最近観た「シャツの店」というドラマがあって。
1986年のNHK放送。連続5回。山田太一さん脚本。
鶴田浩二さんが頑固旧弊なシャツ職人で、妻の八千草薫さんがたまりかねて家出します。若い息子の佐藤浩市さんも親父を批判。
そして、八千草薫さんには近所の冴えない妻子持ちサラリーマンの井川比佐志さんが、一目ぼれ。
そんな熟年夫婦の別居のゴタゴタに絡むのが、美保純さん、杉浦直樹さん、平田満さん…という、何とも豪華で内容もどっしり。
戦前風家長文化と80年代的個人至上主義?がぶつかり合う、ちょっとコミカルな大人の物語。
で、鶴田浩二さんが、ぼやくのが。
「男は仕事を頑張る。女は家でそれを支える。そういうの、古いのかねえ…。そういうの、好きなんだけどなあ」
そんなぼやきを思い出した一冊でした。
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いわゆる伝記。偉人伝というか。
そう考えると、なんて読み易くて素敵な伝記、偉人伝なんだろう、と思えます。
どういう連載を集めた単行本だったのか、ちょっと判らないですが、短編評伝集、という感じです。
・黒田如水
・滝川三九郎
・真田信之
・真田幸村
・決闘高田の馬場(堀部安兵衛)
・永倉新八
・三根山
・牧野富太郎
の、8人、8篇。
滝川三九郎というのは、真田信之、幸村の兄弟の妹と結婚した武士。
この人がいちばんまあ、偉業を成した人ではないんですけど。
飄々と戦国末期を生き延びたその生き様が、池波さんは相当好きみたいですね。
信之、幸村と合わせて、この三人は「真田太平記」ほかでもたびたび池波さん、書かれています。
どの短編も、上手く面白く書けてるなあ、と。
その人物の事を良く知らなくても、つまりどういう人だったのか、というのが平易に判ります。
入門的に読み易いのではないかなあ、と思ったり。
それから、「三根山」さんは、昭和前半の相撲取りさんなんですね。1922年生まれ。
で、この短編はなんとなく同時代的に書かれていますから、恐らく1950年代。
つまり、2015年現在から振り返って位置づけると、戦前生まれのお相撲さんの半生と、ベテラン力士としての奮闘のドラマ。
そして、「牧野富太郎」さんは、幕末に生まれて、戦後まで生きた長寿の直物学者さん。
何の学歴もなく、ただ単に植物が好きなだけで、ほぼ独学我流で植物の分類やら研究で世界的な成果を残した、という人物です。
この昭和のおふたりは、正直、僕は不勉強でまったく存じ上げなかったので、いちばん「へー」と思ったし、面白かったです。
単行本のタイトルが「武士の紋章」なんですけど、この表記で「武士(おとこ)の紋章」と強引に読ませてるんですね。
全員が武士というか"おとこ"である、という共通項がある、という意味なんでしょうけど。
まあ確かに、三根山さんにせよ、牧野富太郎さんにせよ、カワイイところもあるけれど、まあとっても昭和の男っぽいんですね。
うーん
むつかしいですが、男尊女卑気味っていうか…
男は仕事、そして大きな達成。女は黙って支える。家事は育児は当然、女性。今と違って家から出れない。男は外に、夢中で仕事。でも最後の最後に女に愛を…みたいな。
まあ要するに、仕事を愉しんだり夢中になれたりする男性にとっては、実に都合の良い世界観といいますか(笑)。
ただ、それを2015年の男女同権機会均等的な考え方で批判するのは、懐の狭い話ですよね。
だって、1950年代の日本な訳だから。というか、その時代だったらアメリカでも欧州でもどこでもまだまだ、ですよね。
それはそれで、実にこう、錆びついてしまった、一部の人からしたら美しい世界観の遺跡を見る気分。でした。