残った。
    科学者も人間であり、理性と感情を完全に分離して考えることなど不可能なんだと教えられる。
    人間臭い科学者こそが魅力的なのだ。

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    2021年07月11日