小川洋子のレビュー一覧
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公衆浴場の脱衣所で働く小母さんは、身なりに構わず不愛想。けれど、他に誰も真似ができない自由自在な口笛で、赤ん坊には愛された。(表題作)
表題作含む全8話を収録した小川洋子さんの短編集。
どれも孤独で密やかな、世界に埋もれてしまいそうなささやかで優しく寂しい話です。
小川さんはともすれば不気味・グロテスク、生々しいととられかねない物事を、綺麗に、さりげなく表現することが特にお上手だと思っていて、今回はそういった表現は多くはないのですが、それでも悲愴さや心の底に沈めた狂気のようなものをやわらかに描いています。
こどもの目線で書かれた話もいくつかあり、こどもの独特の世界観・大人には理解のし辛い特有の理論のようなものが上手く表現されている気がして面白かったです。
また、『乳歯』という話は、迷子になりやすい幼いこどもの事を「君」と表現する特殊な視点で書かれており、何となく藤野可織さんの『爪と目』を思い出しました。
個人的に心に残ったのは、『かわいそうなこと』という話。かわいそうなことリスト、という記録をつけているこどもの話なのですが、小川さんは何となく孤独である事や孤立している事、他と違っている事をかわいそうなことだと認識しているのかなと感じ、個人的にはあまりそれらがかわいそうと感じたことがなかったので不思議な気分になりました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレどの登場人物も、音もなく崩壊していくようだった。彼らが纏う空気には確実に死が感じられるのに、誰もそれを恐れてはいないように見える。
死とは息をひそめればいつでもそこにあり、生き物が必ず辿り着く終わりの時。でもきっと怖いものではないのだ。
それぞれに悲しい出来事や上手くいかなかった事を抱えながら、今多くを求めず穏やかに生きている人々を見ると、心が静けさに満ちてくる。手の届く範囲の、目の前のものを愛していくことの大切さを教えてくれる。
繋がりのない短編集なのに、全てにどこか共通したものがあった。
「お料理教室」だけは誰も話が通じない感じがして、フワフワして拠り所がない感覚になった。確かなものがいつもあるのに、この話にはそれが無い不安感があった。 -
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昔は本をよく読んでいたがいつの間にかあまり読まなくなってしまっていました。
小川洋子さんの小説を読んでみたいけれどすらすら読める小説ではないと認識していたので、短編小説からにしようと思いました。新しめのもので。タイトルと同名の『約束された移動』が一番好きで面白かったです。高級ホテルのロイヤルスイート担当の客室係と非定期的にスイートルームに宿泊するハリウッドスター、ギリシャ彫刻のように美しいBとの二人だけの不思議で秘密な本に関するやり取りがとてもひっそりとしているが興味深かった。Bが宿泊したあと、書棚の本が一冊ずつ消えてゆき、その隙間を客室係がわからないよう塞いでゆく。消えた本と同じ本を客室係は自分の部屋に置いてゆく。どの本も内容は誰かがどこかへ移動してゆくお話。
最初の本は『無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語』ガルシア=マルケス
次は『闇の奥』コンラッド
再読しないと忘れてしまっていたが決してお客さんたちの悪口を言わないマッサージ部の主任さんの存在も心地良かった。 -
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現実世界で起これば母親は親としての在り方を非難されるに違いないが、小川洋子の世界の中では誰も糾弾されることはない。いろんな人にとっての真実がただそこに存在している。
他の作品でも登場人物や小川洋子の世界観が強く存在していることは多々あるが、この作品は他のどの作品よりも絶対に自分は入り込めない、触れてはいけない世界だと感じた。
そして、その世界、家族の在り方は信仰に通ずるものを感じた。ムスリムの友人は宗教で自由になれると私に話した。外から見れば戒律に縛られた自由のない世界。内から見れば従うものがあるからこそ迷いなく守られながら自由でいられる世界。そんな信仰に近いものを彼らの壁の内にも感じた。
化石としての琥珀がそうであるように、彼の瞳は外部ではなくその内側に深く潜む彼らの記憶を見ている。では、オパールと瑪瑙は?考えてみたが、いまいち腑に落ちる解釈が浮かばなかったのでまたいつか再読してみたい。 -
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心が温まったり、冷えたり。体温調節が大変だったなぁ、と言うのは冗談で。「仮名の作家」が一番好きでした。映画ミザリーよりももっと、リアリティのある暴走ファンのお話。読み進めると段々雲行きがおや?と怪しくなってきた辺りから徐々に体が冷え始め、最後に哀れみが残った。
表題にもなっている「口笛の上手な白雪姫」は、正直解説を読んでもしっくりは来なかった。解釈も受け取り方も人それぞれなので、何が正解かは分からないけれど、無理やり仏法と結びつけ過ぎている様な。正直この手のヒューマンドラマ系の物語に、宗教と言う視点から考察する事には違和感しか感じられなくて。小母さんの過去は全く描かれていない中で、無償の愛という精神だけで赤ん坊のお世話をしている。その考えはちょっと安直過ぎる気がするし。でも彼女の発言の中に我が子を抱いてみたかったのでは?と取れる台詞があったので、何処かに羨望や嫉妬みたいな黒い感情もあったと勝手に思ってる方が人間味が残っている気がした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ偏愛と孤独を友とし生きる人々を描く、8編の短編小説。
「一つの歌を分け合う」が一番印象的だった。
従兄弟が亡くなってしばらくしてから、伯母が舞台俳優を亡くなった我が子だと思い込み、主人公と一緒に観劇に行く話。
「劇場では誰も泣いている彼女を不思議がったり、奇異な目で見たりしなかった。理由を取り繕う必要はないのだ。伯母は好きなだけ泣くことができた。」
という、帰り道のシーンがよかった。
夫の祖母の葬式のときに、子供を亡くした叔母さんの話を聞いてから、それと重なって思いを馳せてしまった。
「かわいそうなこと」「盲腸線の秘密」も、子供ながらの世界を表していてよかった。