小川洋子のレビュー一覧
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◼️ 小川洋子「サイレントシンガー」
彼女は沈黙のために歌う。精巧に築かれたフィールド。恐れ入りました。
小川洋子は「猫を抱いて象と泳ぐ」で日本にポール・オースターみたいな作家がいたのかと驚いた。しかし数作品読み進めるうちに、独自の、他人には理解してもらえない範囲を作り、それをひたすら守る、という手順のようなものにやや腰が引けた感覚もあった。
今回も同じではあるのだが、ここまで発想を広げて組み上げたことにただ感心して、唸った。
「魂を慰めるのは沈黙である」
有名温泉地近くの山の一角。金網や厳重な門、柵で囲まれた施設「アカシアの野辺」そこに住む男たちは沈黙を好み、指を使った言葉で意図を伝 -
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家政婦をなりわいとしながら、シングルマザーとして10歳の子供を育てている。派遣された先で出会ったのは、80分しか記憶がもたない数学の博士。だから、毎日の挨拶は初めましてで、博士はきまって、数字のことを訊ねる。「君の靴のサイズはいくつかね」「電話番号は」「誕生日は」「生まれた時の体重は」そして、返ってきた数字の秘密を語る。「4の階乗だ」「一億までの間に存在する素数の数に等しい」「友愛数」「完全数」……。80分ごとに記憶がリセットされる博士と、博士にルート(どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる。実に寛大な記号)という愛称で呼ばれる子供とともに、博士の家で過ごす日々。野球観戦にゆき、病気の
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短時間しか記憶を留めることができない老いた数学者(博士)と、彼の身辺のお手伝いとして雇われた女性、そしてその子供の交流を描いた小説。お手伝いの女性を語り手として話が綴られている。
過度に伏線を張ったり、ドラマチックな演出をすることなく、淡々と物語が進行する。印象に残ったのは、博士がオイラーの等式が書かれたメモで、語り手の女性と博士の義姉の口論を収めるシーンである。この解釈は読者に委ねられているが、様々な分野の数学が一つの式の中に調和していることを示して、互いを尊重するように諭したのだろうか。我ながら、ちょっと安易すぎる解釈な気もする。。
数学者の岡潔氏は、「春宵十話」という本で、数学には情 -
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家政婦として訪れた先で出会ったのは曲者の老人。私は数学者である彼を「博士」と呼んだ。かつての事故の影響で記憶に障がいを抱える彼と次第に距離を縮めるが…
これはそんな博士と私たち親子の心温まる物語
第一回本屋大賞受賞作という事で気になり読み始めました。
数学者が生涯を捧げるほど魅了される数の世界。その中に点在する美しさは自分からは縁遠いかけ離れた世界のもので一回読んで理解できるものではなかったですが、物語を通して博士が人生の中でどれほどまでに数の世界を愛し没頭したのか、そして彼が培ってきた子供への無償の愛の形を知ることができました。
博士と私とルートの3人。互いが互いを思いやる気持ちに心を -
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小川洋子のこのシリーズは肩の力が抜けていて、ほどほど学べて、ほどほど好奇心が満たされ、そして何故だかノスタルジックな気分になる。
もしかしたら工場なんて、人間を機械の一部として組み込み、飽くなき生産性の追求に骨身を削るような世界かも知れない。でも、そんな無機質な日常に「手の温もり」とか「職人の技」といった“人間性“を見い出すところに本書の温かみがある。
取材先は、金属加工、お菓子、ボート、乳母車、ガラス加工、鉛筆。派手さはなくても、地道にものづくりに取り組み、人間にとって変わらず必要なものを作り続けている工場ばかりと著者はいう。経済の原則を考えれば、工場が存続しているのは、世の中に必要だか -
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あの工場を見てみたい!
お菓子、ボート、鉛筆など、私たちが日常で見たり使ったりしているものは、一体どこで、どのように作られているのだろう。
”ものづくり”の愛しさが綴られる工場見学エッセイ。
小川洋子さんが身近なものを製作している工場に見学に行き、その経験を綴る工場見学エッセイ本です。
「なんて面白そうなんだろう」という基準だけで選ばれた工場は、お菓子や鉛筆、ガラス加工製品、サンポカー(子供をのせる車輪のついた箱みたいなやつ。街中で小さい子が保育士さんにのせられ運ばれている。かわいい)など様々。
工場見学というのは、小学校のとき以外はバスツアー旅行なんかでしか行ったことがないですし、バスツ -
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沈黙を愛する人々が集う共同農園。そこに言葉は無く、指文字での会話が行われている。
門番小屋に幼少期から祖母と住むリリカ。ある日、リリカの歌を聞いた祖母は羊の毛刈りの時に、側でリリカが歌うように取り計らう。羊も聞き惚れる奇跡の歌手が誕生か、と思わされる展開とは真逆。町内で流れる夕方の「家路」が最初の仕事。何十年にも渡って流されるが、誰も気に留めない。沈黙の人々に寄り添うような歌声が持ち味。
祖母が亡くなったり、共同農園の人々も亡くなったり減少して行く中で、どんどん不吉な方向に向かって行く。一時、恋人ができることもあったが、やはり駄目なようだ。全体的にも静謐な中で物語を終えてしまった。重い内容に、