田口俊樹のレビュー一覧
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アル中文学&ハードボイルドの名品。毎日新聞書評欄で橘玲さんが紹介していた。中島らも「今夜、すべてのバーで」とともに必読だ。
アル中の心理を描く圧巻の描写!
「一日二杯」が適量といっていたのに、さらに飲む「理屈」を考え出す。いつのまにか、抑制しなくていいということになっていく…。そして、「覚えているのはそこまでだった」(p108)
無意味に人が死んでいく。くそったれの街。そして暴言を吐く警官。しかし主人公は思う。「彼はどんな相手にも同じことばを吐きかけただろう。相手がいなければ夜そのものにでも」(p189)
襲ってきた暴漢を倒したが、震えがとまらない。止める方法は、もちろん酒だ。
「通りの向こうから赤いネオンが私にウィンクを送っていた。バー、とそれには書かれていた」(p279)
体に突き刺さる、身体的な文章だ。主人公が見せる「弱者に対する弱者の思いやり」(訳者あとがき)にもしびれる。くそったれの世界で、最低限のモラルを持って生きるかっこよさ。なかなかのハードボイルド体験だ。ラストが本当にいい。 -
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ある日忽然と姿を消した、いじめられっ子の女子高生ナオミ。冠番組も持つ豪腕弁護士のヘスターは、ナオミの同級生である孫のマシュウから、彼女の行方を捜してほしいと相談を受けた。何かを隠しているようなマシュウの態度を訝しみつつも、ヘスターは孫のために尽力を約束する。そんな彼女が協力を仰いだのは、幼い頃にたった独り森で育ったという過去を持つ、謎多き天才調査員ワイルド。しかし二人の捜索は予想外の過去をあぶり出し、やがて巨大な闇へと辿り着く――。
ついにヘスター弁護士が主役に。しかも、前作ランナウェイと同じ時間軸の物語。もう一人の主役、ワイルドが超人過ぎ。 -
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ネタバレシャッキ検察官との付き合いも3作目となると、この残念さ加減にも愛着が湧いてきた。
どこまでも女関係ダメ人間のわりとどうでも男女関係が・・・いやそんなことやってるヒマあるなら睡眠とれよ。
だが、1人おうちにいると、さみしくなって元妻に電話して、冷たくされて逆ギレ。どこまでも残念である。睡眠とれよ。
さて、事件はというと、これがまた壮大な話が展開して、やっぱり秘密警察が!なんと事件関係者が!
町に伝わる陰惨な伝説、歴史、それを下敷にした2代に渡る怨念が!間にはさまれる老婆の悲しい思い出やら教会の隠された絵やら、ほとんどが顔見知りという閉鎖社会のエピソードなどが、これでもかと続き、ついに謎が解けたら!
うん。間違ってるね。逮捕された人が言う通り間違ってましたー
正解の伏線は、たった1行。
あれか!と、思った時には唖然とした。
これもどんでん返しと言っていいのだろうか?
この作者には、なるほど、確かに毎回驚かせれる。
ポーランドのルメートルと言われてるそうだが、なんかそれは違う気がする。カチリ。と、思った。
ここまでくると全作読まないと気が済まない気になってきた。
シャッキ検察官以外の主人公も残念人物なんだろうかとか、余計な興味が止まらない。
ともかく、ポーランドの歴史や地理や生活については、き毎回、非常に興味無く読んでいる。 -
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幼少期に森で育った過去があるという謎めいた人物のワイルド。突然姿を消したナオミ。弁護士のへスターは孫のマシュウからナオミを探して欲しいと頼まれワイルドと共に調査を始める。タイトルからもう少し違う展開をイメージしていたけれどこの物語はどんどん広がりを見せて進むにつれて面白さを増していく。どの人物も魅力があり調査、事件の展開も予想がつかない方向へ行きその先に大きなものと対峙したりと飽きさせないものがある。著者の名前は知っていたけれど読むのは初めてで他の作品も読みたくなる面白さだった。ワイルドの造形や弁護士へスターの人柄など読みどころがたくさんある。
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ぼくら読者が生きている現実と遠く離れたところ。政府、公安、警察そして個人が絡み合いつつ、個の犯罪と国家的策謀が絡み合う中、それらの複雑な力学に巻き込まれる個人=ストックホルム警察のサム・ペリエルと公安警察の元潜入捜査官モリー・ブロームを主人公にした四部作の二作目である。
こう書いただけでだいぶややこしいイメージが沸こうかと思われる。しかしその通り、ややこしいなどというものではなく、我々一般人が見させられている現実というものの本質はどれだけの仕掛けに満ちたものであるのか? そういう世界構造の精緻すぎる複雑さ、もう少しわかりやすく言えば陰謀により秘匿されている真実の多さに呆れ返りたくなる世界像といったものが、このシリーズを取り巻く複雑な多重構造世界となっているのである。
単なるミステリーというより、国家間の地勢図を展開したような大きな構造に、個人が巻き込まれてゆくアクロバティックなストーリー展開が、本シリーズの第二作目で、ますます明らかになってきた。ベテラン作家アルネ・ダールによる新シリーズ第二作は、より深く黒い迷宮を我々の脳に示してくる。
スウェーデンのベテラン作家であるにも関わらず、日本での翻訳機会が不遇であったアルネ・ダールは、母国では既に名を成す大家であるそうである。
サム・べリエル&モリー・ブロームのシリーズは、第一作『時計仕掛けの歪んだ罠』が日本でも話題になったのをきっかけに、第二作からもまた受け入れられるようになると良いと思う。しかし前作からの続編となると、前作から改めて一気に読みなおさないとついてゆけないくらいと感じさせられ、残念であった。
複雑で多層構造な人物関係図などは、北欧ミステリを初めとした最近のミステリ・シリーズの流行なのかもしれない。何より、主人公二人の個性が光る。異なる組織に属する男女、そして二人とも、組織に帰れず、命の危機を背負いながら、真相に迫る能力を持ち合わせている。これに似た配置も最近多くの北欧作品でよく見る気がしている。
個人のサイコ系犯罪に、組織絡みの陰謀を絡み合わせた多面的な展開。その中で組織を追われ孤立してゆく主人公たちは、追われると同時に追う者である。どんな機械にも衛星にも追えない地球の影のようなポイントという設定も現代的で興味深かった。
ディテールと大筋とを両方楽しみながらの一気読み作品。惜しむらくは一気に四作を読めないことだ。全作揃ったところでまとめ読みしたいという気持ちは贅沢に過ぎるだろうか? -
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2021年2月刊。筆者の単著を読むのは初めて。筆者は英米ミステリを中心に訳し続けて40年余りのキャリアを持つ翻訳家。その筆者が、過去に自分が翻訳を手掛けた書籍を俎上に上げて、当時の苦労などを回顧したエッセイ。筆者の訳書を、私は『刑事の誇り』『卵をめぐる祖父の戦争』、(筆者が金銭的に困窮して訳した)とある自己啓発本の計3冊だけしか読んでいないし、筆者の名前を、訳者として特に意識したこともないのだが、書名に惹かれて、本書を手に取った。
一番印象的だったのは、スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの『パナマの仕立屋』の翻訳を担当した際、ル・カレへの質問と共に、個人的なメッセージを拙い英文で送ったら(翻訳家だから、英文を書くのも得意というわけではないそうだ)、その稚拙な英文が気難しいル・カレの逆鱗に触れたらしく、訳者降板の危機にさらされた話。やはり人の失敗談は面白いよね(オイオイ)。
怒りを買った作家もいる一方で、著書の翻訳を通して、友好的な関係を結べた英米の作家もおり、他の著者の本の翻訳で分からないことがあったら、その作家に相談しているというエピソードは微笑ましかった。筆者が翻訳した本が、その後、映画化され、その映像を観て初めて、誤訳に気づいたという話も面白かった。
筆者も翻訳を手掛けた『郵便配達は二度ベルを鳴らす』には、現時点で、8種類の邦訳が存在しており、同じ英文をそれぞれがどう翻訳したかを比較した趣向にも、興をそそられた。筆者は自分が手掛けた訳書についての失敗談や誤訳を包み隠さず、明かしており、翻訳家という仕事の苦労の一端を垣間見られて、非常に興味深かった一冊。(終) -
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ハードボイルド系だと思って敬遠していた作品。これが中々おもしろかった!
主人公はアル中の探偵スカダー。しかし、酒を飲んで立ち回るような豪快な探偵ではない。
アルコール断ちの集会に真面目に参加し、酒を飲みたいという葛藤と常に戦い続けている。
淡々とした渇いた文章、盛り上がりの少ない展開、孤独な私立探偵が主人公…ハードボイルド三拍子が揃っているが、
ハードボイルドの定義が、【暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する】作品であり、【感情に動かされないクールな生き方】を指すものなのだとすれば、本作はハードボイルドではないのだろう。
スカダーはまだ、暴力と無意味な死が溢れかえる非情な現実を受け入れられずにいるからだ。彼は繊細な探偵だ。だからこそ、この世の不条理ばかりが目につく。
彼がなぜ、知り合ったばかりの娼婦のために、身を危険に晒してまで犯人探しをするのか。これは必ずしも彼女のためだけではないだろう。新聞で眺めることしかできなかった世の中の不条理に対し、抗えるチャンスをようやく掴んだからではないだろうか。
自分を襲ってきた辻強盗を、世の中のために殺してしまうか葛藤する場面がある。一見スカダーは、正義感が強い人間のように感じる。辻強盗の件からも分かる通り、悪に対し非常に敏感だからだ。しかし、正義感という言葉はどこか違うような気がしていた。訳者あとがきに、スカダーは罪と罰の条理性を求める人間だと書かれており、この表現が1番しっくりきた。 -
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かなり以前の話であるが、ハードボイルド小説を多く読んでいた時期があった。好きな作家は多かったが、ローレンス・ブロックのマット・スタガーシリーズ、マイクル・Z・リューインのアルバート・サムスンシリーズと、リーロイ・パウダー警部補シリーズは特に好きなシリーズで、その多くの翻訳を担当していたのが、本書の著者である、田口俊樹さんであった。
もちろん、誰が翻訳を担当していたかは、それらの作品を読んでいた当時は気にしていたわけではなく、ただ、田口俊樹さんという名前の翻訳家がいるということを、ローレンス・ブロックやマイクル・Z・リューインの本を多く読むことによって知っていたという程度の話であった。
そんな田口さんの処女翻訳は、「ミステリマガジン」1978年4月号の「賢い子供」という作品、それ以来、40年以上に渡ってミステリーを中心に翻訳を続けてこられた。本書は、その40年間の翻訳家体験を、ご自身の誤訳を含む多くの失敗談を交えながら振り返ったものである。ミステリー好き、翻訳小説好きには、あるいは、外国の小説を読まない読書好きの方は少ないだろうので、言えば、読書好きの方には、とても興味深いものだと思う。
私自身も、田口さんが、ご自身の作品以外の翻訳一般的なことについて、マイクル・Z・リューインに、しばしばメールで問い合わせをされている話や、ご自身の失敗談、あるいは、翻訳にまつわる色々な裏話を、とても楽しく読むことが出来た。 -
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平置きされているこの文庫本を手に取ると、どの本よりも厚い感触に、まず手が驚く。765ページだ。『犬の力』、『ザ・カルテル』に続くこの3部作は、ボリュームだけでも作者の執念を感じる。
主人公は今や麻薬取締局DEAの局長になっており、上巻では彼の直接的な活躍より、麻薬を取り巻く周辺(すなわち主人公の人生なのだが)の人物を描いていく。
麻薬カルテルの首領の首をすげ変えてもすぐに次の顔が現れるように、麻薬の売人から中毒者まで、次から次へと登場人物に不足はしない。また、登場人物にトランプ大統領のモデルが登場するように、この物語は現実社会に基づいている。作者の執念はジャーナリズムに根差していると強く感じる。
さあ、3部作の長大な大河小説は最終巻を迎える。読み終えたくない気持ち半分、読み急ぐ気持ち半分で、秋の夜長にもぐり込む。