小川洋子のレビュー一覧
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捻れた恐怖を感じさせる短編集。
その怖さはあからさまなものではない。
真夜中に自分の部屋でふと目覚め、クローゼットの扉が細く空いているのに気がつく。きちんと締めなかったせいだ。大したことじゃない。なのになぜかそこから目が離せない。人の身体を借りた闇の獣が、息を殺してこちらをずっと覗いているのを感じる。
そういった恐怖だ。
タイトルの『夜明けの縁』というのは、人間の正気と狂気の境目だとわたしは考える。
この9つの短編集に出てくる人たちは皆、その縁を覚束ない足取りでさ迷っている。そしてこちらに戻ってくる人もいれば、あちら側に落ちてしまう人もいる。
すべて現実味のない話のはずなのに、じわじわとその -
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ネタバレ昔途中まで読んだけど、積読していた本。なんとなく、久しぶりに本を読んだ。1日で読み終わった。
読み始めてなぜ途中で読むのを止めたのか思い出した。登場人物の男(翻訳家)の第一印象がキモかったからだ。このキモいおっさんと、主人公との恋愛物語とか見たくないわーと思ったんだろう。今回読んでも同じ印象で同じ感情を抱いたが、読むのは止めなかった。
この小説で印象的だったのが、舞台となる町の風景だ。海沿いの町で城壁があり、離小島があるらしい。その描き方が美しかった。調べたところ作者さんはある地域をモデルとしているらしい。自分の中ではなんとなく、逗子や真鶴辺りを想像した。
登場人物の「翻訳家」は最初か -
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小川さんの作品はどうしていつもこうハラハラさせられ落ち着かない気持ちにさせられるのか。なのにどうしていつも小川さんの作品に引き寄せられてしまうのか。
子供たちがいなくなってしまった町には、元幼稚園に住み続ける主人公の「私」、子どもを亡くした親たち、その親たちを慰める人々がいる。
親たちは元幼稚園の講堂にずらりと並んだガラスの小箱の中で亡くした子供の成長を見守り、風の吹く丘の上で子供の遺品で作った楽器を耳にぶら下げ自分にしか聴こえないその音に耳を傾ける。
子供を亡くし心を病んで入院中の女性は判読不能なほど小さい文字の連なりで綴られた手紙を恋人に送り、恋人のバリトンさんはその解読を「私」に託す -
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ネタバレ数学って実は美しく面白いものなんだ、ということを知ったのが小川洋子さんの著書「博士の愛した数式」だった。それまで数学は四角四面の無味乾燥のものだと思っていたが、それ以来数学を見る目が変わった。
また「遥かなるケンブリッジ」で藤原先生の大ファンになっていたので、骨髄反射的にこの本を手に取ってしまっていた。
数学は大の苦手だけれど、「美しい」ということだけは分かる気がする。そして美しいことは正しい、というのも腑に落ちる。それが宇宙の法則なのか、神の技なのか。混沌の中からその秩序を見つけ出す、秘密を解き明かす数学者には信念と情熱が必要。実はとてもウェットな世界だよなぁと感じた。数学に、数学者に、宇宙 -
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小川洋子の短編集。本タイトルが、小川洋子らしくなく、内容の一部もそんな感じ。
スーパーで試食を作ると、派手でも積極的でもないのに飛ぶように売れる試食販売員。スーパーの試食が配られ始めると、どこからともなく現れて、何周も食べる女性。いつの頃か、2人には固い絆が作られていく。
年末年始に読んだ本が、ことごとくハズレであったので、心の安らぐことこの上ない1冊。サウナのあとの1杯の水と言う感じで、ごくごくと読んでしまった。
冒頭のスーパーの2人とディープインパクトに対する帯同馬の話は、どう思いついたのかがすぐわかるところが、創作の参考になる。ただ、小川洋子にしてはツッコミが浅いな…とおもっていた -
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ネタバレ著者小川洋子氏が、「アンネの日記」を初めて読んだのが中学1年生の時だったそうだ。それからご自身も日記の中で、自己表現することを知り、それが作家業へとつながったと述べられている。
著者は、自身の心の友であるアンネ・フランクの生涯に触れることのできる地を実際に訪れ、アンネを実際に知る人々と会って対話をし、最後はアンネの命を奪ったアウシュビッツを訪れるという8日間の旅を計画した。
アムステルダムで、アンネがまだ少女として、そして家族の一人として暮らしていたアンネ・フランク・ハウス(隠れ家)を実際に訪れる。
また、そこであらかじめアポイントをとっていた二人の人物に、取材というより会って対話をする