田口俊樹のレビュー一覧
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リューインさんのファミリー物(といっていいのか…?)
病名は書いてないものの、世界的パンデミックにより崩壊したアメリカが舞台。
設定ではあるけれど、この設定が受け入れられるほどにはアメリカでのコロナの被害はすごかったのだろうと思わせる。
感染症で妻を亡くした老人、その娘、孫である少年が、ただ生きているだけの日々。
だけどそこに一匹の犬と、そして一人の少女が合流して、家族の物語が動き出す、というストーリー。
淡々と、フードバンクに並んだり廃墟に忍び込んで暮らしたりといったパンデミックで崩壊した世界を生きる親子の生活と絡めて彼らの過去がわかるのだが、老人も彼の娘も割としんどい過去を持っていることがわかる。それでも、学校も友達も何もかも奪われた少年よりはマシだという気持ちを持つふたり。
少年はそんな祖父と母親に過剰に守られながらも子供らしい冒険心を発揮していく。
少年の姿に気持ちを変えた老人と母親は、家族を守るために、家族の人生を変えるために決断し、行動していく。
崩壊したディストピア世界をこれから生き延びていかなければいけない家族を前に、大人として祖父は決断し行動し、そして祈りを捧げる。
他にもシリーズのように人が死ぬわけでもなければ事件が起こるわけでもない。でもこの世界では毎日の食事を得ること自体が、必死の出来事だったりするわけだ。そしてそんな世の中でも警察がいてバッチを振り回していたり、フードバンクとして食料品を供給するルートがあったりと、権力というのは恐ろしいと感じられる。
正直、小説としてはそこまで「面白い」ものではなかったが、世界が変わったら?ということを想像、喚起させる小説として面白かった。
これをしっかり小説として成り立たせるあたり、さすがベテランと言わざるを得ない。 -
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テーマは良いが、思ったより読みにくかった。難しいという読みにくさではなく、個人的に分かりづらい書き方(淡白すぎるのか?)な気がした。解説にもあったが、この本はミステリー要素も感じるし、『オペラ座の怪人』に似た、ゴシック味も感じた。基本的に暗い調子で、話の筋だけなら最後の手紙部分だけで十分だが、友人側と本人側両方から見れる作りになっているのは凝っている。だが読んでいる時は、特に友人パートが分かりにくさを感じがちだったので、最後の手紙による告白が良かったと思った。なかなか建物の様子とか街並み、時代背景を理解できていないと、情景のイメージが付きにくかった。次第に薬を飲まずともハイドになってしまい、自分(ジキル)がハイドに乗っ取られていく様子は良かった。そしてハイドからジキルに戻るのが困難になっていくのも。次第に浸食されていくような恐ろしさや、ジキルはハイドのことを気にしているのに、ハイドはジキルのことを気にせずやりたいことをやりたいようにやってしまうこと。「ジキルとハイド」という言葉は有名だが、原作を読むと、その葛藤などが見れて、良い。
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ローレンス・ブロックの、私立探偵スカダーのシリーズとして、最初に読んだのは「八百万の死にざま」だったと思う。相当昔の話だ。その作品で、ローレンス・ブロックも、スカダーのシリーズも好きになり、ずっと読んでいる。
この作品が、スカダーのシリーズは最終作になるらしい。
ただ、この作品は、「私立探偵」としてのスカダーが事件に取り組む話ではなく、スカダーが探偵になるまでの話を、回顧しているという仕立ての物語。私立探偵ものとしてのスカダーのシリーズは、そういう意味では前作で終わっていたのだ。この本が面白くなかったとは言わないけれども、最後の作品であれば、やはり私立探偵スカダーに合いたかった。 -
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最初はジキルとハイドを別人物だと思って読み進めていましたが、アタスンやラニヨンら(ジキルの旧友)のやりとりを通して少しずつ同一人物であるということが明らかになっていく、ミステリー小説として楽しめました。この作品が書かれた1800年代、産業革命以後のイギリス社会での人々の生活やキリスト教への信仰、社会的地位への関心が垣間見れたところも古典ならではで読んでよかったと思います。生まれ持った体は精神を作り上げた力の霊気や輝きにすぎないという表現からは肉体ではなく精神こそが自己の本質であると考えるジキル(作者スティーブンソン)の考え方が読み取れました。また、人々に賞賛され、幸福に生きられる「善」の自分でいたいという気持ちと、そうでなく人々に忌み嫌われ軽蔑されるがそれに罪悪感さえ抱くことのない「悪」の自分でいたいという欲望が一人の人間のなかで対立し、その苦痛と不安の狭間に居続けなければならないということも描かれていましたが、私にも共感できるなぁと思いました。最終章の「ヘンリー・ジキルが語る事件の全容」で物語の答え合わせがされて、点と点が繋がりスッキリします。
薬を飲めば他方の自分に変身できるというところはさながらプリキュアのようなファンタジー要素もあって面白かったです。 -
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ボストン・テランはエエはなし書かはるなぁ。
「その犬」の名前はギヴ(give)。人がギヴに寄せる愛や、ギヴが人に感じさせる優しさが通底する、ギヴとギヴに関わる人たちの物語だ。語り手は湾岸戦争の復員海兵隊員で、戦場で追った心の傷をギヴの物語を追体験する中で和らげ、かつての自分を取り戻してゆく。
アメリカは第2次大戦以降も世界で戦争を続ける好戦国ではあるが、市民生活は至って平穏な面を見せる。本書は古き良きアメリカの善意に包まれていて、悪意の現れも一部あるが、全体に古いアメリカ映画を観ているような気分に浸れる。最近のアメリカ大統領が振っている旗印に反吐が出る思いを感じるなか、包容力あるアメリカの復興を願わずにはいられない。 -
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スノーデン氏から著者へ接触があったのは2012年。この告発により、オバマ政権下でのアメリカ市民への盗聴が大きな話題になった。2008年に出版されたティム・ワイナー氏の「CIA秘録」では、CIA設立時から各総理大臣の対応が詳細に書かれている。そこにはオバマ政権も含まれているが、市民への盗聴は、なにも彼の政権下でのみ行われたことではない。「CIA秘録」は機密解除された内部文書をもとにした情報であり、出版当初は大変話題になったそうだ。
それから数年の時を経て、より多くの人がスマホを持ち、インターネットを使用するようになり、情報に触れる機会が増えた。そこでスノーデン氏の告発が一番インパクトのあるタイミングで炸裂したのだと思う。政府にとって不都合な真実を隠そうとする圧力や妨害行為に対しては、今更何も驚かない。いくら有名な新聞社であっても、崇高な理念だけでは資本社会で生き残れないのだ。
そもそも、他人が作った「インターネット」というものを利用しておきながら、自分のプライバシーが守られているという考え自体が甘いのではないかと思う。公共の通信を使用しているのだから、そこへ入力した内容や送信したデータが見られる可能性があることは頭に入れておくべきである。手紙にしても、第三者が配達することにより、開封される恐れがある。ただ「開封しない」というルールをもとにお互い信用しているだけで、実際いつでも開封して、痕跡を残さず閉じ直すことも可能なはず。
プライバシーに関する問題は昔からあったと思うが、インターネットがあまりに便利で簡単に使えるのに、複雑な仕組みをしていることから一般人を煙に巻きやすく、それを提供する側がプライバシーの保護を約束し過ぎたのもよくなかったかもしれない。企業や政府の言葉は建前に過ぎない。自分がコントロールできないものを使用する時は、基本的に誰もなにも信用してはいけないのだ。それでも私たちは他者を信じることでしか世界を動かせない。だからこそ、どこまで信用するかを自分で定義する必要がある。