吉田修一のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
久しぶりに興奮しながら小説を読んだ。映画が話題になっていたがまだ観ていない。本を読んで本当に良かった。
極道の家に生まれた一人の青年が、たまたま関西の歌舞伎役者の家に預けられ訓練されて、女形の歌舞伎役者として成長していく物語。ご存じ厳しい世襲の世界、血筋でない者がいい役をもらい評価されるのは極めて難しい。
主人公喜久雄が不器用ながら素直な性格でとても好感が持てるので、読者は応援したい気持ちになるだろう。最初から認められたわけではなく、下積み時代も長かったし、先輩役者、妻や子、そして何よりライバルの役者、付き人など周囲の支えも必要だった。芸をひたすら磨き、舞台のことだけを考える生きざま。芸を極め -
Posted by ブクログ
今まで読んできた吉田修一作品とはまた違う雰囲気ではあったけど、改めて彼の文章が好きだなぁと思った。
各章で性別も年齢も異なる人物の目線で語られる構成で、文章の書き方を変えている。本当に別の人が書いたみたいに違う。
5章の短編で、東京に生きる5人の男女を描いている。それぞれが人生の分岐点にいて、でもそれは劇的なものでもなく誰にでも訪れる日常の1ページ。東京には華やかな人生を生きる人もいるけど、ほとんどは〝その他大勢〟なわけで、しかし彼らにも決してドラマチックではないドラマがある。
同じ時、同じ街に生きていても交わることのない彼ら人生に現れる2人の幼い兄弟が線で繋がっていく。各章の主人公たちには -
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「劇的なことは起こらないのが人生」「その人のいた世界と始めからいなかった世界は違う、それが生きるということ」「永遠を感じる瞬間を撮る」「リラックスして生きる」 これらの言葉が心に残った。
他の小説に記憶がないほど、普通の、ありきたりの、忘れてしまいそうな会話が続く。その一つ一つの積み重ねで人生が成り立っていること、人との関係ができあがっていくことを、いつのまにか感じ入る。時折顔を出す軽妙な、講談を聞いているような語り口も味わい深い。
実は自分の周りにも「世之介」はたくさんいるのかもしれない。日々普通に生きていること、他者が周りにいてくれること、その人達が生きてくれていることの意味を考 -
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ネタバレドラマも良かったけど、著者の構成力と描写力が味わえる原作の方に惹かれた。
台湾新幹線の建設という時間の流れを軸にしながら、隠されていた多田春香と劉人豪の人生の交差が次第に明かされて行く。
また、葉山勝一郎と呂のもうひとつの時間の流れ、人生の交差が加わることで、物語の構成に厚みを感じた。
作品の中の高音パートと低音パートがハーモニーを奏でているようだ。
春香や人豪を含めた登場人物たち、繁之や安西、ユキや林芳慧。彼らも人間くさく魅力的だ。
台湾には旅行で数回訪れた程度だが、台湾の風景が原色で甦ってくるような描写力に驚かされる。同時に風土の描写が台湾の人々の描写にもなっていることに感服させ -
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横道世之介は愛すべき男である。
完璧な人間ではないし際立った個性があるわけでもない。けれど彼と出会った人の記憶には、柔らかく、そして確かに残る。人によって思い出のなかで彼が占める割合はそれぞれだが、世之介に出会った人生とそうでない人生では前者の方が少しだけ幸せに思える。
他人との出会いは自分を構成する大切な要素だ。もう会うことのない過去の人たちから受けた影響や思い出は、今も自分のなかに価値観として息づいている。人はみんな互いに影響し合い、さまざまな色を焼き付け合いながら生きていくのだと思う。
自分が通っている自転車置き場には、整理整頓をしてくれるおじさんが何人かいる。数年前の自分は忙しく、 -
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ネタバレ遂に読み終わりました三部作の最終巻。
読んでる途中で「国宝」の原作者と知って吃驚しながら読んだ「横道世之介」
続編があると知ってオチが決まってるのに何を書くんやと思いながら読んだ第二作「おかえり横道世之介」。登場人物がほぼ一新して、なるほどこーゆー描き方するんだーと感心して遂に最終作「永遠と横道世之介」。今までの集大成かと思いきや、前2作以上に話があちらこちらに飛び回り集中力が途切れそうな描き方。でも二千花さんが出てきたり、終生のパートナーっぽいあけみさんが出てきたり、永遠や一歩やエバや咲子ちゃんは、人生の終焉に相応しい賑やかな顔ぶれでしたね。
大円団でした。
最後の一瞬はとうとう描かれず仕舞