高橋克彦のレビュー一覧
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東京でデザイナーをしている〈私〉は、共に盛岡での高校時代を一緒に過ごした友人である加藤から古本屋で、古い盛岡の住宅地図を買ったことを聞かされる。古い地図から過去の自分自身の記憶を振り返るのが趣味だというのだ。〈私〉には淡い記憶があった。彼に倣って住宅地図で過去を振り返ろうとした〈私〉は、記憶の中にある一軒の家を探した。確かにあったはずの家がどこにも見つからない。あの家の正体は。そしてあの思い出は。ラストに恐怖と切ない余韻が残る――「緋い記憶」
東北の民家が中心の画集の中に描かれた断崖の側に建てられた大きな宿屋の絵。〈私〉はその絵を見て、胸騒ぎがした。幼い頃、〈私〉はその岩手の山の奥の温泉 -
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ミステリー小説ですが、個人的にこの物語で起こる殺人事件に関してだけでみたらそこまで素晴らしいとは思わないかもしれません。
しかしこの小説は異常な面白さでした。浮世絵を全く知らない私でしたがこれから浮世絵のことをさらに知りたいと感じてしまうくらいでした。中盤までは専門的な用語や人物が多く退屈しそうな部分もあります。しかし、登場人物の情熱や交わす言葉のどれもが素敵で魅了されます。
写楽の謎から始まる殺人事件ということで浮世絵をミステリーの道具としていますが浮世絵の部分が完璧すぎました。
こんなミステリー小説でもいいのだとまた新たに読書が好きになりそうです。 -
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前編より続く。
敵情視察に訪れた京で見たのは、蝦夷に対する蔑みと敵意。そして宿敵坂上田村麻呂との出会い。
朝廷の威信と蝦夷の尊厳を賭けた戦いは朝廷の敗退が続き、業を煮やした帝は田村麻呂に討伐を命ずる。そして決着の時、征夷大将軍田村麻呂率いる十万の軍勢とアテルイ率いる精鋭部隊一万三千が陸奥の地で相見える。
この物語はここから結末までがとにかく感動的。一族の安寧を願うアテルイの決断に思わず目頭が熱くなる。
人類の歴史は侵略の歴史。一握りの受益者と数多の犠牲者。延々と続く負の遺伝。人は自らを理性を有する無二の生物とするに、欲望に際限がないのは何故か。
当時の日本の総人口は600万人前後と言われている -
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一氣読み。引き込まれた。
時代は平安遷都の前後、国家の大事業とともに大規模な征討がおこなわれた。その標的となった未開の地、陸奥に住まう蝦夷一族が尊厳と平和な暮らしを求めて抗う話し。日本人なら一度は耳にしているだろう「征夷大将軍」は、この蝦夷征伐の総大将に与えられた特別な官職。武家の最高職となったのは後のこと。
異民族として人にあらずの扱いを受けるが故に朝廷への臣従を拒否する蝦夷一族に侵略の手が伸びる。行く末を案じる長らの期待を背負い、やがて名実ともに総大将となるアテルイと名参謀のモレら若者が中心になって反旗を翻した。圧倒的な武力を持つ朝廷に対し、一度たりとも負けることが許されない終わりなき戦い -
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上・下巻合わせて1000ページ超にハマりました。長きに渡る戦いに蝦夷の先行きを想い、アテルイが下した決断の潔さと覚悟に、何度も目頭が熱くなりました。人としての誇りを守るために闘う物語に心底酔いしれ、茫然としています‥。
立場と信念の相違により対峙するアテルイと坂上田村麻呂。心では互いに認め合いながらも、運命に翻弄されていく様子が哀しくも美しく描かれます。田村麻呂の漢気にも感無量でした。
決して軽々しい「敗北の美学」がテーマの物語ではないのですが、形の上で負けであっても、後々どう評価されるか、そこで真価が問われるでしょうね。蝦夷の心・誇りが1000年先まで伝わったら、寧ろ勝ったのだと言え -
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高橋克彦さん初読なのに、日本推理作家協会賞・直木賞受賞作品等を飛び越えて本作! まだ上巻ですが、読み始めて直ぐ、感激に打ち震える"傑作"の予感がし、確信に変わっていきました。「わが選択に、一片の悔いなし」です!
今から1200年ほど前、奈良末期から平安初期の東北地方。"蝦夷(えみし)"と呼ばれる一族は、平和な日々を送っていましたが、全国平定を狙う大和朝廷に虐げられ、生活を脅かされます。
因みに「平定」とは名ばかりで、征夷大将軍の「征夷」は、朝廷に臣従しない東北の民である蝦夷(蛮族)を征討する、という意味でした。
そんな蝦夷一族を率い、蝦夷を -
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最終巻は伊治鮮麻呂が主役。4巻までが嶋足・天鈴の京視点の蝦夷だったため、少し残念と思っていたが、最後まで読んでそもそも4巻までが鮮麻呂の物語の御膳立てだったのだと思い構成に舌を巻いた。
本巻は陸奥三部作に劣らない「熱」があった。内外両方から敵と見做されながら耐え続けてきた鮮麻呂の保っていた糸が切れた瞬間(天皇の勅令で蝦夷を獣と呼んだ場面)が鮮明な印象に残った。鮮麻呂は嶋足も同じ気持ちだったのかと思い耽る場面があるが、私はレベルが違うと思う。嶋足は重用はされずとも自ら蝦夷に手を下すことはなかったが、鮮麻呂は忠誠心を示すために仲間を殺さなければならなかった。最後に自死を選んだのはその贖罪もある