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現代アメリカ文学を代表する作家の1人であり、私自身も邦訳作品は8割方読んでいるポール・オースター。彼がオースターとしてのデビュー前にポール・ベンジャミンという名前で発表したハードボイルド探偵小説が本作である。
オースターファンを自称しながらも、本作の存在を全く知らず、書店で見つけて勢いこんで買ったが、これが本当に面白くてたまらない一流の作品であった。私の中でのハードボイルド探偵小説といえば何と言ってもレイモンド・チャンドラーなわけだが、それに匹敵する作品といって何ら過言ではないと思う。
実際、日本におけるアメリカ文学界の重鎮・奇才である若島正先生自ら「ある意味でショッキングな作品である。つまり、これをあのオースターが書いたとはなかなか信じられないくらい、完璧なハードボイルドなのだ」と語っており、そのクオリティの高さはお墨付きと言える。
何ら難しいことを考えずに、最上質な作品世界に耽溺できること時間が過ごせること請け合いの傑作である。
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2023年度版このミスベスト10の海外編でまだ読めていなかったラスト1冊。
絶対好きな話だとは思っていたが、期待どおりだった。
しがない探偵、離婚歴あり、命の危険に向き合っても屈しない無謀さ、脅しに対してのたまうへらず口、そしてついうっかり心を奪われてしまう単細胞な男心。
こってこてと言ってもいいくらいの正統派、王道ハードボイルド。
王道ハードボイルドにベースボール話が絡んでくるのが本作の特徴。
5年前、向かうところ敵なしとさえ思えるような絶頂期を過ごしていたチャップマン(世界最速左腕ではなく、架空の人物)はシーズンオフに不運にも自動車事故に遭う。
事故で片脚を失ってしまったことによりMLBの舞台からの退場を余儀なくされた。
だが、世間の目から隠れた生活を送るわけではなく、著作を上梓したり、最近では政界進出を目論んでいるともされ、どちらかというと失ってなお輝き続ける人物。
そんな折、5年前の「約束」に言及する政界進出に影を落とすような脅迫状が届き、主人公であるマックス・クラインは調査依頼を受ける。
5年前、約束、事故、関係があるのか。。。
そこからはもうあれよあれよという間にさまざまな事件やら脅迫やらが雨のようにマックスに降りかかり、黒幕は誰で、何のためなのか混沌を極める展開。
途中尽きることない、皮肉やへらず口の応酬が痛快。
チャップマンの妻ジョディとの爽やかな語らいの場面は、プラトニックな男女関係のお手本を見たような気もしたのだが、結局のところねんごろな関係になってしまう、その辺も王道。
また、最後の最後まですべての良き未来へ通じる可能性に背を向け、敢えて痛みのある道を選ぶところも王道。
意地なのか、信念なのか、素直でないだけなのか、いずれにしてもこういう自己犠牲的な「強さ」に憧れてしまうのは、ある意味中二病的な症状なのだろうか。
作者ポール・ベンジャミンは、ポール・オースター(耳にしたことはある名ですが、読んだことはありません)の別名義かつ初作とのことで、ハードボイルド作品は後にも先にもこの一作品のみの模様。
まさに一球入魂の一冊。
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あのポール・オースターが別名で書いた、とのことだがポール・オースターの作品を読んだことがなかったのでピンとこなかった。でもそんなことは関係なく実に完璧な正統派ハードボイルドで、とても面白く読めた。何故こんな素晴らしい出来の作品が翻訳されていなかったのが不思議。
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交通事故で片足を失い引退を余儀なくされた元大リーガーの天才打者チャップマンからの依頼。(ヤンキースのチャップマンではない)。国会議員候補と噂されるチャップマンに送られてきた脅迫状、しかしその内容に覚えがないと本人はいう。私立探偵マックスは過去の交通事故にまで疑問を持ち、調査を始める。しかしチャップマンが何者かに殺され、かつてチャップマンを轢いてしまったトラックの運転手も殺され…。
この話、ポールオースターの幻のデビュー作なのである。知りませんでしたよ。ポールオースターがこんなちゃんとしたハードボイルドを書いていたとは!そして驚くくらいよく書けているのだ。
あの抽象的で、なんだかよくわからないオースターの作風ではない。きちんとしたハードボイルドミステリなのだ。いや、あまりにちゃんとしたハードボイルドで拍子抜けするほどだ。
私立探偵のマックスはタフガイだ。マフィアのボスや金に物言わす球団オーナーの脅しにも屈しないで、減らず口で返す。やり過ぎなくらいの。マックスは元検事補なのだがそんな安定した立場を捨てて私立探偵になった。別れた妻との間に一人息子がいる。よりを戻したい元妻を愛しているが故に元には戻らないと嘯く。そして女にモテる。しかしそこにも溺れず信念を貫く。
文章が非常に映像的だ。映画を観てるようだ。それだけでもオースターの実力が感じられる。とはいえ傑作とまではいかない物足りなさは何だろう。うーん、悪く言えば普通なのだ。直球ど真ん中すぎるのかもしれない。
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自らの正義を貫くために、検事の職を辞して今は私立探偵をしている主人公。
脅迫状めいたものが届いたと彼に依頼してきたのは、議員立候補を目指す元大リーガー。彼は運転中交通事故に遭い、野球人生を終えていたのだった。
ここからは、典型的なハードボイルド。夫を心配する妻の登場。仕事から手を引けと暴力や金銭で攻めてくる輩たち。信念を貫き、決して屈することなく、軽口(解説によるとワイズクラックというらしい)や警句を連発する。そして別れた妻と子どもとの交流。
スピーディーな展開で、思わぬ真実が明るみに出され、最後の最後まで気が抜けない。読んで損はない一作。
〈追記〉
本書オビに、海外名作発掘/HIDDEN MASTERPIECES とある。文庫で海外ミステリが続々と刊行されていたのはずいぶん前になる。こうしてまた新潮文庫から未訳作品が刊行されることに期待大。
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この作家、ポール・オースターの別の作品を数年前に読んだ時は、あまり好みではないなと思ってその後敬遠していたのだけれど、今回その名前でデビューする前にペンネームで書いたこの本は、いや、正直面白かった。
ストーリーはまあ、旧き良き時代のアメリカのミステリー、大袈裟かもしれないが、なんとなくヒッチコックの映画を見ているような気にさせられる冒頭から始まる。
でもなんといっても気に入ってしまったのは、最後は痛烈に罵倒して別れる女との情事の前のシーンと、別れることになった妻との決定的となった場面、そして、9歳の息子との、おそらくそれが息子にとって最後の父親との思い出となりそうな、野球観戦のシーンだったな。
ポール・オースター、なんだ面白いじゃんか…
読んで良かったな。
これは買って、またいつか読みたい本だ。
こんな目に遭っても続けるの?という目に遭いながら軽口を叩き、というのが結構続くので、
ちょっとウンザリして心が折れかけたのですが、どういうことだったのか分かってくる所がジワジワと効いてきます。
そのわかる感じを味わうために、途中イライラしたとしても全部読んでおくのをおすすめします。
解説も、よくある読書感想文みたいな解説でなく、ちゃんとした解説なので(失礼)良いです。
Posted by ブクログ
探偵が依頼を受けるところから物語が始まり、ヤクザ者に脅され、悪徳警官に小突かれ、後頭部を殴られて気絶する。途中から依頼人になる美女とは恋仲になるし、ハードボイルドの所謂「定番」をおそらくは意識しながら書かれたのだろう。その上でチャンドラー氏の長編の多くと違って、プロットには破綻がなく、きれいと言うか鮮やかにまとまる。その分、却ってパロディめいて感じられなくもないんだが。
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こんなの第一作としてぶっこまれたら次作も期待する作家だよな
探偵小説 ハードボイルドの主人公は
一直線に自分の信じたままに進んでトラブルが舞い込むけど
粗野で暴力的な相手、敵対する人物には強がりに見える
頭と口を駆使して精一杯の皮肉と当てこすり、減らず口を叩きまくり
窮地をなんともないように装いながら脱出口をフル回転で探しまくり
ちょっとした幸運も味方に泥だらけ痣だらけ、フラフラになりながらも
まるで何もなかったかのように一歩前に進む
それが一匹オオカミ、”タフガイ”を肉体的にも精神的にも体現することで
自分自身を実体化するかのように
しかし、ある時を境に真実に急激に近づいてから
それを突き付けるときの心の奥で熱くなりながらも
きわめて理知的にクールで容赦ない姿 その対比
根底に流れ続けるロマンチシズム
そう、どこか、何かに対して、主人公は起爆する胸の痛みを抱えるはスイッチを
事件と並行する哀愁に満ちた人生を送っていることも知らされながら
チンピラ相手にタフ、黒幕相手にクール、でも自分自身には。。。
こういう主人公や事件の真相がゴチャゴチャしたなかで
あくまでクールに格好良く見られたい、演じたい、生きていきたい
(だから読者からは苦悩や悲しみが透けて見える)主人公の一部を自身に重ね
自分にはないあこがれを追わせて
物語の世界に引き込む力をこの作品は持っている
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純文学作家が本気で書いたハードボイルド小説。
ストーリーや伏線の骨太な感じが重厚感のある雰囲気を作っていて、とても楽しく読めました。
一言で言えば、かっこいい小説。
おすすめの一冊です。
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ガチのハードボイルド。電話応答サービスとか、懐かしいあの時代に引き戻される。
人物のセリフとか所作から、より深いものを読み取らせる描き方はさすがだ。
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最初から種あかしをされているのでポール・オースターだなあと後付けで思えるけれど、普通に数十年前のアメリカンハードボイルドで面白かったです。
第19章はオースターの文体だし、家族や男女関係にかかわる描写もやっぱりオースターの文体でミステリーだけではない味わいが良かったです。
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私立探偵マックス・クラインが受けた依頼は、元大リーガーの名三塁手チャップマンからのものだった。MVP常連の人気選手ながら交通事故で片脚を失い、現在は議員候補となっている彼のもとに、脅迫状が送られてきたのだ。殺意を匂わせる文面から、かつての事故にまで疑いを抱いたマックスは、いつしか底知れぬ人間関係の深淵へ足を踏み入れることになる――。ポール・オースター幻のデビュー作にして、〝卑しき街を行く騎士〟を描いた正統派私立探偵小説の傑作、ついに解禁。
まさに、王道の私立探偵小説といったところ。
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久々に、ハードボイルドらしいハードボイルドを読んだ。出て来るキャラクターも立ってるし、主人公のクラインもハードボイルドの私立探偵として完璧だ。比喩や軽口へらず口がとても生き生きとして楽しい。
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これがオースターなのかと思うほどのどストレートな王道感。
この作品を経ての、ニューヨーク3部作なのだなと。
スタジアムの情景から始まる、親子での野球観戦の描写が本当に素晴らしかったです。
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インテリ私立探偵という感じ。依頼人が、メジャーリーガーでなかったら読まなかっただろうし。今チャップマンという三塁手は実在するが、これは40年前の小説なので、もちろん別人。
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ポール・オースターが、デビュー前に書いていた、しかもハードボイルドという、いわくつきの珍品。しかも、1978年に脱稿したが、6年後の1984年にペーパーバックで刊行という執念の一作である。ポール・オースターをぼくは読んでいないが、彼の書いたものとは思えないくらい作風が異なる正統派ハードボイルド作品が本作であり、彼の手になるハードボイルドはこれ一作きりである。
そうしたハードボイルド書きではない作家による渾身のハードボイルド小説という舞台裏を思うと、もったいないほどの秀作が本書である。主人公のマックス・クラインは、もちろん私立探偵。キャラクターが立っているのでシリーズ化されてもおかしくないくらいのだが、残念なことにポール・ベンジャミンは幻の作家であり、そのハードボイルド作品はこれ一作だそうである。
探偵は元大リーガーのスターで、交通事故で片足を失ったチャップマンからの依頼を受ける。少しすると、暴力専門の二人組がやってきて探偵をぼこぼこにして、依頼のことは忘れろと脅迫して去ってゆく。探偵は減らず口、あきらめの悪さ、一握りの幸運を携えて、元プロ野球選手を包む闇に挑む。
見事なほどのホンモノのハードボイルド。何より一人称の文体と藪にらみの視線。ジョークとメタファーの切り口。美女と悪党たち。業界のプロたちと、見上げるばかりの豪邸に住むこれ以上ないほどの大金持ちの鼻持ちならさ。
そして二重三重に逆転してゆく真実と、死体の数々。有象無象の男と女とが交錯するニューヨークの闇。汚れた街をゆく高潔な騎士譚。これぞ忘れ去られているあのハードボイルドの極致。そういわんばかりの作品なのに、シリーズにもなることがなかった。ポール・ベンジャミンは、ポール・オースターに名を変えて、別の偉大な作家になり、探偵はニューヨークの街角に姿を消してゆく。
それにしても懐かしくも楽しい一作だった。しかし、これも彗星の如き作家の腕による一瞬のハードボイルドのきらめき、とでも言うしかないだろう。
Posted by ブクログ
著名な元大リーガーからの依頼で、脅迫者を追う私立探偵を主人公にしたハードボイルド。人物描写も良いし、なかなか巧みに書かれてはいると思うが、どうしてもその前日に読んだ「真珠湾の冬」作品と比べてしまうので辛口の☆になった。