小川洋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
8つの作品が収録された短篇集で、幻想的で奇妙な出来事を交えながらも、人間という愛らしい存在を感じられたのが、印象的でした。
また、奇妙な出来事を体験した後で、自らの人生を見つめ直すような展開が多いことに、人生とは、何をきっかけにして突然変わるか、分からないものだなとも思えました。しかし、不自然さは感じずに共感できたのは、小川さんの、上品でいて飾らない文体にあるのかもしれません。
こういった上品な奇妙さと、私の人生観には、精神的な距離を隔てているのを感じ、逆に、読んでいて気楽な心地良さがあって、何となく旅行時に持って行きたい本だなと思いました。 -
Posted by ブクログ
鳥やクジラに見られるような、求愛の時に行われる歌のような声から言語が始まったという仮設は面白と思うし、納得感がある。
しかし、それなりに長い対談の中で刺激的な話題が他にはあまりなかったのが残念。
対談というのもは基本的にしゃべったままを記録するものなので、あまり内容が詰まったものにはなりにくいのかな。
発声というのは本質的には呼吸を制御することであるというのは目から鱗が落ちる思いだった。鳥のように上空を飛んだり、クジラのように海に深く潜ったりするためには、意図的に呼吸を制御する必要があり、その副産物として多彩な歌を歌うことができる。他の動物は無意識的な呼吸のみを行っているのだろう。人間は呼吸 -
Posted by ブクログ
子どもたちがいなくなった世界で、彼らの遺品の入った小箱を管理しながら暮らしている女性を描いた野間文芸賞受賞作。
語られない何らかの理由で、子どもたちが次々に亡くなった世界には、当然希望も未来もない。滅び行くそのなかで、親たちは廃園となった幼稚園を訪れて、管理されている小箱を開けて子どもの成長を夢想する。なんとも悲しく、やりきれない。
たとえばこの作品を手に取ったのが昨年であったなら、死者たちと寄り添って暮らす人たちの静謐な世界を、情緒的で美しいものとして受け入れたかもしれない。でも、世の中はコロナ禍、息が詰まるような現実に加え、今年近しい人の死に立ち会った私にとって、この作品は重すぎる。
読 -
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あの「博士の愛した数式」を書いた作者の駆け出しのころのエッセイ。
どんな風に言葉を紡いて小説を書くのだろうと思って読んでみました。
真摯に言葉に向き合うひたむきな姿勢と、書くことが好きという想いが伝わってきた。
印象に残ったのは「小説は言葉によってしか表現できないものだが、それだけですべてを表現しつくしてしまうことも、またできない。言葉が持っている目に見えない模様を見せたい」。そう、小説って言葉で表されているもの以上にその裏に感じる情景や思いや手触りといった諸々のものを感じさせる。私は一読者としてそれらを感じられる読書が好き。
あと印象的だったのは、出産した時に感じた哀しさの話。産声に切ない哀 -
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捻れた恐怖を感じさせる短編集。
その怖さはあからさまなものではない。
真夜中に自分の部屋でふと目覚め、クローゼットの扉が細く空いているのに気がつく。きちんと締めなかったせいだ。大したことじゃない。なのになぜかそこから目が離せない。人の身体を借りた闇の獣が、息を殺してこちらをずっと覗いているのを感じる。
そういった恐怖だ。
タイトルの『夜明けの縁』というのは、人間の正気と狂気の境目だとわたしは考える。
この9つの短編集に出てくる人たちは皆、その縁を覚束ない足取りでさ迷っている。そしてこちらに戻ってくる人もいれば、あちら側に落ちてしまう人もいる。
すべて現実味のない話のはずなのに、じわじわとその -
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ネタバレ昔途中まで読んだけど、積読していた本。なんとなく、久しぶりに本を読んだ。1日で読み終わった。
読み始めてなぜ途中で読むのを止めたのか思い出した。登場人物の男(翻訳家)の第一印象がキモかったからだ。このキモいおっさんと、主人公との恋愛物語とか見たくないわーと思ったんだろう。今回読んでも同じ印象で同じ感情を抱いたが、読むのは止めなかった。
この小説で印象的だったのが、舞台となる町の風景だ。海沿いの町で城壁があり、離小島があるらしい。その描き方が美しかった。調べたところ作者さんはある地域をモデルとしているらしい。自分の中ではなんとなく、逗子や真鶴辺りを想像した。
登場人物の「翻訳家」は最初か -
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小川さんの作品はどうしていつもこうハラハラさせられ落ち着かない気持ちにさせられるのか。なのにどうしていつも小川さんの作品に引き寄せられてしまうのか。
子供たちがいなくなってしまった町には、元幼稚園に住み続ける主人公の「私」、子どもを亡くした親たち、その親たちを慰める人々がいる。
親たちは元幼稚園の講堂にずらりと並んだガラスの小箱の中で亡くした子供の成長を見守り、風の吹く丘の上で子供の遺品で作った楽器を耳にぶら下げ自分にしか聴こえないその音に耳を傾ける。
子供を亡くし心を病んで入院中の女性は判読不能なほど小さい文字の連なりで綴られた手紙を恋人に送り、恋人のバリトンさんはその解読を「私」に託す