朝井まかてのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ本作は、長崎の三女傑の一人、茶葉商人の大浦慶を描いた歴史小説です(ちなみに残りの二人はシーボルトの娘で医師の楠本イネ、ロシア語を極めロシア人専用ホテルなどで繁盛した道永栄)。
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で、やはり人物がダントツに面白い。
幕末に商家の一人娘として生まれたものの、祖父が跡継ぎたる父を見限り、孫の慶へ英才教育を施すという背景もあります。この慶が、落ち目の家業である油商ではなく、当時藩の直轄だったオランダとの交易にどうにかして食い込もうと奮闘します。
ちなみに、お慶さん、驚きのどストレート発言が信条。
せっかく婿をとったのに、数日で離縁したいと周囲に漏らす。それも、「これはダメな男」だとの勘。というのも、火事の際に娘(慶)を置いて逃げ出した父と同じ匂いがするとのこと。されたほうはたまったものでもないが、周囲も離縁を認めてしまうのは、おそらく信用されている証拠。破天荒というより直情径行、雰囲気を読まないところが豪快で逆に胸をすく人物です。
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個人的に最も印象的だったのは、慶にとって外国人との初取引となる、ヲルトと茶葉販売の納品のシーン。
やっては見たのの、とにかく品物が揃わない。前銀を貰った手前、「やっぱりできませんでした」は期日に言えない(船がカラで帰るだけ燃料代が無駄になるし)。そもそも自由に外国人と取引していいと言われていないグレーな時に、大っぴらに助けも求められない(ってか罰せられるよ)。何とか言い草をつけて知り合いの茶葉商人から相当量をおろしてもらったり。その顔をつぶさないように、他の茶葉商人には話さず、直接嬉野の農家へ赴き商品確保に成功したり。それでもまだ足りずその農家の家庭用の粗茶(枝と葉とないまぜになったもの)をバルクで買い上げ、自前で茶葉だけにふるい分けしたり。期日までに所定の納品量の9割程度まで集め、若干足りないものの何とか納品が終わりディールが完了したところは圧巻。
私もかつて証券マンで営業しましたが、ノルマが期日ギリギリのところで(大抵最終日に残業しながら)各自電話やPCにかじりつきながら、ホワイトボードでノルマ残が少しづつ減り、すんでのところで全部売り切る、そういう感覚を思い出しました。
ちなみにこの後、慶の茶葉交易は爆発的に拡大し、商いは年々うまくいきますが、好事魔多し、大切な部下に死なれたり、騙されたり、一本調子ではありません。でもだからこそ、もう一発ツイストが来ます。ここもビジネスパースン感涙の「やっぱりコツコツ頑張るのが大事だ」って場面になります。ぜひご堪能を。
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あと、歴史人物が相当数交錯します。
幕末を駆け抜けた武器商人のグラバーや、茶葉商人オルト。どちらの邸宅も現在のグラバー園に移設されていますね。また大浦屋の二階でたむろすることを許すことでいつの間にか支援する形になった、大隈重信や亀山社中の面々(坂本龍馬も)が登場。私はこの本で、なぜ土佐藩脱藩兵士が日本の転換期に関わったのかをやっと理解しました。
それ以外にも慶の脇を固める頑固頭の番頭の弥右衛門、弥右衛門なき大浦屋を支えた元気キャラの友助、夫を7人持った月花楼の女将のお政など、物語を彩ります。
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ということで、長崎の歴史ものでした。
著者の朝井まかてさんの作品は初でしたが、ちょっと風景描写が多い気がしました。「これっていわゆる心情を表す風景描写か」って国語の受験テクを思い出しました。
なお斎藤美奈子さんの解説は簡便にして的を射ており、読んだ瞬間感想を書く気が失せました。書いているけど。
歴史好き、長崎好き、幕末好き、女性のトップランナー系の話が好きな方、お勧めです。 -
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江戸幕府開闢後間もなく、幕府の許しを得て吉原遊郭を創設した庄司甚右衛門の妻として妓楼西田屋の女将となった花仍の目を通して語られる、吉原とそこに生きる遊女たちの物語。
江戸歌舞伎の始まり、猿若勘三郎や伊達騒動の殿様なんかも登場するし、明暦の大火にも見舞われて、なかなかダイナミックな時代の動き、変わり目を感じる話でした。
ちょっと終盤の展開が飛ばし過ぎなのが勿体ない感じもありますが、遊女若菜とその忘れ形見の鈴、その娘菜緒、菜緒の子の小吉と、血は繋がらないけど、心の葛藤を越えた絆に結ばれた家族に囲まれて、花仍の賑やかな晩年は安らいで見えました。 -
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北斎の娘、葛飾應爲(お栄)の一生。8割が北斎の晩年の足跡とお栄の関係ということで物足りない感じが続く中、友であり懸想相手の英泉(善治郎)の死や北斎の死を挟んで自ら絵師として大きく一歩を踏み出す姿に最終的には引き込まれた。
言い方は難しいが、愛する父北斎が彼女の重石になっていたのかと感じた。北斎が長生きでなかったら、應爲ももっと多くの名作を残していたのだろうか。
本作では甥の時次郎がキーとなっている。読み手としては何ともムカつく出来損ないの甥で厄病神である一方で、最後に見せたお栄と時次郎の互いへの親族愛のようなものを見ると血の繋がりの良さと厄介さをより感じた。また、今読んでいる北斎にまつわる作品で「北斎は本当に貧乏だったのか」という謎が出てくるが、本作の設定、つまり甥の借金の肩代わりをし、そのために引っ越しを繰り返していたというのは小説ならではであるが面白いと思った。 -
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葛飾北斎の娘、葛飾応為の生涯を描いた歴史小説。
朝井まかてさんの小説って近作を読めば読むほどに、名人芸の域に達してるような気がします。葛飾応為のことは全く知らなかったのですが、鮮やかに彼女の生き様が思い浮かんでくる。
天才葛飾北斎を父に持ち、幼いころから絵に親しみ、父の元で腕を磨いてきた応為ことお栄。口うるさい母親、つかみどころのない甥、気まぐれな兄弟子、そして偉大ではあるけれど、人間味のある父の北斎。そうした周りの人々の姿を生き生きと描き、そしてお栄自身の描写もとても生き生きと、それでいて心理は丁寧に描かれる。
父や兄弟子と比べての自分の絵の腕に対する葛藤、絵ではその兄弟子にライバル心を燃やしつつも、一方で想いを寄せる複雑な女心。結婚や女性としての生き方を口が酸っぱくなるほど説教する母に対する反発心。トラブルばかり起こす甥に対する苛立ち。
ちゃきちゃきで歯切れのよい江戸弁の中で描かれる、お栄の心理描写。それはまさに応為の絵の陰影のように小説に光と影の陰影を作ります。
そして様々なトラブルに遭いながらも、芸術に真摯に生きようとする人々の姿も素晴らしい。病気で体が不自由になった北斎に、滝沢馬琴が叱咤激励を言いに来る場面や、お栄の兄弟子の善次郎やその姉妹である芸者の妹たちの姿。
そして父の看病、母の死、甥の借金騒ぎ、火災にあったり想いを寄せた人との別れを経験し、徐々に自分の絵を極めていくお栄。
彼女の気づき、そして自分の生き方を見つける場面の爽やかさは特に素晴らしかった!
読み終えてから画像検索で応為の作品をいくつか見ました。彼女の作品の陰影の裏にあるドラマを勝手ながら想像し、勝手に胸を熱くしました。
第22回中山義秀文学賞 -
Posted by ブクログ
シーボルトつながりの本は、これで何冊目だろうか?
この作家さんの描く世界は丹念に積み上げた史実を、、素敵な物語に仕上げています。
出島のシーボルトの植物園に出入りの植木屋から専属の職人をと依頼があった。
そこで決められたのが一番年下の熊吉。
先輩の職人たちは皆外国人のもとで働きたくはなかったのであった。
熊吉、実は蘭語を習いたいと心のうちで密かに野望を持っていたのだった。
熊吉はそのまじめな働きぶりと、工夫を重ねた植物園の造園方法で一目置かれる。
熊吉、バタビア人のオルソン、シーボルトの日本人妻お滝は仲良くなり共に食事もするように。
才能も機転も聞くシーボルトは、幕府の要人らの受けも良い。日本各地から教えを乞う人々が多数やってくる。
物語は熊吉の工夫で1000品種に及ぶ植物をシーボルトが変える船で送るところまでが描かれ、終章では、お滝との娘と再会するところで終わる。
他の作家により、この娘が苦労して女医になるまでのノンフィクションも存在。