やはり小野寺さんの作品は好きだ。
何作目か分からないほど読んだ小野寺作品。
毎回のごとく、主人公はぱっとしない男性。華やかさはなく、自分の決めたルーティンで粛々と生活を送ってはいるものの、このままではまずいと感じている。
そしてとにかく歩く。歩きながらひたすら考える。これまでとこれからの人生のことや、自分が行き詰まっていることについて考えるシーンが多い。
これらはほとんどの作品に共通していて、それが分かっているのに私は小野寺作品を見つけたら手に取ってしまう。なぜなら、会話が多くて読みやすいため、どんな場面での読書にも合うから、そして読みながらだんだんと前向きになれるからだ。
大人になってから、繰り返しの多い毎日を根気強く過ごしていくことの大変さを何度も痛感している。そんななかで主人公たちを見ていると、無理せず自分のペースでやっていこうと思える。彼らは決してぱっとしないが、いつも他人に優しく、また日々をきちんと生きていて尊敬する。何ならちょっと憧れる。
本作の主人公は目立ったヒット作のない作家・横尾成吾。そしてその担当編集者で、これまたヒット作を出したことがない井草菜種。そんな2人の大人の青春物語。
編集者である菜種が、第三者に主人公の作風について語るシーンがあった。
分かりやすい演出をするのは横尾らしくないと。
「何冊も読んでみましたけど。横尾さんて、そういうのを意図的に避けてきた人だと思うんですよね。わざとチープに書いたりはしますけど、絶妙なとこで踏みとどまって最低限の品は保つというか。低いところにある品そのものを描いてるというか。」
まさに小野寺さん自身の作風について語っているような印象を受けた。
分かりやすい展開、噛み砕いて言うと他の作品にもありそうで、かつ実際には起こることのなさそうな盛り上げるための展開にはしない。その手前でブレーキを踏んで、誰の日常にもありそうなルートに戻す。小野寺作品には、そういう印象がある。
それが物足りない人はいるだろうし、映像化しても万人にウケる気はしないが、やはり私は小野寺作品が好きだ。すぐ近くで起こりそうで、でも関わることのない人たちの物語に浸りたいときもたくさんある。
本作の感想というより小野寺さんへのファンレターのようになってしまったが、本作もやはり良かった。最後に驚く展開がいくつもあったが、ド派手なことは何一つ起きないのが良かった。
代表作の一つ「ひと」から生まれた作品らしいが、個人的には「ひと」より好きだった。