小野寺史宜のレビュー一覧
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大切なのはものじゃない。形がない何かでもない。人だ。
遅刻常習犯で、人に仕事を押し付けたりする映樹だが、不思議と嫌われない。
それと対照的に、青葉の元カレ高瀬涼。
『はい、とそうですね、をいったい何度言わされるのか。こういう人は男女どちらにもいる。すでにそうとわかっている事実を挙げて、相手に肯定させる』
「おれはたまたまちょっといい大学に行ってるけど、そんなことは何でもないと思ってるよ。」
『高瀬涼は今の発言に引っかかりを覚える人がいることに気づかないのだ。』『生まれつき高いところにいて、そこから下りたことがないから』
惣菜屋で、週五で働く聖輔に
『「尊敬するよ」尊敬、重そうな言葉が軽めに出た。』
『銀座駅から地下鉄に乗ると三十円高いので、日本橋まで歩くのだ。僕はこれからもずっとそんなことを続けていくのだろう。』
両親の急死によって、何もない、日々の生活も節約して丁寧に生きている柏木聖輔。
「今の柏木くんが人にものをあげられるって、すごいね」
そんな聖輔に寄り添う青葉の言葉。
他店で客前での叱責を聞いた聖輔が
『再訪はないかもな、と思ってしまう
厳しさとは何なのか。自分への厳しさ。他人への厳しさ。それは同じであるべきなのか。』
この一冊で周りのひとを大切に想い、丁寧に生きている聖輔をなぞり、一つ一つの言葉に考えさせられました。
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新しいことへの挑戦を後押ししてくれる物語
亡き両親が営んでいた蕎麦屋、
主人公の鳴樹は継ぐつもりはなかったが、
始めてみたら、父はやっていなかった出前を開始したり、新味の開発や蕎麦打ちまで習得しようと前向きだった。
小枝は学校と1つ目の仕事は続かなかったが、
鳴樹の誘いや提案には全て「やってみる」と挑戦しているのが印象的だった。持ち前の製菓技術で作ったプリンを私も食べてみたい。その前向きさに勇気をもらった。
和太もやんちゃな人柄で、鳴樹とのリズミカルな会話が楽しい。なんだかんだで人の意見も素直に聞き、接客も頑張っている。早く母親と一緒におそばを食べてほしいと思う。
この作者の小説は始めて読み、お客さんの登場人物が多く物語の後半で再登場したときに誰だか分からくなったが、どうやら小野寺シェアワールドと呼ばれる作者作品の共通世界を舞台が舞台で、他作品2出てくる登場人物やお店らしい。
それを知って、しっかり他作品も読んでみたいと思った。
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千葉の館山でひとり暮らしをする78歳の父が、最近少しおかしい。
東京の大手求人広告会社で働く那須野富生は、久しぶりに会う父の様子に戸惑いを隠せなかった。
それまで意識しなかった父の「老い」。生活の見直しを迫られる富生。勤務形態、恋人との関係。不惑を迎えた富生の困惑と決断を描くヒューマンドラマ。
◇
「あれっ。車、へこんでるじゃん。どうしたの?」
久しぶりに館山に帰省し、父の車で買い物に行こうとしてリアバンパーがかなりへこんでいるのに気がついた。驚いて理由を尋ねるが、父の返答はひどく頼りない。
「ああ。ぶつけたんだな。確か」
などと言い、ぶつけた時期もかなり前としか覚えていないようだ。父の曖昧な記憶によると、ぶつけたのは車庫入れするときらしい。
僕が休みを利用して久しぶりに実家に帰ったのは、78歳になる父の様子を見るためだ。6年前に母に先立たれてから父はいっきに老けた。元気がなくなり外出もあまりしなくなった。
気になってはいたが、帰省の決定打になったのは、父から久しぶりにかかってきた電話だった。
先日の夜、急に電話をかけてきた父が、
「家にあるお前のTシャツ着てもいいか?」
と聞くので、高校の頃のTシャツがタンスにあったのを思い出し、かまわないと言った。
「じゃあ着させてもらうよ。今さら服を買ったりするのはどうもめんどくさくてな」
父はそう言って電話を切った。
まあ40歳の僕でもめんどうなんだから、父ならなおさらだろうなと思っていたところ、2時間もしないうちに父がまた電話をかけてきた。そして、
「お前の部屋のタンスにTシャツが入ってるよな。あれ、着ていいか?」
と先程と同じようなことを言うので……。
( 第1章「現在 1月 40歳」) ※全5章
* * * * *
誰でも必ず、親の老いと向き合わなければならない日がくる。そして、種々の決断に迫られることになる。そのときどうするか。
そんなことが、小野寺史宜さんらしい淡々とした文章で描かれていました。
主人公は、那須野富生という男性で、東京の大手求人広告会社勤務の40歳。
富生の出身は千葉県館山市。大学進学で上京し、卒業後そのまま東京で就職して現在に至る。
未だ独身ながら恋人はいるし、仕事も順調で、楽しく充実した日々を送っている。
という、地方から都会に出てきて、まずまず幸せな人生を歩んでいる人の話としては、小説だけでなく現実でもよくある設定です。
そんな富生にも、ある日、決断のときが訪れます。きっかけは、父親の言動に不審を感じたことでした。
不安を覚え、急遽帰省した富生が見たのは急激に老けた父親の姿。それは外見以外に、
・同じことを何度も言うなど、最近の記憶がひどく曖昧。
・自己身体認知機能が低下しており、物との接触や衝突を起こしがち。
・台所仕事の際の、火の始末や刃物の扱いがはなはだ危なっかしい。
などのように、言動にも顕著に見られるようになっていたのです。
父親は、ひとり暮らしになってからの6年間で、明らかな認知症の兆候が出てきたのでした。
そんな現状を目の当たりにした富生が迫られた選択と決断。それは……。
いちばん大きなものは父親の処遇です。
・同居すべきか施設に入所させるべきか。
・同居するのなら、父親を東京に呼ぶのか、富生が館山に帰るのか。
最も現実的なのは、富生が館山に帰ることです。
東京で同居するには、現在の1Kのマンションを引き払い、少なくとも2LDK の部屋を探す必要があります。また、施設に入所させるためには、父親を説得し、施設を探す必要があります。
どちらにしても時間がかかるため、すぐに手を打てないということになります。
一方、富生の職種はリモートワーク中心の勤務形態が可能なので、居住地は自由です。 ( 出社は月イチで OKなのでクリエイターなのでしょうか?)
ともあれ、富生の仕事や手間を考えても、父親のストレス軽減を考えても、富生が館山に帰るということが最も合理的であるようです。
ただ、ここで問題が。それは恋人の存在でした。
富生には付き合って8年になる高島梓美という恋人がいます。
彼女は食品会社に勤める、(恐らく) 総合職の女性で、仕事にやりがいを感じています。また、現在35歳という、結婚を意識する年齢でもあります。
東京での恋人生活は順調で、2人はとてもいい関係でした。それは、互いのライフスタイルを尊重しあっていることが大きいほか、富生の勤務がフレキシブルであることも無関係ではないようです。
でも、富生が館山に引っ込むということになれば、2人の付き合い方も変えざるを得ません。
彼女はリモートで済む仕事ではないし、キャリアを考えれば、退職して館山に来てもらうことなどできないでしょう。
さて、富生がどのような選択をするのかですが、小野寺さんは、さらにもうひとつの問題を絡めてきています。
実は、富生は中学時代から (ある事情で) 父親を疎ましく感じ出し、必要以上はことばを交わさないほど距離を置くようになっていたのでした。
富生が実家を嫌って東京の大学に進学したのも、上京後は正月くらいしか帰省しなくなったのも、父親との関係の悪さが一因だったのです。
父との心の交流が皆無の青春時代を送った富生がいま目にしているのは、妻を亡くして危うい独居生活を送る老父です。
もし自分が富生の立場だったら……。
つい考えずにはいられませんでした。
こんな胃が痛くなるような状況で、苦しい選択をしていく富生の姿を、小野寺さんはいつもの淡々とした筆致で描いていらっしゃいます。物足りなくもあるのですが、押しが強くないぶん、自分ならどうするかなどと、かなり考えさせられもしたので、いい作品だと思います。 -
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この本を読んで思いました。私に合った本だなと。
小野寺さんの書く小説、ぬるっとしていて、呆気なくって、でもそれが心地よくて、やっぱり好きですわー。
取り立てて大きな事件が起こるわけでもなく、どんでん返しがあるわけでもない。ただ、淡々と過ぎていく(過ぎていった)日常の断片を丁寧につなぎ合わせ、ある日の青春の1ページを、ふと呼び起こしてくれる。そんな小説でした。
合唱がメインの物語かと思いきや、途中からバンドの話へと舵を切る展開。元バンドマンの私としては、そこで一気に心を掴まれてしまい、気づけば最後まで一気読みでした。(私も主人公と同じく“V”のみでした)
少し脱線しますが、My Little Loverの「Hello, again」という私の大好きな曲があります。(特にこの作品に登場してくる訳ではないです)
歌詞の解釈は人それぞれだと思いますが、中でも「少しのリグレットと罪を包み込んで」というフレーズが、この作品の持つ世界観やノスタルジーとどこか重なっていて、当時を思い出したりなんかして、ちょっと感傷に浸ってしまいました。 -
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「みつばの郵便屋さん」第4弾。
新しい局長さんが赴任してくる。細やかな気配りや気遣いができる穏やかな人で、こんな上司って良いよなぁと思った。
中学生の時不登校だった柴崎みぞれちゃんが、明るい高校生になり年賀状のバイトに来たり、セトッチと未佳さんの結婚、
そして秋宏もたまきへプロポーズ。
人と人との偶然の出会いの繋がりで奇蹟が起きていく。温かい時の流れに心がほっこりした。
他の巻で出てきた登場人物のエピソードを丁寧に書いてくれているので、この巻から読み始めた読者さんや、私のように誰だったか忘れてしまった人間にも分かりやすくて、小野寺さんの優しさにも感謝です。
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同じ電車に乗り合わせた人が、どこかで緩くつながっている、それは運命的でも決定的でもないな繋がりだが、都会では視界に多くの人が入り、その一人一人に人生や考えがあり、今どんな体調なのかとか、気持ちなのかと考えてみるとこの小説になる。
そして、ほんのちょっとしたすれ違いや出会いが、その人の何かを変えてしまうことがあると。
都会ではなかなか他人に声をかけるとか、しにくそうだが、関わることで物語が生まれる。
もしかすると、日々、当人には気づかれない、たくさんの「奇跡」が満ちているのかもしれない。そう考えるとちょっと楽しくなってくる。
「奇跡」はそうして人と関わることで生まれる。他人同士の繋がりを重視して構成するのではなく、それぞれの人生の中でふとした瞬間を捉えているのが、絶妙な描き方だと思った。 -
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朝の満員電車の同じ車両に乗り合わせた人たちに、偶然の出来事が連鎖して奇跡が起こる。
通勤通学、その他諸々の事情を抱えた7人の男女の群像劇。
動く快速電車、次の停車駅まで15分間という狭い車両の中でのちょっとした事件や、少しハラハラする場面もあって、スリルも味わえて面白かったです。
絶体絶命のピンチから救われたり、他人の勇気ある行動を目の当たりにして改心したり、たまたま出会った人たちが知らないうちに影響しあって、物事は必ずといっていいほど良い方向に向かっていく。
世の中にはこんなにたくさんの奇跡が溢れているなんて驚きです。
どのお話も最後は優しさに満ちた終わり方で、作者さんの温かい人柄を感じます。