吉田修一のレビュー一覧
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偶然にも知り得た吉田氏のエッセイは、心に響いた。本書もすぐに読んでみようと思っていた。個人的にも、旅は、いいものだ。
本書は、航空機内誌に連載されていた25編のエッセイを纏めている。カバーが、圧巻だ。椰子の木と
その椰子の木の周囲を取り囲む岩場等、ちぎれ雲とのコントラストが筆舌し難い。見事に夏の一瞬を切り取っているように見え、非常に目に映える。
筆者は、中国語を勉強しているようだ。日本語と中国語との発声方法の違い等を知ると、中国語に対するイメージ等も変わるという。さらに、筆者は、新しい言葉を学ぶ楽しさを述べている。確かに、学習直後は、特に楽しいだろう。
中国語の勉強を始めた筆者と、中国語に限らず外国語を少しでも実践したいという気持ちが強かった学生時代の頃とが重なった。
余談だが、先日、勤務中に中国人旅行者が質問してきた。何とも心許ない中国語力だが、問題等は解消できたようで、そのお二方は、満足気だった。
日々思っていることだが、新しい言葉を知ることは、世界を拡げてくれるはずだ。
本書は、私の背中をそっと押してくれた気がした。 -
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吉田修一さんの恋愛小説。
テレビ局に勤める俊平は、公園で出会った聴覚にハンディキャップを持つ女性・響子と恋に落ちる。
静かで穏やかな日々を重ねていく二人は、俊平が仕事で忙殺されるなかで、すれ違いが積み重なっていく。
俊平と響子は言葉を交わせない分、伝えたいことを精査して文字で伝えるため、余分なことを省略するのが当たり前になってしまう。だけど、その余分なことが相手を知るために必要なこともあり、心が通じ合えるほどの関係に至っていなかったことに気付かされる。
思っていた以上に相手のことを知らず、知らないことに薄々気付いていたのに知ろうとしなかった俊平の気持ちが見えてくる描写がとても良かったです。
二人の出会いの場面がとにかく美しく、はっきりとは描かれない二人の関係も想像をかき立てます。
吉田さんの恋愛小説は心に沁みる。また好きな作品が増えました。 -
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若者の群像劇と思いきや、予想外の結末に読後は呆然としてしまいました。
悩みを相談したり、ご飯を食べに行ったり、一見仲が良さそうな4人ですが、『本来の自分』と『同居を成立させるための自分』の違いがそれぞれの視点で描かれています。サトルという人物が登場することで、4人をより客観的にみる視点が加わり、この関係性の違和感に気付かされていきます。特に印象的だったのは、直輝の章で、「相手に思いやりを示さないことで、いつの間にか俺は、彼らの良き兄貴分に祭り上げられている」という一文がありますが、それはあくまで主観であったことを結末で知らされるところです。
仲が良さそうに見えて、誰も本来の自分をださないし、誰にも関心がないということ。読んだ後、じわじわと恐さを感じた作品でした。 -
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ネタバレタイトルと装丁に惹かれてほぼジャケ買いの一冊でしたが、
タイトルにそんな意味があったとは…。
ひょんなことから昭和の大女優・和楽京子こと石田鈴の自宅整理を手伝うことになった岡田一心。
回想での女優としての和楽京子の描写はまるで本当に映画を見ているような熱感で、
一方で現在の鈴さんは穏やかな時間のなかで生きていて。
片付けを通して鈴さんの歴史に触れ、読み終わる頃には一心とともにすっかり鈴さんの虜になってしまいました。
幼馴染の佳乃子を原爆で亡くした経験を持つ鈴さんと、わずか9歳の妹・一愛を亡くした経験を持つ一心。
鈴さんのかつての恋と、一心の恋心。
ふたりの共通点が見えてくるうちに、だんだん二人が近くなっていって、少しの間だけその糸が交わってまた解けてしまう。
でも解けた先にもちゃんと鈴さんはいて、一心の人生を支えていて。
そんなふたりのように、ひとときの交わりでもそこから自分の未来につながるような出会いを繋いでいくのが人生なのかな〜と思ったり。
読み終わったあと心の芯がじんわりあったかくなるような温度感のある一冊でした。 -
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2026.04.22 ★4.6
上巻は静かに淡々と時間が流れ、下巻からは怒涛の展開。
3ヶ所に居る身元不詳の男は一体誰なのか
誰が誰を信じていて、誰が誰を信じられないのか
「怒り」は誰が誰に向けたものなのか
一気に色々なことが起こり、ページをめくる手が止められない。
正直、読み進めるのが辛く感じる展開もあったが、ほんの少しだけ光が見える終わり方だった。
↓↓↓内容↓↓↓
山神一也は整形手術を受け逃亡している、と警察が発表。
洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、
優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、
泉は気に掛けていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。
日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。三人のなかに、山神はいるのか? 犯人を追う刑事が見た衝撃の結末とは! -
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吉田修一の描く群像劇はやはりピカイチだと思う。
とても素敵な作品だった。
台湾に日本の新幹線が走る。
商社の台湾支局に勤める春香と日本で働く建築家・人豪の巡り合い。
台湾で生まれ戦後引き揚げた老人・勝一郎の後悔。
「今」を謳歌する台湾人青年・威志の日常。
新幹線事業を背景に、
日台の人々の国を越え時間を越えて繋がる想いを色鮮やかに描く群像劇。
出てくる登場人物たちが皆何らかの形で台湾新幹線に関わっている。
これは非常に高等なテクニックだとも思った。
何気ない日常を描き、何でもない台湾人青年に至ってもそういう流れになる。
群像劇で一番難しい繋がりを、いとも簡単に描いている点は流石の一言。
メインとなるのは、学生時代に一度会ったきりの台湾人青年を
未だに心のどこかで思っている春香とその台湾人青年・人豪の
もはやすれ違う運命としかいいようがないもどかしい関係。
やはりタイミングというものは重要なのだなと思わせてもくれる。
物語は7年の歳月を描いているが、
変わりゆく台湾の情景など、読み手のこちらも台湾にいるかのような
そんな風に錯覚してしまうほどの描写が多く飽きが全く来なかった。
中国名の登場人物や地名が多い場合に陥る、
この漢字どう読むんだっけ?問題は最後までついて回るのだが、
それさえ乗り越えれば、
台湾という地がとても身近になるそんな体験をさせてくれる良作である。 -
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当初想像していたのとはだいぶ違う内容だった。それは勿論良い意味で。
心に傷を負った大学院生の岡田一心は、
伝説の映画女優である和楽京子こと石田鈴の自宅で荷物整理を手伝うことに。
引退した今なお美しい鈴さんの胸に秘められていた波瀾万丈な映画人生、
原爆が奪った運命と大切な人たち。
その過去に触れるうち、一心の胸にあたたかな光が灯る。
吉田修一作品で言ったら横道世之介に分類される読みやすさと温かさであった。
何より、鈴さんの生きた人生が本当に胸に刺さる内容であった。
ミス・サンシャインに込められた皮肉、
そんなことにも気付けなかった己の無知さ加減も含めて。
鈴さんという存在によって、
主人公であるはずの一心のズルさが非常に目立った。
本当にズルい男だと、最後までそれは拭えなかった。
だから自分の中でこの素晴らしい作品を満点に推せなかったのかもしれない。
とは言え、一心は欠かせない存在なのである。
桃ちゃんのクソさも含めて、物語には欠かせないのである。
この矛盾が何とももどかしかった。