あらすじ
東日本大震災発生から3日後、石巻に入った老人・真栄原幸甚(まえはらこうじん)は眼前の惨状に、60数年前、戦時下の光景を思い出す。1945年、日本は敗色濃厚。14歳、沖縄一中の生徒だった幸甚は、鉄血勤皇隊として強制的に徴用される。ついに米軍は沖縄へ上陸。激しい砲撃・爆撃に本島南部への撤退を余儀なくされた日本軍の道案内を命じられ、あまりに苛酷な地獄を見る! 慟哭の沖縄戦を描く異色の力作長編!
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Posted by ブクログ
真夏に読んだけれど、クーラーの効いた快適な環境で読んじゃいかんなと思った。終戦記念日前後のTVの街頭インタビューで高校生か大学生ぐらいの子が「(かつてアメリカと戦争をしたと聞かされて)アメリカと戦争なんてするわけないじゃないですかあ!」なんて明るく答えているのを見ると、沖縄のことなんて観光地ぐらいにしか思ってないんだろうなあ、米軍基地が多くある理由も理解してないんだろうなあ、小学校で英語やらプログラミングやら教えるよりも現代史をきちんと教えるべきなんじゃないのかなあ、と思ってしまう。
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かつて人だったもの達のゴミが不快この上ない。そんな言葉が印象的だった小説。
不幸を、戦争を、90歳になる私の祖母は何も話してくれない。機関銃で指先を無くし、マラリアの後遺症で毛の一本も生えなくなってしまった祖母は、過去を語ろうとしない。思い出すことさえ憚れるのだろう。
それでもいつだったか、私が確か小学4年生の頃に戦争について作文課題がだされた。その時に一度だけ聞いたことを覚えている。
目の前で幼かった弟の体が弾け飛び、下半身だけが地面に立ったまま残っていたこと。
マラリアに罹患した時、家族に迷惑をかけぬよう、自ら死体置き場に向かおうとしたが、肉の削がれた足では歩いけず、悔しい思いをしたこと。腐敗した人の足は嘔吐するほど臭かったが、人の焦げる匂いは香ばしくもあったということ。死体をひっくり返しながら母を探したこと。片目から蛆の湧きでる憎き日本兵の手当をしたこと。親友の食糧を奪って空腹を満たした時の絶望的な罪悪感が今でも自分を苦しめていること。死んだ人間の下に隠れていれば、アメリカの機関銃は撃たないという戦争ライフハックも自信たっぷりに教えてくれた。
そんなに苦しめられた戦争だけど、味覚は昔を懐かしむらしく、賞味期限一ヶ月過ぎたドロドロの牛乳が、蒸しただけの泥芋のツタが、今でも好きなことも。
ウクライナの戦争のニュースが流れるたびに、過呼吸になってしまう祖母は今だに80年前の戦争に縛られて生きている。
孫である私の顔を見るたびにお腹空いていないか聞いてくる祖母に、さっきも食べたよと呆れた顔を見せた自分は、絶望的な空腹を味わったことのない幸せクソ野郎だった。
戦争時代に比べれば今は幸せなんだから文句は言えない、なんて説教じみた事は1ミリも思ってないが、私たちはやはりあの時の苦しみに想いを馳せておかねばならない。
まぁそんなこんなだが、祖母は韓国ドラマにハマって偽装恋愛を楽しんでいる模様。楽しそうで何よりなのでNetflixを入れといた。
沖縄の戦争。沖縄の苦しみ。
ぜひ皆さんにも読んでほしい。
内容も話の展開も面白く読めるので、祖母の話しを抜きに本書の小説としての面白さだけで星は評価している。
Posted by ブクログ
池上冬樹の解説にも書いてあるように「まさか馳星周の小説を読んで泣くとは思わなかった」。
東日本大震災の被災地、石巻。そこから物語が始まる。大津波に襲われた石巻の風景描写…読み始めてすぐに泣けてきた。東日本大震災の直後に両親の安否を確認するため向った沿岸の町…全てが津波で流され、大きな船が打ち上げられ、瓦礫に覆われた道路…虚ろな表情で歩く人々…余りにも強く残る人々の生活の痕跡…あの光景が頭の中に蘇った。
そして物語の舞台は終戦間際の沖縄へ。あの悲惨な戦争と東日本大震災がオーバーラップし、ページをめくるたびに涙がこぼれる。本土に見捨てられた沖縄…その中で必死に生きる14歳の真栄原幸甚…馳星周の小説を読んで泣くとは、本当に思わなかった。
タイトルから想像するに馳星周得意のノワール小説かと思ったのだが、意表を突かれた。やられた…
Posted by ブクログ
日本で唯一地上戦となった沖縄。
沖縄線では兵士、島人関係なく銃撃を受け、多くの人が命を落とした。
また日本兵は島人より食料や壕を奪った。
そして生き残った島人たちもお互いにそうするしかなくなっていく。
みんな生きることに必死だった。
戦争は人の命だけでなく、心までも大きく蝕んでしまった。
憎しみを生み、残酷さを露にさせた。
沖縄には深い哀しみがあることを、私たちももっと知るべきだ。
2014.6.29
Posted by ブクログ
何を
何を言葉で表せばいいのだろう。
どの感情が私の中には流れているのだろう。
言葉が、一つ一つが、
重く、何かを残していく。
しかしこれは生きた声ではない
「字」を通して伝えられたものだ。
しかしこれはフィクションではない
「字」を通して人から発せられた生きた言葉なのだ。
矛盾しているだろうか。
これが戦争を知らない
私達に必要な体験なのだとすれば
私達は避けずに受け止めなければならない。
でも、
でも…
受け止めた後、その後
どうしたらいいのかがわからない。
確かにそこに現実があった。
しかし私の今、目の前にはない。
確かにその場所は今もある
けれどそれはもう違う場所となっている。
わからない。
「わからない」と考えることが必要なのだろうか。
悲しい
惨い
酷い
辛い
苦しい
どの言葉もあてはまらない
しかしどの言葉でもあてはまる
それら全ての言葉を含んだ
「戦争」
という言葉の重みを知らなければならない。
沖縄というまさにその土地で
読むことができて良かった。
Posted by ブクログ
私自身幾度となく沖縄を訪れ多くの戦争遺構を見聞きして回ることで当時そこで行われていた異常な世界を人並み以上には認識していると思うのだが。
しかしそんな知識の端くれがあったとしてもたった14歳の鉄血勤皇隊の少年の目を通して見る地獄絵図にはやはり驚きは隠せず戦争の持つ狂気に忿怒の言葉さえ見失ってしまう。
特に仲間の命の為と言え同胞の老人子供に拳銃を突き付け食糧を強奪するシーンは生々しくここまで追い詰められながらも本土の防波堤となり犠牲になられた沖縄の人々には感謝と共に哀悼の意を捧げるしかない…合掌
Posted by ブクログ
馳星周の戦争小説は、新たな世界のようで、実は暴力や血という共通点からすれば馳星周ど真ん中のジャンルであることに気づきました。
ノワール作家と言われる馳星周が戦争を描けば、現代における複雑な暴力を超え、戦争による圧倒的な絶望や悲しみが深く描写され、何故今までこのジャンルが出なかったのかとも感じました。
馳星周の沖縄への思い入れはどれほどのものかはわかりませんが、本書を踏まえてさらに『弥勒世』が活きるという沖縄の歴史の積み重ねを感じました。
Posted by ブクログ
戦争の話がメインだけれど、311の震災ともリンク(震災の描写はほんのちょっと)している。
震災とリンクして、話が切り替わる箇所がわかりにくいが、文章はうまい。
Posted by ブクログ
沖縄戦の、太平洋戦争の悲惨さが心に響いた。
有り体の言葉では表現できない、戦争の非情さが克明に描かれている。
これまで多くの戦争ものを読んできたが、『永遠の0』に次ぐ大作であると感じた。
Posted by ブクログ
東日本大地震。
物語はあの震災の瓦礫の中を彷徨うところから始まる。死屍累々としら光景を見て、かつての戦場と似通ったところから回想へ。
太平洋戦争末期の沖縄戦。
沖縄戦において、ひめゆり学徒隊は有名だが
鉄血勤皇隊というものがあった。
戦争に駆り出されるのは二十歳以上のものであったが、この鉄血勤皇隊は17歳未満の14〜17歳の子供達で編成された部隊だ。
2024年でこの鉄血勤皇隊の存命者はいなくなったとのこと。
戦時下における極限状態においての、理性と生存本能の間に苦悩する描写が胸を抉る。
徐々に戦争経験者がいなくなってゆくが、史実として語り継がれてゆかねばならないと心から思う。
巻末へ進むと、戦争と震災の対比がリンクしてゆくが
どちらも決して風化させてはならないと念を押された気がした。
Posted by ブクログ
馳さんによる、沖縄本土決戦の学生隊の記録です。小生の亡祖父が、沖縄戦からの帰還兵で、地下壕の中、米軍の射撃が顔を掠めていったと言っていたのを思い出しました。記憶をつないでくれた、馳さんに感謝です。
Posted by ブクログ
吉村昭の「殉国」は軍国主義を中心として描かれていたが、この「美ら海、血の海」は反軍思想が中心だ。しかし、題材は同じなので、悲惨な沖縄県民の末路に心を打たれる。
Posted by ブクログ
作者の新たな境地だろうか。
作者得意の暴力性が見事に戦争の理不尽な悲惨さを描くのに結びついた。
しかし、戦争をテーマにした作品はあまたある。
今この作品で改めて胸をえぐられるというものでもなかった。
いい作品だとは思う。
しかし、いつもの馳から脱却を果たそうとするのなら、まだ更なるものを期待したい。
Posted by ブクログ
東日本大震災発生から3日後、石巻に入った老人・真栄原幸甚は眼前の惨状に、60数年前、戦時下の光景を思い出す。1945年、日本は敗色濃厚。14歳、沖縄一中の生徒だった幸甚は、鉄血勤皇隊として強制的に徴用される。ついに米軍は沖縄へ上陸。激しい砲撃・爆撃に本島南部への撤退を余儀なくされた日本軍の道案内を命じられ、あまりに苛酷な地獄を見る。慟哭の沖縄線が胸に迫る著者初のオリジナル文庫。