小川洋子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ夜明けの縁をさ迷う人々
収録作品は以下の通りです。
曲芸と野球、教授宅の留守番、イービーのかなわぬ望み、お探しの物件、涙売り、パラソルチョコレート、ラ・ヴェール嬢、銀山の狩猟小屋、再試合
どの物語も、正常と異常の縁をさまよう人の物語です。曲芸、エレベーター、楽器、全集など各短編ではガジェットが異なりますが、それらに執着するがゆえにバランスを踏み外して、縁をさまよっていた人々はその執着するものの引力に引き寄せられ、崩壊します。もう一つ共通しているのは、ぬるりとしたエロティズムでしょうか?ふとした言葉で垣間見られる隠微さ。
印象的だったのが、野球ではじまり野球で終わるという構成。野球というものが「フィールドオブドリーム」のような奇跡が起きそうなスポーツ(もはやスポーツではなく文化なのかもしれません)なんだなと再確認した次第です。サッカーも文化ですが、不思議や奇跡が入り込む余地が少ないのと対照的かなと。。。
忙しい毎日を離れて、異界の縁を楽しんでください。
竹蔵 -
Posted by ブクログ
読み始めた瞬間、二つの結末を想像した。あるいは二つは両立するかもしれないとも。
ひとつは、主人公の男がこの世界に取り込まれて抜け出られなくなること。
もうひとつは博物館は完成する前に瓦解すること。ひとつは外れ、ひとつは当たった。
殺人事件の話は夾雑物だと感じ、これがなければもう一ランク上の評価にしたかもしれない。
/博物館専門技師である「僕」は老婆の依頼に従って村の住人の形見を集めた博物館づくりに勤しむ。そのためには死者が出たときその者を象徴する形を盗み出さねばならない。
/中央広場で爆発事件が起こり少女は大怪我をする。左頬に星型の傷が残る。
/連続殺人事件。どうやら主人公は容疑者になっているようだ。真犯人は誰だ?
/博物館は完成するのか?
■簡単な単語集
【穴】役場の裏の塀に開いた穴。昔、納税者の識別をするために使った。耳がその穴にすっぽり入る間は納税の義務がない。そのため闇で耳縮小手術がなされることがあった。
【油絵の具】三十六色の油絵の具は売れないまま終わった女性画家の遺した執念のようなもの。
【依頼主】ソファーに付いた染みのような老女。《私が目指しているのは、お前ら若造が想像もできんくらい壮大な、この世のどこを探したって見当たらない、しかし絶対に必要な博物館なのじゃ。》p.14。時代がかった話し方をする老婆の存在はこの地の、この仕事のリアルさを減じさせここが彼岸ないしは異世界でもあるかのようにも感じさせる。
【依頼主の性格】少女によると《優しくもないし、親切でもないけど、邪悪でもない。彼女はいつも遠くを見ているの。》p.33。
【依頼主の要求】[1]物事をてきぱきと進める。[2]人がやらないことをやる。[3]絶対に途中やめしてははだめ。
【老い】《さすがに私も歳を取った。自分が老いると、世界までが老いたように感じるから不思議じゃ。》p.55
【形見】依頼主は村人たちの形見の品を収蔵する博物館を作ってくれと言った。依頼主が十一歳のときから集め始めた。誰かが死ぬたびになにか一品をもらった。《私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ。それがなければ、せっかくの生きた歳月の積み重ねが根底から崩れてしまうような、死の完結を永遠に阻止してしまうような何かなのだ。思い出などというおセンチな感情とは無関係。もちろん金銭的価値など論外じゃ。》p.49。《ここにある形見のほとんどは盗んだものである。盗品じゃ。》p.52。これからは主人公がその入手を引き継がなくてはならないと言った。《形見について語れるのは、それを収集した人間のみである。》p.313
【義眼】病院に入院していた、もと教会のオルガン奏者だったというおじいさんの形見。子どもに怖い話をしてそのときよく取り出して脅していた義眼を形見の品としてくすねた。
【聞く】《母がよく言ってるわ。未来が知りたかったら、耳の穴をふさげって。そうすれば、遠く未来にいる自分の内なる声を、聞くことができるの》p.125
【暦】依頼主が作成した暦にしたがってものごとは行われる。構想から完成まで二十三年。美しい文字で書かれイラスト入り。
【少年】修道院の少年。沈黙の伝道師同様シワイロバイソンの毛皮を着ている。出会った頃は会話できていたがいずれ自然に沈黙の行に入ることになるだろうという。
【卵細工】村唯一の名産品。
【沈黙の伝道師】一生ものを喋ってはいけない沈黙の行に入っている。住民には敬われているようだ。村の北の外れにある修道院で暮らしているらしいが行ったことがある人は少ない。《伝道師が求めているのは言葉の禁止じゃなく、あくまでも沈黙です。沈黙は自分の外側にあるのではなく、内側に存在すべきものなんです。》p.167。《手紙も日記も書けません。ただし、読むのは自由です。外から入ってくるものを拒絶はしないのですが、自分の中からは外へ出て行かないのです。》p.199。少年は出会った頃は話していたが時が満ちると自動的に行に入り喋らなくなるらしい。ところで修道院での暮らし方、行の方法など誰が教えてくれるのだろう。少年の話からすると、なんとなくわかるというものでもないようで誰かに教わってるふうではあるのだが。仮に文書化されたマニュアルがあったとしても最初に書いたその人は沈黙の行を失敗してるわけで…。行は実践していない、教え係みたいな人がいるのだろうか?
【兄さん】「僕」に顕微鏡の扱い方を教えてくれた。理科の先生になり保健体育の先生と結婚した。世界の成り立ちを知っているからか、ものを持つことに執着しない。本当にいるのかどうかは不明。
【庭師】依頼主の家の庭師。大工仕事もできる。夫婦ともにわりとつきあいやすい。《たいていの心配事は、頭で考えるよりずっとあっさり片付いちゃうもんさ》p.88。趣味でジャックナイフを作る。《いずれにしても、ものを作るってのは、人間に与えられた中で最も尊い営みだ。》p.138
【爆弾事件】少女の左頬に星型の傷を残した。いまだガラス片が入っている。《爆弾事件を恨んではならん。我々の身の上に起こることで、何一つ無駄なものはない。世界のすべてに理由があり、意味があり、そして価値があるのじゃ。形見の一つ一つがそうであるようにな》p.154
【博物館】博物館は常に拡大する宿命を持つ。《コレクションの展示されていない博物館にどんな魅力があるか、知ってる人はそう多くないだろう。》p.220。《私たちが知らないどこかに、この世から消えたコレクションを展示する博物館が存在しているのよ》p.328
【僕】博物館専門技師。旅行鞄の中身は《数枚の着替えと、使い慣れた筆記用具、髭剃りのセット、顕微鏡、そして二冊の本――一冊は『博物館学』、もう一冊は『アンネの日記』――それだけだった。》p.5
【保存】《物を保存しておくって、考えていたよりずっとややこしいことね》p.92
【娘】依頼主の娘。血はつながっていない。養女になったときすでに母は老女だった。《彼女は、まるで博物館がどこか遠い国にある秘密の楽園ででもあるかのように、うっとりとしていた。》p.34。《あなたの有能な助手になるためには、喪服の似合うことが第一条件ですものね。》p.69
【メス】「僕」が村に来て最初の死者は百九歳で村の長寿記録を塗り替え中だった外科医で、形見の品は彼が闇で耳縮小手術をしていたそのためのメスしかないと依頼主は言った。依頼主の耳を切ったメスでもある。
【野球場】村人は野球が好きなんだとか。いろんなチームが試合をする。そのときはお祭り騒ぎ。驚くほどレベルが高い。《男の子は誰だって、野球から人生を学ぶものでしょ?》p.82
【老婆】→依頼主 -
Posted by ブクログ
同僚が貸してくれた本です。
これは小川洋子さんの初期の頃の以下4作品を収めたもの。
「完璧な病室」
「揚羽蝶が壊れるとき」
「冷めない紅茶」
「ダイヴィング・プール」
なんとも独特な世界でした、どの4作品も。小川洋子さんは、グロテスクな事象や残酷な心理描写などを、なんとも精巧で均等で美しい文章で表現するなーと思いました。本書の中でもあったような表現をお借りすると、つるりと冷たい陶磁器の美術品のような印象を受けました。
一番好きだったのは「冷めない紅茶」かな・・・。登場人物の関係性を含め、すごく曖昧で不思議な世界で、え、これはどういうことだろ、どうもこうもないのだろうか、と一瞬一生懸命考えましたが、もうこれはこういう世界のお話なんだと思うことにすると一番好きなお話になりました。
一番わからなかったのは「揚羽蝶が壊れるとき」かな~。
「ダイヴィング・プール」は、読んでいて少し苦しかったです。
表題作「完璧な病室」は、好き嫌いでいうと好きな方かな、くらいですが、一番小川洋子さんらしい作品のような気がしました。気がしただけです。
読んでいる間はなんだか、いつもの現実とは違う、一段暗い世界を、ゆっくり歩いているような感覚で、決して明るく楽しい短編集ではないですが、美しい文章に浸りながら小川洋子さんの世界をより知れた気がして、良い読書でした。 -
Posted by ブクログ
【なぜだかわからんがずっと鞄に入れておきたい本】
なんだかわからない
特別感動したわけでもない
大好きな本になりました!てわけでもない。
可笑しさとかさみしさとか嬉しさとか
いろんなものがしっくりきて心が落ち着く。
現実とひと続きの中にアーケードがあって
でも絶対に存在しない感もある。
どんなに悲しくたって本はどっかへ行ったりしないから
そっと鞄の中身のレギュラーになったっていいじゃない。
いつだって自分が求めればそこにいてくれる安心感を本に求めたっていいじゃない。
読み終わって次の日とか次の次の日とか
すぐじゃないいつか
急にアーケードのことを思い出して泣きそう