高橋克彦のレビュー一覧
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広目屋・藤岡屋由蔵に居候する武士・香冶完四郎の謎解き短編。1篇30頁程度で非常にテンポ良く読みやすい。魯文や芳幾を始め実在の人物を交えたバラエティ溢れるストーリーが魅力的。特に高橋氏らしく怪談関連が多く、現代の怪談には興味がない私だが、虚実の狭間を突く今回のような物語は非常に良い。相棒・魯文の下っ端感と由蔵の面倒見の良さ、完四郎の飄々としつつも誠実な優しさが綺麗に混ざり合い、心地よい雰囲気を醸し出している。最後の安政の大地震は非常にショッキングな事件だが、被害や被害者にスポットを敢えて当てずに復興や正常化に向けて奮闘するメディアの意義に焦点が当たっており、非常に示唆に富んだ短編になっていると思
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鬼九郎シリーズ最終巻。ツッコミどころ満載のはちゃめちゃ話だったが、作者の目指す娯楽時代小説としては満点だと思う。
1、2巻で敵対した左甚五郎が仲間になったように本作の序盤、中盤を引っ張った風魔の西鬼、南鬼、小五郎が、中盤以降の主役、高澤恒志郎、青柳元七といった強者が皆敵から味方となり、200人近くを相手に大乱闘を繰り広げる圧巻のラスト。
九郎と又右衛門が九郎の理不尽に命を狙われる境遇を嘆くシーンは高橋氏らしい熱を持っていて、明るい展開が続く中で、短い文章で泣かされた。
まだまだ続いてほしい気もするが、蛇足になりかねない気もするので丁度良い完結だったと思う。 -
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シリーズ3作目。今回は短編5作で、鬼九郎以外の面々を主役に据えながら、1つ1つが読み応えのある作品に仕上げられている。
どれも良いが、『怪談高尾』はホラーとミステリを混ぜた独特な雰囲気と展開で先が読めない面白さがあった。全員集合で犯人を嵌めるのはお決まりであり、この話の読後が一番良かったと思う。
ただ本作のハイライトは最終話の『九郎非情剣』。九郎の出生の秘密が判明。私の予想は将軍の腹違いの兄弟だったが、その更に上で、かつ実の親に命を狙われるという非情。皆が九郎を守るために命を張る場面は心揺さぶられる。決して大きく感情を顕にしない九郎が涙するシーンは、それが皆への感謝の嬉しい涙であり、親に -
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シリーズ第2巻は、江戸を離れ、作者得意の東北を舞台を移し、前作の面白さを大きく超えてきた。左甚五郎の配下がおっちょこちょいすぎる点と長兵衛たち侠客組が小物すぎる点は気になるが、十兵衛・九郎・徳兵衛の三銃士の活躍が楽しい。
この江戸前期は戦国時代と江戸の安定期の狭間であり、政治的な苦心(配慮)が色々な事件を通して見ることができる非常に興味深い時代。会津騒動は名前以外を詳しく知らなかったが、この事件と絡めるのかと感心させられた。
今回は天海も不気味な存在であり、より人間関係が複雑になりそう。1・2巻で悪役として描かれた左甚五郎だが、そろそろ仲間になりそうなほど愛嬌があるキャラになってきている -
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気になったところ、心に響いたところ。
774年、蝦夷が桃生城を攻撃。ここから蝦夷の大和朝廷との防衛戦争が始まる。いわゆる38年戦争。
続いて、伊治城の伊治呰麻呂が反乱を起こす(780年)。阿弖流為が登場するのはここから。物部が後ろ盾となる。
上巻 ページ98。
母礼の言葉。
「だからこそ、物部は同族の暮らす陸奥を頼ってきたのだ。 かつては出雲が我ら蝦夷と物部の祖先の暮らす。 土地であったらしい。 それを海を渡ってきた朝廷の者らの祖先が奪い取った。 我ら蝦夷は北へ逃れたが、物部はなんとか止まって朝廷に従うことなったのだ」
阿弖流為。
「我らと物部が同族。」
母礼。
「 -
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舫鬼九郎、天竺徳兵衛、柳生十兵衛。3人の最強剣士が江戸の闇を明かしていく。この説明は間違っていないはずだが、実際は3人は三つ巴の敵として登場し、十兵衛以外の架空の2人は未だ身元ははっきりしていない。故に2人の正体や3人が手を組んでいく過程が物語の面白さを増していると思う。
他にも宇都宮駅前でお馴染みの初代横綱・明石志賀之助、天海僧正、左甚右衛門など有名人も続々登場し史実と虚構が上手く構成させれていて楽しい。最後の"海戦"も派手で良かった。
細かい点では、最後の勝負でいくつか作戦を挙げて実現可否を検討していくのが高橋先生らしいと思った。決まった作戦を紹介するだけで物語的 -
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再読。第二作で手を貸した道鏡が巨大権力を握っていく中、嶋足と天鈴がそれを阻止すべく奮闘する。
本作は最後を除き天鈴の策が尽く外れる。それだけ道鏡が狡猾だったということを表しているが、聖武天皇以前の藤原氏の権勢(称徳天皇自身、祖母も母も藤原氏)を知っているだけにこの一瞬で藤原氏の勢いが減退したという事実は改めて見ると面白い。もし称徳天皇が藤原氏の血を疎んで意図的に道鏡を利用していたらという妄想も…(澤田瞳子氏の『月人壮子』に感化されて)。
いずれにせよ、道鏡の試みはあっさり阻止され、蝦夷にとっては苦難の時代に入る。道鏡が皇位についた方が蝦夷にとっては良かったのかとも思ってしまう辛い歴史が… -
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あとがきで川村湊さんが、
岩井出身の“みちのく”作家。
心の中の “みちのく”の情景を描く。
と、上手こと表現している。
直木賞の人生の曖昧となった記憶を物語とした
7編の記憶シリーズ。舞台も東北が多い。
どの短編も、記憶から欠けた時間を探し始めるところから始まる。そこに記憶を封じなければならなかった事情を思い出していくという構成。
各作品、設定も展開も工夫されて、とても素敵な短編集です。
「緋い記憶」
故郷での緋色の記憶。そこに残る少女との思い出。なぜか、住宅地図には、その家の記録がない。
「ねじれた記憶」
男は母との記憶が残る寂れた温泉宿へ。そこは、母親の自殺した場所。母親とよく似た女性