これがデビュー作とは到底信じられない完成度の高さに只々驚くばかり。少しずつ読み進めるつもりが、思わず一気読みしてしまった。昨今、歌舞伎町や裏社会を舞台とする作品は随分と増えてきたものの、おいそれと今作を凌駕するのは困難であろうし、国産ノワール最高峰とも呼ばれている所以も堪能出来た。最悪の事態を切り抜けるべく謀略の限りを尽くす主人公・健一が抱く猛烈な生存本能は彼の抱える空虚な諦念と表裏一体なのだろうか。極限状態で惹かれ合う健一と夏美だが、あまりにも似た者同士だったため、悲劇的な結末を導くのは何とも皮肉的だ。