あらすじ
ベストセラー『ひと』 『まち』 『いえ』に続く感動の青春譚!
わたしは母を傷つけた。たった一人の肉親を、言葉のナイフで――。
あれから13年、後悔ばかりで大人になった。
でも、孤独に負けずにいられたのは、母の、仲間の、「うた」 があったから。
母がわたしを産んだ歳になった。今、わたしに、湧き出るものがある――。
27歳の古井絹枝には、晴らすことのできない後悔があった。
中学生の頃、地域の合唱団に所属する母に「一緒にうたおうよ」と誘われたものの、撥ねつけてしまったのだ。母が秘めていた想いも知らずに・・・・・・。
大学時代、絹枝はバンドを組んでいた。
ギター担当は伊勢航治郎。バンド解散後もプロを目指したが芽が出ず、だらしない日々を送っていた。
ベース担当は堀岡知哉。バリバリ働く妻がいるが、自分はアルバイトの身で、音楽への未練も僅かにある。
ドラムス担当は永田正道。大学卒業後、父が越えられなかった資格試験の壁に挑もうとするが・・・・・・。
かつての仲間が、次の一歩を踏み出そうとする物語。
感情タグBEST3
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母がわたしを産んだ歳になった。
今、わたしに、湧き出るものがあるー
二十七歳の古井網枝には、晴らすことのできない後悔があった。中学生の頃、地域の合唱団に所属する母に「一緒にうたおうよ」と誘われたものの、撥ねつけてしまったのだ。
母が秘めていた想いも知らに・・・。
大学時代、絹枝はバンドを組んでいた。
ギター担当は伊勢航治期。バンド解散後もプロを目指したが芽が出ず、だらしない日々を送っていた。
ベース担当は堀岡知哉。バリバリ働く妻がいるが、自分はバーテンダーとしてアルバイトの身で、音楽への未練も僅かにある。
ドラムス担当は永田正道。大学卒業後、父が越えられなかった資格試験の壁に挑もうとするが・・・。
かつての仲間が、次の一歩を踏み出そうとする物語。
小野寺さんの作品はどれも文章が淡々としていて、大袈裟な形容表現などがなくとても読みやすい。中学時代の絹枝の視点から始まり、大学からのバンド「カニザノビー」のメンバーそれぞれの解散後が描かれる。バンドを解散し、プロを諦めた4人の新しいスタートを描く。大きな出来事はないが、やはり温かい物語。よかった。
東京の駅名や街並みが詳細に描かれていて、暮らしたことのある人はより楽しめるんだろうなあと感じた。
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物語としても面白かったけど、東京23区を中心に首都圏での生活が長かった私は、実名で登場する路線名や駅名等、懐かしくて、懐かしくて。あー、この道私も歩いたじゃん的な。新しい小説の楽しみ方を教えてくれた気がします。
Posted by ブクログ
読後感がとても良かった。
「うたわない 古井絹枝」から「うたう 音楽的に発声する 古井絹枝 V」へ向けて、お話が紡がれていく。
その間に登場する3人の物語も、絹枝と交差しながら、うたわない絹枝から、うたう絹枝に至る間を埋めていく。
絹枝が大学時代に所属していたバンド、カニザノビー。たぶんこうだろうな、と考えていたバンド名の由来が分かった時もしっくりきた。
小野寺さんのお話の中では、土地の具体的な町名や電車の駅名がよく出て来て、今回も、住んだことはないが、行ったことはある、よく通っていたことがある場所だったりで、そこも面白かった。
普段暮らしの中で、遠回りをして歩いたり、なかなかしないのだが、時間ができたら、季節が良い時期なら、散歩も楽しめそう、と思えてしまう。
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『ひと』→『まち』→『いえ』→『うたう』
次は、うたうのかぁ…
チャプター1【うたわない】
うたわないんかい!!
という最高のイントロダクションから入る本作。笑
まあ、ただ物語を読み進めていくと、その『うたわない』もちゃんと伏線として活き、最後の数ページで沸かせてくれます。
やっぱし、主人公たちが前進していく姿は、読んでいるこちらも前向きになれていいですね。
そして、何といっても作者さんお馴染みの、つらつらと読めてしまう文体。
どういう意味だろうって考えずとも、読んでいるうちに内容が頭に入ってくるのは作者さんのテクニックのような気がします。
毎度非常に読みやすい!
あと、共感したことは、動画の倍速再生と本の流し読みについて。
〈本書一部抜粋〉
話の筋がわかればいいだけなのか。登場人物たちの会話の間とか声の揺らぎとか、そういうのはどうでもいいのか。私はこれで楽しめているのか。何のためにこれをしているのか。(中略)
とりあえず見終えた。とりあえず読み終えた。その満足感はどこか虚しい。虚しい満足感。言葉自体が変だ。満足してないだろう、それは。
→たしかに、自分が好きでしていることくらい、楽しく満たされている時間でありたいものです。
最後にわたしは、『ウオザノビー』笑
Posted by ブクログ
表紙を繰ると、うた・う【歌う/謡う/唄う/謳う】と辞書的な感じで書いてあるのが心くすぐる。
そして、それぞれの「うたう」の意味に合ったストーリーが連なった作品でもある。
最終章、内から湧き上がってくるものがあった。
歌いたくなる。
どなたかが小野寺さん調として、台詞ではなく、内面の語りが多いことを書いていましたが、本作はほぼ内面の語り。私はそれがまた好きなのです。
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大学時代のバンドメンバー4人のその後の話。
私は知哉が素敵だと思いました。
それぞれみんな社会に出てから、次の一歩を踏み出して行く感じがリアリティがあって共感できました。
私も歌いたくなりました!
今度1人カラオケ行こうかな〜♫
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ささやかな関わりから描く群像劇かと思いきや、3話目から大学時代のバンドの登場人物繋がりという事に気がつく。1つのバンドを終わり後の人生を当時を回想しながら書いていく。時期をずらした導入が少し工夫されていると感じた。
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うたうって気分転換やストレス発散になるし、何より気持ちいい。
私も子どもの学校役員でコーラスを2年間していたが歌うことは楽しかった。
小野寺先生の文章は読みやすいし時折、グサっと刺さる言葉がある。
愛さないひとは愛されない
って、なるほどな〜。深い。
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去年発売の新作。
解散したバンドメンバーのそれぞれの人生の話。
音楽諦める、次の人生どーする?
そんな話からやっぱり音楽ていいよね、歌うっていいよね。声を合わせて音楽を作る。会話とは違う声の出し方。上手く言えないけど歌うっていいなって思った。
いい意味で考えなくても声が出せる、決められた音、決められた歌詞を歌って発信できる。
なんか日頃コミュニケーションに疲れてる私に染みる話だった。
声がうたになる。
湧き出てくるものがある、それがうた
素敵だなぁ。やっぱり小野寺さんは染みる。
人間関係に疲れた時にはこのシリーズ読み返したい。
Posted by ブクログ
大学時代のバンドメンバーの話。
「うたう」とあるが、焦点はやはり「ひと」。小野寺さんらしい軽い文調で主人公含めた元バンドメンバー4人の物語。
それぞれ区切りをつけて、前に踏み出していくのがリアリティあって良い。直近で読んだ「モノ」にも共通するが、いろいろな「ひと」がいて、それぞれ自分の人生を歩んでいることを改めて伝えてくれて心が軽くなる。
自分も前向きに生きたい。
Posted by ブクログ
かつて同じバンドメンバーだった若者のその後の人生が描かれていました。それぞれ音楽とは一旦区切りをつけながらも、やっぱり日常から完全に音楽を排除できない様子がリアルでした。個人的には、トモの妻のオカリナさんがとても素敵な女性だなと思いました。
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『ひと』『まち』『いえ』に続く『うたう』。
やっぱりこの雰囲気・空気感が好きだ。
大袈裟ではない、人と人との関わり、なにかリアルを感じさせてくれる。
あてもなく、歩いてみようと思う。
Posted by ブクログ
言葉のナイフで母を傷つけてしまったことを後悔
その母が子宮がんで亡くなってしまう
母を傷つけたことを、ずっと後悔しながら音楽を続け大学生でバンドを結成し解散するが
社会人になって母が大好きだったコーラスを始める
言葉のナイフは、一番怖い
言われた方も行った方も傷つく
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バンド「カニザノビー」の4人の物語。
何か劇的な展開がある訳ではないけれども、リアル。
東京の駅名や路線、街の雰囲気が事細かに表現されていて、私は都内に住んだことがないから全くピンと来なかったけど、暮らしたことがある人はありありと情景が浮かんできてより物語を近く感じるんじゃないかな。
話に出てきたビリーホリデイやマウンテンを流しながら読み進めていくのもとてもよかった。
バンド解散後、それぞれの道を歩み出した訳だけれども、絹枝がお母さんの姿を追いかけそれと同じことをやるだけでなく、新しい挑戦に向かっていくラストはとても爽やかだった。
Posted by ブクログ
なんか楽やねんなぁ。
この人の書く文章、なんかええねんなぁ。
どこがどうって言われると
説明しにくいねんけど、
それはつまり、好きなんやろな、と。
なんでもないことを、なんか考えてる時の思考。
それがとてもよくわかる感じ。
いろんなことを逡巡し、迷い、惑う。
でも、なんだかんだで、前向きにいける。
それを少し、分けてもらう感覚。
Posted by ブクログ
1章の終わりにちょっと驚き。短編をつなぐ形なので絹枝は最後まででてこないのかなって思ってま
した。が、その後の話もつながっていて、キャラクター同士の繋がりがおもしろかったです。夢やぶれた人が、希望を取り戻すところがいい。
Posted by ブクログ
ひと、まち、いえに次いでうた。著者の小野寺さんのこれらの作品には共通して、暮らしの切り取り方が上手いというのがある。そこに世界を巻き込むような出来事や派手な展開はほとんどない。ただある街の若者たちの暮らしを追うのである。
今回の作品はうた。上で述べたように、歌で世界的ヒットをしたり歌が絶望にある人を救ったりというような大きな話ではない。ただ合唱団に所属する母や、バンドを組み共に青い夢を追った友人など、主人公と人との繋がりのそばにはうたがあった。そんな、どこにでもあり得るような、どこかで起こっているような話なのである。読み終わるときには多くの登場人物を好きになり、感情移入できる作品である。
私は「上には上がいる」と思って、得意なことや好きなものを無我夢中で追いかけることをいつからかやめてしまった。この作品の最後のシーンは、自分の中で沸き出る気持ちにそのまま従えと、私の背中を押してくれた。歌はいいよな。
Posted by ブクログ
大学生の時に組んだバンド「カニザノビー」。そのメンバー達のそれぞれの青春時代の物語。
ヴォーカルの絹枝は母親を傷つけてしまったことをずっと引きずっている。
ギターの伊勢はプロになりたくて、なれなかったことで躓いてしまった。
ベースのトモは妻との暮らしの今後を改めて考える。
ドラムの永田は音楽から離れて新しい生き方を目指す。
「うたう」事から卒業したメンバーたちの人生がそれぞれの視点で描かれた、連作短編集。
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うたう。
最後の章で歌を口ずさむ場面がいいですね。
バンドを組んで夢に向かって突き進む、という話ではなくて、それぞれが解散した後にどう生きていくか、悩みながら新しい道を模索していく物語。
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丸が多い。てんじゃなくてまる。
ひと。まち。いえ。ときてうたう。うたう。
バンドのメンバーの生い立ちを丸で区切りながら追いかける感じ。丸で区切ることであたたかさとうっとうしさが生まれる。いや。うっとうしさが増すか。今までの良さが減った。そんな感じ。
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GBDV
バンドメンバー4人の学生時代から20代後半までのそれぞれの物語り。
大学3年生になり、バンド活動と就活の板挟みの問題が始まる。
我が子と重なり、かなり感情移入してしまった。
音楽はずっと続けて欲しいな。
Posted by ブクログ
大学で組んだバンド「カニザノビー」の4人の音楽と人生のお話。どこにでもいるような人々のお話だが、何か好きなもの、大切に想う事がある事で救われたり前を向けたりするんだろうな。ただもう少し盛り上がる、心騒ぐエピソードがあれば良かったかも。全体的にモヤモヤして終わる話の印象でした。
Posted by ブクログ
これまでの「ひと」「まち」シリーズよりは優しい、逆にいうと印象がぼやけた物語。4人別々の物語が進む中で、それぞれの過去が分かってくる、という仕掛けはわかるが、一冊の物語としてはやっぱり印象がぼんやりする。自作に期待します。
Posted by ブクログ
「まち」「ひと」「いえ」同様の世界。何ら特別な事件や出来事もない、普通の人たちの普通のまちの中で起きている出来事から切り取られた物語。
なのに、その淡々とした描写、自然な会話に引き込まれるというか、吸い寄せられる感じで読み進む事になるのは前3作同様で、いずれも穏やかな読後感に浸れ、たまに読みたくなる。
主人公絹枝の属したバンド名「カニザノビー(蟹座のB型から来てる)」をタイトルにした作品もある様なのでそっちも読んでみるか。
Posted by ブクログ
ちょっと期待していたのと違いました。もっと、歌や合唱のことが知りたかったです。楽器の話は、青春感が強く、今の自分には眩し過ぎて、気分が乗りませんでした。なので、好きなところだけ読みました。
絹枝の母である君枝は、合唱をどのような気持ちでやっていたのだろう。病気である辛さを一時的でも忘れられていたのだろうか。
歌うことが一つの救いとなっていたのかもしれません。想像すると、とても切ない気持ちになりました。
作者の文章の印象は、すごく淡々としているなと思いました。
あと、登場人物や駅名が出てくる頻度がものすごく多かったです。
Posted by ブクログ
小野寺作品、手に取るのに少し間が空いたので、カメオで登場する過去作の味のある人たちが見つけられなかった!
あとでも一回探してみよう(笑)。
箇条書きのようにサクサク進んでゆく解散後のバンドメンバーそれぞれのその後、まぁ、収まるところに収まりゃしないだろうと言う予感は…。
で、各々が新たな希望の縁を掴むまでのお話。
皆んなこのまま幸せになれれば良いな、と思いつつも彼らの年齢を考えると、まだまだ人生折り返してもいないし、これからふた山三山はありそうで、だけどそんな時も『うたう』を道連れに楽しく過ごして欲しいし、私も過ごしたいと思った。
首都高の万年渋滞ポイント、箱崎の少し手前に
『うたってごらん好きなうた』とのぼりが掛けてある。
やっぱり、私たちの道行きにはうたが必須だ。
Posted by ブクログ
[こんな人におすすめ]
*イライラして相手に突っかかってしまいがちな人
自分と価値観が違う登場人物が出てきても、頭ごなしに否定することなく「そんな人もいるかもなあ」と何となく思えてくる不思議な本です。
この本を読み終わる頃には少しだけ、ほんの少しだけ優しい人間になりたくなるかもしれません。
[こんな人は次の機会に]
*淡々とした小説ばかり読んで食傷気味の人
何も起こってないようで何かが起こっているような日常系の小説を読みすぎた人、小野寺さんの小説を毎月読んでる人は目先を変えて他のジャンルを読むことをおすすめします。ハードボイルド系とか。
Posted by ブクログ
大学時代、軽音サークルでバンド活動に情熱を傾けた4人。だが卒業後にメンバーを待っていたものは……。
VGBD を務めたそれぞれのリスタートを描いた青春連作短編集。
物語の視点人物は各章ごとに4人のメンバーが務める群像劇のスタイルだが、ヴォーカルの絹枝のみ第1章及び最終章の2章を受け持つ。
◇
6人の女の人が扇形に並んで歌っているのを、私は壁際に置かれたパイプ椅子に座って見ている。
ここは杉並区民センターの音楽室で、楽譜を手に歌の練習に励んでいる6人は区民合唱サークルのメンバーだ。
サークル名は「コーロ・チェーロ」。練習日は月3回。水曜2回と日曜1回で2時間ずつ。練習時間が限られているからか、みんな一生懸命に、しかも楽しそうに歌っている。
その中の1人が私の母だ。9人いる全メンバーの中でいちばん若い。
と言っても41歳。だけど最年長の岩塚さんが71歳であとは60代という集まりなので、母が若手であることは間違いない。
母は今日、そんなサークルへの入会を勧めるつもりで、中学2年の私を見学に連れてきたのだった。
帰り道。母は思ったとおり「絹枝もやらない?」と聞いてきた。そして「月会費は3000 円なんだけど、絹枝はただでいいって言ってくれてる」という母のことばを聞いて、私は言ってしまった。
「ただだからやるの? そういうの、貧乏くさくて、すごくいや」
母と私は都営住宅で2人暮らしだ。都営住宅は経済的に苦しい人しか入居できないことを、最近になって知った。
母と父はずいぶん前に離婚した。私はまだ2歳だったので、父のことは覚えていない。辻林忠興という名で母より3歳上であることは聞いたけれど、離婚の理由までは教えてもらえなかった。
ただ、高卒で特に資格もない母が女手ひとつで私を育ててくれている苦労を、私は理解しているつもりだった。
なのに、あんなことを言ってしまった。それを聞いたときの悲しそうな母の顔を、私はいつまでも忘れることができないでいる。
( 第1章「うたわない 古井絹枝」) ※全5章。
* * * * *
「うたう」ということ。歌うだけではなくて、楽器を奏でることも含め気持ちを曲に乗せて表現すること。
そのよさみたいなものが、小野寺さんらしいタッチで描かれていました。
各話で視点人物は異なりますが、作品を通しての主人公は古井絹枝です。
14歳のとき、母親の君枝への反発から、君枝が参加している合唱サークル活動をけなしたうえ「うたう」ことを絹枝は拒絶してしまいます。そんな叩きつけるような酷い物言いをした娘に対して、君枝は悲しそうな顔をするだけで叱ろうとはしませんでした。
境遇に対する不満や、身の丈にあった生活で満足しているように見える母を軽んじてしまう気持ち。そしてそんな自分への嫌悪。すべての負の感情が合わさってもっとも身近な母親にぶつけずにはいられない絹枝の描写には、胸が痛みました。
中学生ならこんなものだと思うのですが、この1年後に君枝は子宮体がんで亡くなってしまうので、母娘の気持ちを考えるとやりきれませんでした。
絹枝を合唱サークルに連れてきた時点で、君枝はすでに自分の余命を知っていたことが明かされる最終章。
まだ若い君枝は病気の進行が速く、娘を護ってやれなくなる日が近いのは明白でした。
だからこそ「うたう」ことは心の支えになるということを、君枝は娘に知ってもらいたかったのでした。
残念ながら絹枝が母の愛情に気づいたときには手遅れで、しかも絹枝は最後まで母に詫びることもできませんでした。
母を傷つけたことで、自分も傷を負った絹枝でしたが……。
という重い十字架を背負ったはずの絹枝のキャラ設定が、かなり印象的でした。
なぜ絹枝は、そこまで淡々とクールに青春を送れるのか。
母の死後、自分を引き取ってくれた伯父夫婦と従兄から実の家族のように愛されて高校卒業まで過ごしたことが、絹枝の精神的な安定に繋がったのかも知れません。
そうだとしても、絹枝が見せる大学での生活態度や航治郎に告られたときの反応、さらに航治郎に別れを切り出したときの物言いなど、あまりにも落ち着きすぎているように思えます。
誤解のないように付け加えておくと、絹枝は母に対して、すまないという気持ちとともに感謝の気持ちもきちんと持っています。決して冷たい人間ではありません。
けれどうつむかない、目を閉じない。
常に顔を上げ前を向いて、確実に歩を進めようとする絹枝の姿は、まるで苦悩する間を惜しむかのようです。
これが亡き母の意を汲み、大学4年間打ち込んだ「うたう」という活動の効用なのでしょうか。
バンドのメンバーの男3人は「うたう」ことの名残りを大学卒業後もそれぞれに引きずっていて、新たな一歩を踏み出すまでに時間を要していました。
彼らが見せたそんな青臭さとは対照的な絹枝という人物が妙におもしろいと感じた作品でした。