斜線堂有紀のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ筆者あとがきの「役割を委託される奈緒崎と友人として協力する嗄井戸が揃うと探偵になります」という言葉がなんとなく好きだ。探偵と助手ではなく、二人合わせて探偵なんだな。
前作では何かと物騒な事件が多かったので、今回の3本は「不思議な出来事」くらいのエピソードが多くて穏やかに楽しかった。(そう思ってたから余計にラストでゾッとしたわけだけども)
お人好しで物事をいい方向に考えがちな奈緒崎は、そう上手くはいかない何かを抱える人にとっては時に残酷に見えるかもしれないけれど、その無責任な明るさが何かを救えることもあるのだと思う。
嗄井戸と束ちゃんだけでは友好的ながら停滞していただろう関係が、全くタイプの違う奈緒崎を加えることによって回り出したのが面白いし、バランスのいいトリオだ。 -
Posted by ブクログ
軽い文体とは裏腹に、モラルとは何かをしっかり考えさせえる哲学的な読み口。
倫理観を行動の規範に据えるのは悪い事ではないが、その倫理観の基準も一般常識というあやふやな物の上に成り立っているのを忘れてはいけないと思った。
その倫理観は誰を救い、その陰で誰を貶めるのだろう。
本作で一番魅力的なのは何より織賀善一という人物。
過酷な環境で育ち、モラルが恐ろしく欠けている。
死体遺棄を生業にしながらも屈託が無く、普通の幸せを夢見る所はチェンソーマンのデンジを思い出す。
彼の埋めることに対するプロ意識には、もしかすると綺麗事抜きの「人類愛」というのはこういう形をしているのかも、とすら思わせられる。
死体埋め部が悪だった事には違いない。
でも悪の中にいつも悪意があるとは限らない。
それを裁く権利は、少なくとも個人の倫理観にはないのではないだろうか。
-
Posted by ブクログ
ジャケットとタイトルに惹かれて購入したものの、しばらく積読になっていた。表紙の雰囲気と「恋に至る病」というタイトルから、勝手に恋愛小説だと思い込み、なかなか手に取らずにいた。
ところが、実際に読み始めてみると、そんな単純な恋愛小説ではなかった。物語が進むにつれて、サイコキラーの存在、巧妙な洗脳、そして「ブルーモルフォ」という象徴的な存在が絡み合い、想像していた物語とはまったく違う方向へ引き込まれていった。
物語は、幼なじみだった二人の関係を軸に進んでいく。かつては誰よりも近い存在だったはずの二人の距離が、少しずつ歪んでいく。その背景にある洗脳によって、人の心や価値観までもが変えられていく過程には、恐ろしさを感じた。
特に印象に残ったのは、「好き」という感情が、必ずしも相手を幸せにするものではないということ。純粋な好意が、執着や独占欲へと変わり、そこに洗脳や支配が加わることで、人は自分自身の意思さえ見失ってしまう。その危うさが、物語全体に静かな恐怖として漂っている。
そして印象的なのが「ブルーモルフォ」。美しく鮮やかな青い蝶が持つ幻想的なイメージとは裏腹に、その存在にはどこか不穏なものを感じる。美しさと狂気、憧れと支配――相反するものが重なり合うことで、この作品独特の世界観を作り上げているように思えた。
読み進めるほど、「本当に彼女を理解しているのは誰なのか」「その感情は本当に自分自身のものなのか」と考えさせられ、最後まで気を抜くことができなかった。
読み終えた後、「恋に至る病」というタイトルが重く残った。恋は人を救うこともあれば、心を縛り、人生を狂わせてしまうこともある。純粋な想いと狂気、愛情と支配の境界は、思っているほど明確ではないのかもしれない。
ジャケットとタイトルだけを見て「恋愛小説」と決めつけ、後回しにしていた自分が少し悔しくなる。先入観を持たずに物語を読むことの面白さも、改めて感じさせられた。
読み終えた瞬間にすべてが終わるのではなく、ページを閉じた後も登場人物たちの感情や、ブルーモルフォが象徴するものについて考え続けてしまう。恋という美しい言葉の奥に、サイコキラー、洗脳、そして人の心を支配する狂気が潜んでいたとは――。
苦く、切なく、そして背筋に残るような怖さを感じさせる作品だった。 -
Posted by ブクログ
まさに異形コレクションの世界観を表した1冊。
物語を語ること以外を全て排し、視覚触覚などを失ってなお物語を語るための人、それを本と呼ぶ世界。
版合わせという、2冊の本で物語が異なった場合に、炎の上の檻で互いの正しさを争わせ、敗れると檻は落下し、本である人が焼かれる世界。
表題作はその世界観と、本ならではの詭弁で正誤を決める勝負に挑み、敗れた側の断末魔の叫びも美しさとして後世に残る。
怖さのホラーというよりは、少女退廃幻想奇譚的な作品が並ぶ中、
ホラーとしての読後感で最も好きなのは「死して屍知る者はなし」。
最後まで読む手を止められず、なんという世界感を作ってくるのだろうと驚きながら、なかなか人には勧めにくい。
理由は、全編にわたって10代であろう少女への嗜虐が共通しているから。
これを薦める50歳の独身おじさんは変態である。
万が一事件を起こしたら、被告なこのような本を読む嗜好があり…と、昼の茶の間を席巻することになるでしょう。
美しいが薦められない。
いや、この本を美しいと感じてしまうことだけで、既に人として歪んでいる。
歪んでいるのならどこまでも。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ有名な作品のパロディ5編。五条紀夫さんのが気になって買ってみたけど他の作品も想像以上に面白かった。
まず五条さんのごんぎつねのパロディ。ごんか人間に化けて兵十とともに謎を解いていくミステリーになっている。展開としてはまあまあな感じだったけどこれをごんぎつねに落とし込んでいるのがすごいと思った。有名なあのセリフもしっかり回収されていて気持ちいい。
他の作品で好きだったのは、あをにまるさんの「髭」と斜線堂有紀さんの「偽史・山月記殺人事件」の二編。
「髭」は、どんどん髭が伸びてしまうコンプレックスを抱える教師が、祈りを捧げることで翌日から髭が生えなくなる。それに喜ぶ主人公だが、インパクトのあるツッコミどころがなくなったことで、今まで隠れていた自分の欠点があらわになってしまう。コンプレックスとアイデンティティは裏表のような存在なのかもしれない。
「偽史・山月記殺人事件」では、虎となった李徴が有名な詩人を殺して詩を奪うことで、詩人としての名を馳せていく。その裏では李徴に助言をしていた袁傪は自身の出世のために都合の悪い人間を消す計画を進めていた。ところどころで袁傪の裏切りを匂わすようなヒントが散りばめられていて、不穏な空気を感じながら読み進めていくことになる。その空気感とストーリーが面白かった。 -
Posted by ブクログ
新進気鋭のホラー作家たちによるアンソロジー、こういうアンソロジーってバラエティに富めば富むほどに、個々の評価はばらけてしまって、ひとつふたつくらい『私向きじゃないなー』というものがあるのだけれども、この本のそれはおしなべて私の趣味に合致していて、大変読みやすかった。
数冊の本を平行読みすることが多いのは、読んでいるうちにこごってしまうことが最近は増えたからなんだけれども、この本はそのこごった時の息づきに大変よかった。ひとつひとつが長すぎなくて、読みやすい文体と舞台設定が日常と地続きであることも理由のひとつなのだろうと思う。
6作が収録されているが、一番気に入っているのは新名智さんの『まぎれ鬼』だ。現代、否、昔から情報を取り入れて現実を把握する生き物である人間は、取り込んだ情報に対する精査については意外と無頓着で、その結果として実際と現実と理解に齟齬が生じがちだ。この話は、そのあたりをクローズアップしており、その展開も実に淡々としていて湿り気が薄い。その湿度の薄さが、連綿と続く怪談の作法に沿っているように感じられて、怖くて面白かった。湿り気といえば、それとは正反対のタイトルである斜線堂有紀さんの『涸渇』はタイトルとは裏腹な湿度があって、こちらは近代ホラーみを強く感じた。梨さんの『ブルーライト』は恐怖というよりは、青春期の奇跡という風合いで切ない。この作品をラストに配置した本の構成をしっかりと考えている編集に不思議な安堵を覚えた。
6作が収録されているのに、250頁程度なので手軽さもある。紙の本として手元にあっても良いなあと感じた。