朝井リョウのレビュー一覧
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変わっていく時代と、質と価値。
何が本物で、何が正解なのか。
「誰かにとっての質と価値は、もう、その人以外には判断できない。それがどれだけ、自分にとって認められないものだとしても。」
「誰かがしてることの悪いところよりも、自分がしてることの良いところを言えるようにしておこうかなって思う。」
最後の千紗の言葉が刺さった。
多様な価値観が生まれている現代では、自分の中で大事にしていることと、他人の中で大事にされていることが同じとは限らない。でも、だからといって、自分の価値観を他人にまで押し付けるようなことは、今の時代には違うんだなと痛感した。
目につくものを全部、無理やり同じ土俵に並べてしまうと、きっと苦しくなる。「わかってもらえない」ではなく、「わかり合えなくてもいい」と思えることも、これからの時代を生きていくうえで必要なのかもしれない。
誰かの価値を否定することに時間を使うよりも、自分が大切にしているものや、自分がしていることの良さを、自分の言葉で語れる人でありたいと思った。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「水曜日の南階段はきれい」が圧倒的に好きです。
美しくもありもどかしくもある青春のキラキラが、胸に響きました。
何度でも読み返したい話です。
夕子さんは素敵な人。
これは光太郎が忘れられないのも無理はないと思います。『何者』の後、再会出来る未来があったらいいのに。
次点は「何様」
眉毛カッターの子が主人公だとは、気づきませんでした。君島さんが良いキャラしていました。
「本気の一秒」(p397)
「誠実への一歩目も、誠実に入れてあげてよ〜」(p398)
という言葉が心にスッと入ってきました。
それ以外の短編は、あんまり……でした。
「逆算」は、クリスマスでもなんでもいいじゃん、と思うので主人公に共感出来ず。サワ先輩は相変わらず素敵でした。
「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」は、そこに至るまでの心情は分かりますが、『何者』での瑞月さんを知っているので、「あー……」という感じになりました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ最近は「思想と信仰」などをテーマとして読み漁っていたので、推し活と宗教の類似性が語られていそうだな?というところからこの本にも興味を持った。
冒頭から『今後還ってくるのは、これまでやってきたことよりも、これまでやってこなかったことのほうなのかもしれない』とあって、推し活の話って聞いてたのに不意に世代的な急所を刺された気がして動悸がした。
ストーリーとしては3人の視点人物で進む。ファンダムを仕掛ける側に入っていく久保田慶彦、その娘でファンダムに嵌まっていく大学生の武藤澄香、非正規雇用で推し活中の隅川絢子。
久保田は「娘と同い年のプロデュース対象のメンバーと友達になる」という物語に呑み込まれて行く。武藤澄香が推し活にはまっていく様子、隅川絢子が陰謀論に巻き込まれていく様子、を戦々恐々としながら読み進めた。
武藤澄香と隅川絢子を「すみちゃん」という愛称で重ねて、終盤の「すみちゃん」の章はどちらとも読める書き方をされている。お互いがお互いを「過去の自分」と認識する流れもお見事。
振り返った「ちゃみする」を見て、久保田はどう思うのだろう。
全編に渡って「インスタント味噌汁」や「味噌玉」など「みそ」がよく登場し、隅川の章で『ただなぜか、三つ目の白い茶碗の味噌玉だけ、溶けるペースが遅い』のところで「脳みそ」に掛かっていることがわかってくる。
『だからもう何をするにも、自分はこうやって間違うって腹決めて脳みそ溶かして動くしかないんですよね』(p440)
国見が話す内容がどれも肯けるようなもので怖い。
推し活の中で情報共有をしていくうちに同調や連帯が生まれる。情報は感情に変換され、感情は物語に化けて拡散される。ファンダムもそれ以外も情報はみんな同じなのに、そこから受け取る感情と、その感情から生まれる物語がそれぞれ違う。
『神がいないこの国で人を操るには、"物語"を使うのが一番いいんですよ』
「皆、自分を余らせたくないんですよ」から「一度何かを"幸せだ"と認識させたのなら、最後まで自分を使い切らせてあげないといけないんです」までの辺りはなるほどなと思う反面、読んでいて苦しい。
「演出された物語」に同調・連帯してファンダム含めた推し活にのめり込み、どんどん自分を使い込んでいく。そこで、推しの身になにかが起こるなどして自分のリソースを使い切ることが叶わなくなると、余らせてしまった自分のリソースの使い道を探す中で、怪しいスピリチュアルや陰謀論のようなものにも引っ掛かりやすくなるということか。