朝井リョウのレビュー一覧
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ネタバレ時をかけるゆとりは、一見すれば軽妙なユーモアに満ちたエッセイでありながら、その奥底には“時代”と“個人”の関係性を鋭くすくい上げる、確かな観察眼が息づいている作品である。
本作に連なる数々のエピソードは、どれも取るに足らない日常の断片に過ぎない。だが、その「取るに足らなさ」こそが、読み手の記憶を強く揺さぶる。大学生活、家族とのやりとり、ささやかな失敗や過剰な自意識――それらは決して特別な出来事ではないにもかかわらず、朝井の筆致によって鮮やかな輪郭を与えられ、「かつて確かにそこにあった時間」として立ち上がってくる。
とりわけ印象的なのは、徹底された自己戯画化である。著者は自身を笑いの対象へと -
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ある舞台女優と、彼女のファンクラブを取り仕切る女性の会員、そして新しく加わった会員。3人の女性の語るそれぞれの人生、悩み、苦しみ、そして悟り。自分にも少なからず心当たりがある人の心の嫌なところがむき出しになるので、うっとなるけれど、最後はそれぞれが自分の人生を取り戻せるような終わり方で良かった。
3章の舞台女優のお話が特に好きだったし、共感できた。本来は羨ましがる要素などないのに、不幸なエピソードを持っていて、みんなから注目を集めることができる人、そこに強烈な物語と理由を生み出せる人をずるいと思ってしまう感情。どん底を知ってるからこそ人に優しくなれる、ってよく言うけど、じゃあどん底を知らない -
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「自分がいろんなカルチャーを好きな理由ってここにあるんだよな〜」と思えるようなフレーズが中盤くらいにあり、そのあたりから割とすらすら読み進められた。
さまざまなコンテンツに触れるための媒体が多様化し、消費速度もみるみるうちに上がり続けていく現代で、作り手は何を大切にすればよいのか。日本でも有数の映画監督に弟子入りした尚吾と、YouTubeでの発信を行うことにした絋という二人の主人公の葛藤や学びを通して、受け手である我々にも疑問を投げかけてくる構成がとても良かった。
めまぐるしくモノの価値基準が変わっていく世の中で最終的に信じられるのは自分の心だけ。自分がここまでの人生で触れてきたものすべてがこ -
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多様性の尊重という言葉が孕む「排除」「差別」の意識に気づかされた。人は自身の想像の及ぶ範疇でしか物事を捉えられないということに自覚的にならなければいけないと思った。ただ、私は、自覚したは良いものの、「自分はマジョリティの岸におり、マイノリティを受け入れる側である」という傲慢な思考に早速陥っていることに気づく。
欲望は自分の中から生まれるものだと思っていたけど、社会の価値観を内在化しながら形成される社会的な側面もあることがわかった。拠り所がなく不安だから、自分は正しいことを他者と確かめあうために、相手に秘密を差し出すというのは言い得ていると思った。 -
Posted by ブクログ
「健やかな論理」にやられた。
直前まで健やかだった人々が自殺する突拍子もなさが、納得できるのだ。普通の構成だったら違和感しかないだろうな。この作品では、その唐突な行動を自然な流れとして描いている。
ある日、急に死にたくなるのではない。意識の底でずっと流れていた希死念慮に気づいてしまった途端、その流れに乗るのが自然だと感じてしまうのだ。
「もういいかなと思った」というセリフにはリアリティーが溢れていた。
「そんなの痛いにきまっている」は、著者のメインテーマである性癖が描かれている。マジョリティーには見えない当たり前の壁。多くの人には見えず、素通りできてしまう空気の壁なのに、著者の描くキャラクタ -
Posted by ブクログ
「多様性を認めるべきだ」という現代社会に広く浸透した価値観そのものに、真正面から異議を突きつけてくる作品である。その衝撃は、理想的とされる言説に対し「うるせえ、黙ってろ。」と読者に鋭い痛みを与えかねないと感じた。
本作が焦点を当てるのは、私たちが属する共同体の枠組みから逸脱し、容易には理解され得ない価値観を抱えた人々である。読者は、その存在と向き合う中で、自らの「理解しているつもり」という前提を根底から揺さぶられる。単なる共感や受容では到底捉えきれない現実が提示され、自身の価値観そのものを問い直さざるを得なくなる。
まさに劇薬と呼ぶにふさわしい一作であり、読後には世界の見え方がわずかに変質