あらすじ
片田舎に暮らす少年・江都日向(えとひなた)は劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。
そんな彼の前に現れたのは身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子(つむらやこ)だった。彼女は死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛ける。
相続の条件として提示されたチェッカーという古い盤上ゲームを通じ、二人の距離は徐々に縮まっていく。しかし、彼女の死に紐づく大金が二人の運命を狂わせる──。
壁に描かれた52Hzの鯨、チェッカーに込めた祈り、互いに抱えていた秘密が解かれるそのとき、二人が選ぶ『正解』とは?
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
体に3億円の価値がある人を愛したとき、どうやってお金目当てでない想いを証明できるのだろう?
その問いに対して、ある方法で向き合っていくのが印象的だった。読後感がとても良かった!こうなるのではという予想をいい意味で裏切ってくれた!
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最愛の人の死に価値が付けられてしまった人間はその価値にどう向き合えばいいのだろう。
3億円の価値ある身体。2人を繋いだ赤、青、黄色、を混ぜて作った黒色の鯨。『二月の鯨』これに対して、52ヘルツのクジラが出てきてなんか嬉しかった。
チェッカーというゲームを通して仲を深める弥子とエト。
先生の綺麗な文字がこの物語へと私を引き込んでくれました!
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すごく好きな1冊です。
好きな人への愛情は証明できるのか。
読者にその難題を投げかけるために、
死後に金へと変わってしまう難病を患う恋人から、
自身の身体と引き替えに得られる金を相続するように持ちかけられる。
よくある心情の証明に、これまでに聞いたことのない設定でアプローチする。
すごく新しく、おもしろい話だった。
感動の要素がもう少し強いと、個人的にはもっと良かったかなと思う。
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昨年からずっと気になっていた本。
数日前にふと思い立って、深夜にネットで衝動買い。
そして、不眠症の夜に一気読み。
上記を読んで、お察しいただきたい。
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・愛する人の死に値段がついたら、その価値とどう向き合うか
・愛する気持ちを証明する方法
このテーマで描かれていく、体が金になっていく難病の弥子と、彼女に向き合っていく江都の物語り
正直、読み始める前はこんなに深いテーマであることを知らなかった
読み進めていくにつれ、もっと2人に時間をあげて欲しい…と苦しい気持ちになりました
「主人公のどちらかが病に侵され余命をどう生きるか」
といった、よく見かける内容に更に「死の価値と向き合う」という難題がのったことでグッと深さが増した気がした
最愛の人の死に、誰かが決めた価値なんか受け入れられない
弥子と江都の弱さをぶつけ合わない姿や苦悩に胸を打たれた一冊でした
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亡くなると全身が金へと変化する病に侵された女性と少年のお話
著者の本を読むのはこれで4冊目だが、特殊な状況設定を作るのが本当にお上手です
死体が金になると分かった状態での交流で、その間の感情に下心がないと証明ができるのか
転がり込む予定の金におかしくなっていく周りの大人を傍目に
自らの感情の矛盾と戦うエトの姿がとても愛おしいです
彼らが「感情の証明」を果たせたのかのかは分かりませんが、
ラストはグッと来るものがありました
Posted by ブクログ
tiktokで流れてきたので普段小説読まないんですがこの機会にと、読んでみました。
個人的に印象が強かったのはやっぱり一籠晴充です。
前日譚を読んだ後だと晴充の「だから、きっとまた見つけるよ」という言葉にものすごく納得が行きました。
晴充は江都のファンでしかなかったんだなぁ...
と勝手に納得しておきます笑
斜線堂先生の作品をもっと読みたいと思える作品でした。
Posted by ブクログ
「君の世界が平らになりますように」を読もうと思っていたおり、古本屋で見つけて先にこちらを読みました。
私は「読むことに痛みをともなうライトノベル」の原体験が「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」だった世代です。
私にとっては桜庭一樹だったもの。
それは、少し下の世代には、ある時期以降の竹宮ゆゆこだったかもしれないし。
今、思春期を生きる人たちにとっては斜線堂有紀なのかもしれないと思いました。
この物語に没入して感涙したり、痛みを感じて読後も放心したりするには、自分は少し歳をとってしまいました。
でも、中学や、高校の、教室の片隅で1人。
誰とも分かち合うこともなく胸にしまい、今もなおかさぶたになっている「あの時の読書体験」を思い出す、とてもエモい作品でした。
願わくばこの本が、教室の片隅で1人本を読む誰かのもとへと、届きますように。
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寂れた町で話題を呼ぶのは、奇病患者を受け入れるサナトリウムのみ。体が硬化して金塊になる病に罹る患者・弥子さんと知り合った少年エト。
去年私がいちばん心を揺り動かされた曲は、藤井風の『満ちてゆく』です。本作の終盤、エトが「捨てること」で証明しようとするシーンでは「手を放す、軽くなる、満ちてゆく」という歌詞が頭をよぎってしんみりしました。
だけど、中盤の北上さんの「お母さんには内緒でね」という台詞には、テンダラーの「母さんには内緒だぞ」というネタを思い出して笑ってしまった私を許してください。
エト、きっとこれは正解。生きろ。
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自分の死に価値がつき、多くの人がそれを知った時
死を期待される人の気持ちは想像がつかないが
よくここまで上手く書き切ったもんだ。
終わり方も好きだし、愛の証明に
苦悩するエトの姿はとてもカッコよかった。
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好きな人への気持ちを証明することができるのか
言葉にするとテーマとしてはとても重いです。ただ、特殊な病に侵されているヒロインと、その病人と出会うことになった主人公の家庭環境もまた特殊なので、簡単には想像できずしっかりフィクション感があるのとページ数が少ないこともあってサクサク読めました。読んでるときというよりは、あとからじわじわ考えたくなるようなストーリー。
チェッカーというゲームは知らなかったので興味が湧きました。
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片田舎に暮らす少年・江都日向は、劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。そんな彼が知り合ったのは、身体が金へ変質していく致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子。
彼女は死後三億円になるという『自分』の相続を突如江都に持ち掛ける。
身体が金へ変わっていく奇病を患う女子大生と、彼女の「相続」を持ち掛けられた中学生の少年の恋愛小説です。
自分の存在には三億円以上の価値がある、と自信を持って言える人が、はたして世のなかにはどれだけいるものだろう。もちろん、人間や命というものはそれぞれが唯一無二で誰かにとってかけがえのない存在で、値段を付けられるものではない。でも、そんな綺麗ごとを排除してしまえば、私には価値があると断言できる人は実はそんなにいない気がします。
自分にはとても三億円の価値なんかないけれど、それでも死んだ方が価値があると思われるのはとても辛いだろうなと思う。そう考えると自分の現在や死後の事きちんとを考え、余命わずかな中新たな人間関係を構築しようとした弥子さんはとても強い人だ。
作中で主人公は、死後三億円になるという最愛の人への愛を、金目当てではないと周囲にどうにかして証明しようとします。本来であれば、誰かへの愛なんて周囲へ証明する必要なんてない、自分だけが、もしくはお互いだけが分かっていればいいはずのものなのに、そこに金銭のやり取りが存在するだけで周囲の目は変わってしまう。玉の輿、シンデレラボーイ。淡く美しい恋情が、周囲の感情によって汚されていくようで痛々しく胸が締め付けられます。
初めから終わる事が決まっている二人の関係の果ての「脅かされることのない愛の証明」がほろ苦くも愛しい。
Posted by ブクログ
切なくて綺麗な物語だと思った。
身体が金塊に変わる病に侵された弥子と、死後の自分を相続しないかと持ち掛けられたエト。
戸惑いつつも、相続の条件であるチェッカーを介して徐々に心を通わせる二人。
だけど、エトは気づいてしまう。
弥子に対する想いも、死ねば金塊になる彼女の病のせいで嘘にされてしまうことを。
好きだから生きていて欲しい。
好きだから相続させて欲しい。
お互いを想うが故の願いなのに同時に叶うことはない。
エトが導き出した「自身の愛を証明する方法」は、悲しいけど良かった。
でも弥子の証明の方が個人的には好き。
Posted by ブクログ
斜線堂さんの作品で読んだ2作目
斜線堂さんの本好きだし本作もおもしろいんだけど何か足りない。
伏線回収も良いし最後の落とし方も結構気にいってるんだがなんだろう。
何が足りないのかわからない。
Posted by ブクログ
読みやすく、一気読み。
お金は人を狂わせる。そのことをただただ痛感する。
最後までお互いがお互いを想った結果の結末だと思う。
そして、弥子さんと出会わなければ目を逸らしていたであろう自分の未来に江都くんが迎えたことがよかった。
Posted by ブクログ
「最愛の人間の死に価値が付けられてしまった人間は、その価値にどう向き合えばいいのか」「人間の感情は証明できるのか」という命題に対峙したストーリーで、夏の終わりに訪れるはずだったビターハッピーエンドに最後まで抵抗した無謀な少年の姿がどこまでも青臭くて非力だけど純粋無垢で眩しく見えた。所々で伏線が回収されるのも面白かった。
Posted by ブクログ
人間の感情は証明できるのか。あなたが大切、ずっと忘れないという言葉も、証明は出来ないけれど、それでも灯台になる…。作者のあとがきに涙しました。海のシーンも情緒的で好き。52ヘルツの鯨のくだり、わたし的には今作の方がしっくりきたな〜
Posted by ブクログ
奇病と呼ばれるだんだん体が金になる病気
その病気の治療のための施設が住んでいる場所にある日向
不遇の家庭で育っている彼はある日その施設の近くを通り1人の女性と会う
そして女性に誘われるがままにチェッカーを始め勝てたら三億円を譲ると言われる
そのうちお互いが恋愛感情を持ち3億円が絡んでいると知られると周りが騒ぎ始めた
お互いの想いと照明を求められる迷い行動する
愛とお金考える本
Posted by ブクログ
あなたは、病気療養中の人に『私の死体は三億円で売れるんだ』と『微笑を浮かべ』られたらどう思うでしょうか?
(*˙ᵕ˙*)え?
人が死ねば火葬に付された後、遺骨になって埋葬されます。もちろん国によって異なるでしょうが、この国にあっては法律の定めに従って、あなたも私も同じ運命を辿ります。愛する人の遺骨であればそれは何者にも代え難いものと言えるかもしれませんが、それでも遺骨は遺骨です。遺骨を売買するといったようなことは当然ありませんし、残念ながら売れるものでもないでしょう。
しかし、そんな当たり前の考え方では整理できない事ごとがこの世には数多あります。 例えばあなたは、『金塊病』という病気のことを知っていらっしゃるでしょうか?その病気の症状はこんな風に語られます。
『発症時から少しずつ筋肉が硬化し、骨に侵食されていく。この侵食する骨が、極めて金に近い物質へと変異する』
(*˙ᵕ˙*)え? (*˙ᵕ˙*)え? (*˙ᵕ˙*)え?
そう、この世にはあなたが今まで知らなかった奇想天外、奇妙奇天烈、摩訶不思議な事ごとがあるのです。
さてここに、『金塊病』という不治の病に侵された女性と偶然に出会った一人の中学生を描いた物語があります。『金塊病』という言葉を聞いて一瞬読む気が萎えそうになるこの作品。その一方で『死体は三億円で売れる』という言葉に目が止まってしまうこの作品。そしてそれは、夏の終わりの出来事を回想する主人公の想いを感じる物語です。
『弥子さんと過ごした時間には一銭の価値も無いのに、彼女の死体には三億円以上の価値がある』と弥子との『思い出を回想する』のは主人公の江都日向(えと ひなた)。そんな江都は『最初の間違いは、僕が昴台サナトリウム ー とある病気の為に建てられた特別な療養所 ー に隣接する道を通ったことだった』と『144日前』のことに思いを馳せます。『山に囲まれた小さな集落で、人口は千人程度』という昴台という地に暮らす江都は学校からの帰りに『サナトリウム近くの細道』を通ります。『かつては白い壁』だったのが、『今は落書き塗れの壁』という壁面には『奇病専用終末医療病棟の癒し』と記事にされたこともある『二月の鯨』と呼ばれるアートも描かれています。その一方で、『サナトリウム反対』といったビラも貼られている壁面を見る江都。そんな時、強い風が吹いて『朱色のマフラー』を手にした江都。『拾ってくれてありがとう。よければ返してくれるかな』という声に顔を上げると、『長い髪の女の人』の姿がありました。『サナトリウムの、人ですか?』と『馬鹿げた質問をしてしまった』江都に、『そうだよ。私は中の側の人間さ』と『悪戯っぽい笑顔で笑う』女性は『返したいなら私の病室まで来てよ』、『投げるなんてことはしないで欲しいな』と言うと姿を消しました。『私は津村弥子(つむら やこ)!…受付で私の名前を言ったら、多分通してくれるよ!』と声を残していなくなった女性。結局、『マフラーを鞄の中に押し込ん』で家に帰った江都は『金塊病患者新規受け入れ反対!』のビラがプリンターから出力されているのを見ます。『かれこれ四年も昴台サナトリウムに対する反対運動を行っている』母親。夜になって帰ってきた母親、そして、少しして現れた義父の北上と揃った中に、『国は大切な事実を隠している…昴台はおぞましい実験場にされる…』と『滅茶苦茶な陰謀論を語』る母親。そんな翌日、再び『サナトリウム』を訪れた江都は『都村弥子さんのお見舞いに行きたいんですが』と受付で言うと病室のある六階へと通されます。そこには、『広い病室の出窓に座』る弥子の姿がありました。『ねえ君、名前は?』と訊く弥子に『江都日向です。中学三年生』と答える江都。弥子は自身が大学三年であること、そして、『金塊病を発症して、半年前からここに入院している』ことを説明します。『通称「金塊病」と呼ばれている』その病気は『患者が死後、文字通り「金」へと変質すること』から名付けられました。『発症時から少しずつ筋肉が硬化し』『侵食され』た『骨が、極めて金に近い物質へと変異する』というその病気によって『算出された金』は、『現代の科学では』天然算出品と『区別する術はない』とされています。『人間の身体が金塊に変わるなんて、およそ信じられない話だ』と思う江都に、『私はそう遠くないうちに死ぬ』と弥子は語ります。そして、『エト、私を相続しないか?』と続ける弥子は、『私の死体は三億円で売れるんだ』と『微笑を浮かべ』ます。『ただし、私にも条件がある』と続ける弥子は『チェッカーというゲーム』に江都が勝つことが『条件』と説明します。『三億円。それだけの大金があったら一体何が出来るだろう』と思う江都。そんな江都が『金塊病』という病魔に侵された弥子と『チェッカー』の『駒』を戦わす日々が描かれていきます。
“片田舎に暮らす少年・江都日向は劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。そんな彼の前に現れたのは身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子だった。彼女は死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛ける…しかし、彼女の死に紐づく大金が二人の運命を狂わせる”と内容紹介にうたわれるこの作品。
正直なところ、
”ちょっと何言ってるか分からない”
というのがこの文面を読んだ私の率直な感想です。この世に刊行された数多の小説の中にはさまざまな病気に侵される登場人物の姿を描いたものがあります。往々にしてそれは不治の病という場合が多いように思いますが、それは難病とされる類のものです。もちろん中には加納朋子さん「トオリヌケキンシ」に描かれるような『奇病』が描かれる場合もあります。しかし、いくらなんでも”身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」”というのはかっ飛び過ぎだと思います。私の想像力の飛翔限界を超えたものと感じてしまいます。
とは言え、女性作家さんの小説を全て読む!のが私の目標ですので頑張って読み始めました。そうしたところ、予想外の変化が自分の中に生じてくるのを感じました。奇想天外な病気の設定が何故か全く気にならなくなってしまう、それどころか作品世界に入っていってしまう…これは読み始める前に感じた醒めた感情からの変化でもありました。
そんなこの作品は兎にも角にもこの『金塊病』というものを整理しないことには始まりません。これがどんなものかを抜き出してみたいと思います。
● 『金塊病』とは?
・『その病気の特徴の最たるものは、患者が死後、文字通り「金」へと変質すること』
→ 『発症時から少しずつ筋肉が硬化し、骨に侵食されていく。この侵食する骨が、極めて金に近い物質へと変異する』
→ 『二つ並べれば、どちらが天然産出品の金でどちらが金塊病の患者の身体から産出された金なのかは判別出来』ず、『現代の科学では、その二つを区別する術はない』。
・『金塊病こと「多発性金化筋線維異形成症」は、原因の全く分からない感染性の奇病だというデマを流されていた』
→ 『やがて、病が伝染性でない』と明らかになった
・『政府はこの病気を極めて特殊な難病に指定し、専用の収容施設を建設すると宣言した』。
→ 発症した『七人の患者の内、二人が昴台サナトリウムに送られ』た。
こんな風に書くとなんだかリアル社会に実際にある病気のようにも感じてしまいますが、当然ながら”身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」”というかっ飛んだ病はあくまで空想上の産物です。しかし、『継続的に患者を受け入れ』ることで、『その度に昴台の経済は回る』という考え方などなかなかにリアルにも感じられます。というより、上記した通り、読み進めていううちにこの強烈な設定がウソのように気にならなくなっていくのがこの作品なのです。
そして、もう一つ触れておかなければならないのが、『チェッカーというゲーム』についてです。『極めてシンプルなゲーム』という『チェッカー』は『金塊病』と違って、もちろんリアル世界でも人気のゲームです。
・『駒は十二個あって、基本は斜め前にしか進めない。もし行く先に敵の駒があったら、こうして飛び越えて取ることが出来る』。
・『チェッカーの駒が相手の端に到達したら、それは王になるの。王になったら斜め後ろにも進める』。
そんな風にルール説明が作品内でもなされますが、ご存知ない方にはこれだけでは少し厳しいかもしれません。何故なら、私がそうだからです(笑)。そう、『チェッカー』を知らない私…。とは言え、この作品は『チェッカー』を主題とした物語ではありません。江都と弥子が幾度も対戦する場面は登場しますが、ルールを知らなくてもなんとかなります!はい、ルールを何も知らない私が保証します(笑)。
そして、そんな物語の中心にあるのが、学校からの帰宅途中に、たまたま、『サナトリウム』に隣接する細道を江都が通ったことで動き出す物語です。強い風に飛ばされた『朱色のマフラー』を手にし、それが施設に入所している弥子のものと知った江都が弥子の元を訪れることから物語は始まります。そんな場で主人公の江都は、『金塊病』に侵された弥子からこんなことを告げられます。
・『単刀直入に言うよ。エト、私を相続しないか?』、『相続相手に君を指名したい』
・『私の死体は三億円で売れるんだ』
マフラーを届けただけの間柄でいきなりそんなことを言われて戸惑う江都。そんな江都に弥子は条件を突きつけます。
『三億円を君に譲る、条件』
いきなり、『相続』の話を持ち出され、これまた、いきなり『条件』を突きつけられるという江都。『チェッカーというゲーム』を教えられた江都は、
『一度でも勝てば三億円だ』
そんな弥子の言葉に困惑します。その一方で、家庭に複雑な事情を抱える江都は悩みます。
『殆ど無いだろうけれど、僕に三億円が入る可能性も、ゼロじゃない。三億円。それだけの大金があったら一体何が出来るだろう。そもそも、それだけの大金があって出来ないことがあるんだろうか?』
今の世にあって『三億円』という金額は一攫千金の一つの指標のような数字だと思います。宝くじなどでもよく聞く数字ですし、生涯賃金という言葉とともに語られる数字でもあります。もちろん、そんな大金を一夜にして手にすることができたなら、その人の未来は確実に変化するでしょう。その瞬間以前と以後では見えてくるものも違ってくるはずです。この作品の主人公である江都は中学三年生ですからその未来に与える影響は計り知れません。この作品では、そんな『条件』を突きつけられた江都のその後が描かれていきます。冒頭に記述した通り、『弥子さんと過ごした時間には…』という書き出しから始まる以上、弥子の結末は提示されています。そして、物語は、『144日前』、『143日前』、『140日前』、『137日前』、『136日前』、『106日前』…とランダムな日付に飛びながら、結末のXデーに向けた江都と弥子の姿が、そしてその関係性が描かれていきます。
・『もっと知りたいです。弥子さんのこと』。
・『私もエトのことがもっと知りたいんだ』。
江都と弥子に力強い光が当てられていくこの作品。そんな物語の結末には、『金塊病』という奇想天外な設定に対する違和感が雲散霧消する先に、江都と弥子、それぞれが選んだ答えが待つ結末が描かれていました。
『金塊病っていうのはね、文字通り金になるわけだから、売れるんだよ。…私の死体は三億円で売れるんだ』
『金塊病』という奇想天外、奇妙奇天烈、摩訶不思議な病を患う女性と偶然にも知り合ってしまった一人の中学生の姿が描かれていくこの作品。そこには、『回想』という形で二人の日々を振り返る主人公の物語が描かれていました。読む気が萎えそうになる『金塊病』という設定に戸惑うこの作品。読み進めるうちにそんな戸惑いが雲散霧消するこの作品。
“最愛の人の死に価値が付けられてしまった人間は、その価値にどう向き合えばいいのか”、この物語のテーマをそんな風に語る斜線堂有紀さん。そんな斜線堂さんの物語作りの上手さを感じさせる、そんな作品でした。
Posted by ブクログ
斜線堂さんの作品は「恋に至る病」を初読し、次にこちらの作品を読ませていただきました。二作品目です。
潮風の香りと、波の音。脳内に生み出される海の情景が途切れないまま一気読みしました。
主人公と、特殊な病を患った女の子が「愛の証明を探す夏のお話」です。何が正解で、何が不正解なのか。唯一、ふたりが行っていた「チェッカー」だけは、盤面で正解を選び抜いていく。
病室の中で何を話そうとも、どんな気持ちであろうともチェッカーで勝負しようと言えば隣に居られる。そんな免罪符を持った「チェッカーで勝負しよう」という一言は、二人にとって愛のひとつだったんだなぁと思うと中学生も大人もあんまり変わらないように見えて、恋とはやはり惹かれるものだと感じました。
夏に読むことができて良かったと思えた作品。みなさんもぜひ、夏の間にこちらの作品を読んでみてください。心が澄んだような気持ちになれると思います。
Posted by ブクログ
斜線堂有紀さんの物語は、どれも斬新な設定と繊細な語り口が魅力。
際立った導入で一気に読者を引き込みながら、気づけばとても原則的な恋愛小説を読ませてくれる。
挑戦的な設定と、どこか保守的なストーリー。
その絶妙なバランス。
病を抱えた少女と、家庭に恵まれない少年。
ふたりは、少女の病をきっかけにして、知り合った。そして、それぞれが本心を隠しながら、自分の気持ちを正直に表現する道を見つけていく。
読み終えて、少し若返ったような気がした。
そんなわけないけど٩( 'ω' )و
Posted by ブクログ
感情や想いの価値はどれだけなのか。
人間・人生の価値とはどれだけなのか。
死に3億という価値があるならば生とはどれだけの価値なのか。
中学生が愛するということの価値をどう表現するのか…
なるほど、そう来たか。
終わり方も良かったな〜。
あの金額の意味はロマンティックなあれであって欲しいな。
いやきっとそうだろう。
この作品を読んで、人の色々な価値観みたいな物を考えました。
はたして今の自分の価値は?(ビジネス書的な話ではなく)
「私の人生は生まれた時から、きっと正解なんて用意されてなかったんだ。何を選んだって全て間違いだった。こんな絶望的な人生が、ここにある」
何か考えさせられる一文でした。
Posted by ブクログ
毎回、ミステリ好きならおお、となる設定にワクワクして本を手に取る。ただ書き出し(現在、から過去時系列に遡る形でストーリーが語られていく)が割とワンパターンな気がする。
Posted by ブクログ
3時間で読み終わった
世の中はいろんなことが絡まって出来てるんだなあ
でもそれを色々掻い摘んでると、頭があべこべになってくる
現実に寄り添った話題で、それを軸に物語は進んでいくんだね
きっとチェッカーと鯨と人の生き方に文字で表されてる以上の繋がりがあって、それをもっと読み取れることができたら良いなぁ
Posted by ブクログ
スラスラ読めたし、それなりに面白いとは思うけど、そもそも恋愛小説で共感できない。
弥子は魅力的だけど、エトはあまり好きになれない。子供っぽいからだろうけど、中学生だし仕方ない。
人の価値が高くというテーマは面白いけど、そこについての描写?が浅すぎる。
感心することは無かった。
マスコミを絡めた流れが、もっとあっても良い気がするのに、人の価値に疑問を投げかける道具として適当に登場させた感がある。
色々と惜しい
Posted by ブクログ
あれだけお金で解決できることはして欲しいからと自分のからだを全てを預けてもいいと思ってたこの相続したのが10万ちょっとなのが意外だった。だけど、大きなお金だけ母親に取られるだけだからこれはこれで正解だったのか?
Posted by ブクログ
金塊病と言われる、難病にかかった女大生の弥子と、ひょんなことから「チェッカー」というボードゲームを通じて女大生を支える日向のお話し。
金塊病は、硬化が始まるとその体の部位が金塊のような結晶化が進行する難病であり、その金塊には総じて3億円もの値が付くと言われる。
出会った経緯は違えど、三億円もの価値を相続するに態度が変わる周りの人間模様。最愛の人の死に価値がつけられてしまった人間の、死への向き合い方、愛情は証明できるのか、など正解のない問題に悶々とする日々。
タイムリミットのある問題に対して、二人が出した回答も、瑞々しさを感じる。
SF要素が入っているため、多少強引なところもあるが、読みやすさはあった。