池波正太郎のレビュー一覧
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鬼平初の特別長編「雲竜剣」。ふと「不知火剣」はあるのかしら?と相撲の型から連想してしまった。
かなりのボリュームであったが、読んでいる際にはそれほど長く感じなかったのは、やはり世界観に引き込まれたからだろうか。事件が立て続けに起こった後、これがどのように繋がるのか、読んでいくと…なるほどねぇ。という感じである。ちょっとしたミスリードらしいものもあってついつい止まらなくなる。
長編ではあるが、連載時にはそれぞれに小タイトルが付けられていたようで、順番に「赤い空」、「剣客医者」、「闇」、「流れ星」、「急変の日」、「落ち鱸」、「秋天清々」の七タイトルがある。
今回は被害にあった同心や門番が多く、捜査範囲も広くなったせいか、文中によく「人手が足りない」という表現が出てくる。
平蔵の御先手組に所属する同心は30名ほどだったはず。だが殉職してしまい、その分の人員の補充が間に合わなければそりゃ捜査するのも大変になるはず。捜査費用の捻出といい、人員の確保といい、基本的な部分が大変なのだなと感じる。
報謝宿というものの存在は初めて知った。…実際にあったのかな? -
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今回収録されている話は、
「あごひげ三十両」、「尻毛の長右衛門」、「殿さま栄五郎」、「浮世の顔」、「五月闇」、「さむらい松五郎」の六篇。
鬼平の世界では、盗人の世界の話として、掟がよく出てくる。盗みの三ヶ条がそれだろう。しかし、盗人間の決め事というのは、その都度説明されることが多い。
「尻毛の長右衛門」では、口合人に仕事を世話してもらった布目の半太郎が、お世話になる長右衛門の組織の女性といい仲になってしまう。「さむらい松五郎」では、既に轆轤首の藤七の一味に加入している須坂の峰蔵が一味を抜け、別の組織に入りたいという。これはどちらもアウトらしい。
組織を束ねる者からすれば、それはそうかもしれない。
この作品でよく言われることに、不況で閉塞感が高まり、入念な仕込をしない急ぎばたらきの盗人が増えている。独りばたらきで喰っていくのは大変。その反対に、商店では口入屋の紹介で入ってきた奉公人は個人の意思を尊重するためか気に入らないとすぐに辞めてしまう。だから盗人としては「引き込み」を入れ易いという。このせいか、最近、江戸時代の経済に関心が向いてきた。
また、今回は「殿さま栄五郎」といい「さむらい松五郎」といい、タイトルも話のポイントも似ているものがあった。比較してみるのもの面白いかもしれない。しかし、平蔵がピンチになる機会が減ってきたように感じる。
その一方で、「五月闇」ではレギュラー確定と思っていた密偵に危機が迫る。しかし、考えてもみれば密偵前の所業は平蔵も知らないことが多い。もしも随分と血生臭いことをしてきた者が、自分の行いを悔い改め、密偵になったとしても、鬼平の世界では安らかには死ねないのかもしれない。
巻末解説は翻訳家の常盤新平氏。昭和59年の執筆というが、非常勤講師先の大学で「本を読まない学生諸君に、『鬼平犯科帳』でもって、読書の楽しみを知ってもらいたかった。」とある。当時ですら学生は本を読まないと思われていたのか。大学生のあり方を変えるには根深いものがあるのかもしれない。 -
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今回収録されている話は、
「熱海みやげの宝物」、「殺しの波紋」、「夜針の音松」、「墨つぼの孫八」、「春雪」、「一本眉」の六篇。
「殺しの波紋」では、与力 富田達五郎が登場する。またしても剣の達人が登場するが…何とも切ない。
犯罪者を相手にする仕事をしているからか、何かの拍子に暗黒面に陥ってしまうことがあるのだろう。そのままズブズブと沈み込んでしまう恐ろしさを感じた。
今回、最も楽しめた話は「一本眉」である。中村吉右衛門の『鬼平犯科帳』では、「墨つぼの孫八」と一緒にして脚本が練られている。どちらかというと、「墨つぼの孫八」に力点が置かれているように思われる。
どうしても話の都合上、盗賊がたくさん登場するわけだから、いつかはこういう話も登場するだろうと思っていた。本来の盗めに誇りを持った盗人たちによる制裁。スッキリである。「清洲の甚五郎」、また登場してくれるだろうか。 -
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この巻で全体の半分。
今回収録されている話は、「いろおとこ」、「高杉道場・三羽烏」、「見張りの見張り」、「密偵たちの宴」、「二つの顔」、「白蝮」、「二人女房」の七篇。
「いろおとこ」、「高杉道場・三羽烏」、「白蝮」とレベルが高い剣士が登場するが、残念なことばかり。
火盗改には平蔵のほか酒井、沢田と剣の力のある同心がいるが、そんなに多くない。機動力があり、手に余るようならば盗人を斬って捨てることもある火盗改。捕縛も含め、剣の能力に長ける者がもっといてもいいように思うが、なかなか難しいようだ。
私としてはお気に入りの沢田が活躍してくれるので嬉しい。
「密偵たちの宴」は珍しい展開を見せる。そのまま話が進みそうでヒヤヒヤするが、楽しい一話となっている。 -
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今回収録されている話は、
「男色一本饂飩」、「土蜘蛛の金五郎」、「穴」、「泣き味噌屋」、「密告」、「毒」、「雨隠れの鶴吉」の七篇。
しょっぱなから、忠吾さんの貞操がピンチになっていた。かわいそうだけれど、読んでいてついつい笑ってしまった。普段、女性に目がないゆえに、ムキムキの男色家に迫られるのは、さぞ恐ろしかったことだろう。
「土蜘蛛の金五郎」に出てくる一膳めし屋、美味そうであった。映像では丹波哲郎主演の『鬼平犯科帳』バージョンが近いイメージだろうか。
「泣き味噌屋」は少々気分が重くなる。愛してやまない妻子を辱められた上に殺害されるなぞ、考えるだけでもはらわたが煮えくり返る。川村弥助の死亡フラグがなんとなく立ったような気がしていたが…。
「毒」は珍しく話が大きくなっていった。幕臣の上部組織にまで話が及んでしまうと、どうなるのか、と若干心配していたが、なんのことはない。さすが平蔵様。
今巻の解説はなかなか良かったと思う。東宝テレビ映画プロデューサーの市川久夫氏によるもので、鬼平の映像化に関する話であった。収録されている話の解説にはなっていなかったが、これまで収録されている解説よりはるかに楽しく読めた。別の切り口で鬼平を述べたからだと思う。 -
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1巻から読み始めて、気付いたらもう10巻。
今回収録されている話は、
「犬神の権三」、「蛙の長助」、「追跡」、「五月雨坊主」、「むかしなじみ」、「消えた男」、「お熊と茂平」の七篇。
このうち二篇で、平蔵の密偵になった者が死んでいる。レギュラーの密偵になるのは難しいようだ。
個人的には、雨引の文五郎はもう少し活躍してほしかった。
「蛙の長助」にて、長助が「生きているうち、せめて飲み食いだけは好きにしたい」と願う一節がある。これは結構大事なことだと思った。現代は様々なモノであふれている。コレクターやマニア向けのアイテムも山のように存在し、その購入と維持に大金をつぎ込んでいる。これにより、文化水準が向上、ないしは維持されるという面もあるだろう。しかし、所有者が亡くなった時、棺桶に入れられるものは知れているし、その意思を継ぐ者がいなければ、せっかく蒐集したモノもバラバラになってしまう。だから、これは考えようだが、あまりモノに執着しすぎず、美味しいものを食し、日々充実させた方がいいのかもしれない、と思ったりした。ある程度の年齢になると、残りの食事回数を意識するようにもなるのかもしれない。
読んでいて我ながらしょうもないことを、と思ってしまったこと。「むかしなじみ」に登場する彦十の昔馴染みの盗人「網虫の久六」について、その人物描写を読んでいたら、ベニー松山著『小説ウィザードリィ』に登場するホビットの忍者“ハ・キム”を思い出した。子どものような矮躯で、身軽だという久六。足の裏に毛が生えていたら、間違いなくホビットだ。 -
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今回収録されている話は、
「雨引の文五郎」、「鯉肝のお里」、「泥亀」、「本門寺暮雪」、
「浅草・鳥越橋」、「白い粉」、「狐雨」の七篇。
「本門寺暮雪」では凄腕の刺客が登場する。丹波哲郎主演の『鬼平犯科帳』では、それこそ作中の刺客を表現する「凄い奴」というタイトルに変更されていた。
「血闘」の時なども読んでいて思ったが、長谷川平蔵は決してスーパーマンではない。確かに剣の腕は素晴らしいのだが、だからといって10人以上を相手に、ズバズバ斬っていけるわけではない。そういうところが、よりリアルに感じる。
「浅草・鳥越橋」はなんとなく話が途中で終わっているような気がしてしまう。捕り物があったわけではないからか。…しかし、この話、読んでいるうちに定七がもしかしたら男色なのかもしれないと考えてしまう。仁助のことが…なんて。
「狐雨」はまるで古典落語のような話。狐憑というのは、もしかしたら今でもあるのかもしれない。顔の表情が大きく変わるという。しかし、このような不思議な話でも、『鬼平犯科帳』の一篇に加えられているのは実に面白く、興味深い。 -
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収録された話は、
「用心棒」、「あきれた奴」、「明神の次郎吉」、「流星」、
「白と黒」、「あきらめきれずに」の六篇。
収録篇数が少ないが、それは「流星」のボリュームによる。頭脳派でしたたかな賊に剣客までつくと、ろくでもないことになる。
「兇賊」は平蔵暗殺を企てる賊の話だったが、今回は平蔵の周りの人々を襲い、平蔵を凹ませるだけでなく、その隙に盗みまではたらこうとする話。そんなこともあって、内容が濃い。
そういえば、丹波哲郎主演の『鬼平犯科帳』での、この「流星」では、剣客役に『ルパン三世』の銭形警部役の納谷悟朗
さんが出演されていた。声だけでなく、演技も素敵だった。
さて、「あきらめきれずに」では、またしても岸井左馬之助の純情な面が描かれる。「本所・桜屋敷」以降、左馬之助もお気に入りのキャラになったが、やっと春が来た。よかったよかった。 -
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収録された話は、
「雨乞い庄右衛門」、「隠居金七百両」、「はさみ撃ち」、
「掻掘のおけい」、「泥鰌の和助始末」、「寒月六間堀」、
「盗賊婚礼」の七篇。
真っ当な(?)盗賊であっても、その引き際は難しい。
組織の維持というのも難しい。優秀な「右腕」がいるのはいいことだけれど、それが大きな野望を抱いていると怖いことに。
本巻も様々な盗賊の人間模様が見られる。
気になったのは、巻末の「解説」。いらないと思う。
解説を請け負った人は、それがずーっと残るということをよくよく考えて書いてほしい。何刷目であろうと、残るわけだから。
冒頭で「池波さんの文章は映画的である」と述べながら、結局その話ができずに終わるって、まさに「竜頭蛇尾」じゃないか。