佐々木譲のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
警察小説+法定小説+少し恋愛小説といったところか。
約束した女性が現れず、焦慮に駆られる男の場面は、恋愛小説の如く。
一転、一人暮らしの老人が絞殺死体で発見される場面になり刑事たちが地道な捜査を続ける警察小説。
やがて浮上した容疑者の逮捕、そして起訴。
ここからは法廷小説。法廷での弁護士と検事の丁々発止が続く。容疑者は、約束を違えた女性なのか、そして彼女は犯人なのか。男は悶々としながら、法廷に通う。
公判前整理手続きから詳細に記す冗長ともいえる法廷場面(一部の読者には不評のようだが)は、リアルさを追求する著者ならでは。本領発揮と言っていいだろう。裁判所に行って傍聴せずとも、法廷の雰囲気を味わう -
Posted by ブクログ
道警の大異動により札幌から十勝の志茂別駐在所に赴任した川久保篤巡査部長が活躍する連作小説。
駐在所の警官なので基本的に捜査権はないが、この田舎町で起きる事件に川久保の推理が冴え渡る。赴任当初の姿から徐々に日を経るごとに、この田舎町が抱える大きな闇へと踏み込んでいく川久保の姿が鮮やかに描かれている。非常に読み応えのある連作集。
表紙が寒さ厳しい真冬の十勝平野で孤軍奮闘する姿を思わせるが、内容はどちらかというと夏~秋といった場面が多く意外な印象を受ける。
社会でも会社でもそうだが、閉鎖的な空間というのは闇を醸造しやすい環境なのかもしれないということをこの小説には教えられる。 -
Posted by ブクログ
【256冊目】バーのママに「佐々木譲先生の作品で一番おもしろい」と勧められて読んだ本。山本周五郎賞とってるのね。知らなかった。真珠湾攻撃に択捉島が関わっているとは知らなかったけど、それよりも佐々木先生の物語構成力と人間像の描き方に注目が行く。スペインと函館から始まった物語は、ニューヨーク、ハワイ、東京、そして択捉島へとダイナミックに場を移しながら展開していく。複数の人物を並行して描きながらも、物語の筋を読み失うことがない。良い意味できちんとまとまっている。こういうのが文章力というか、小説家の力なんだなぁと痛感。
それと、前半で出てくるセックスと後半で出てくるセックスの対比が良い。詳細に描いてい -
Posted by ブクログ
「警官の掟」
犬の掟の改題。
巨大な倉庫で起こる活劇シーンから始まる。それから七年後の十月初旬、東糀谷で暴力団員の深沢が殺された。蒲田署刑事課に異動してきた波多野は、同じ署へ異動してきた門司と七年ぶりに先輩後輩と言う間柄でコンビを組むことになった。二人は容疑者に浮上していた半グレ軍団に聞き込みを行う。
一方、警視庁捜査一課に異動した松本は、上司の綿引ととも管理官からある指令を受ける。二年前の暴力団員が殺害された事件と深沢の事件は関連性があり、警察関係者が関与している可能性があると言うのだ。さらにある市民団体に関与していた女医の飛び降り自殺やフィリピン人の死体遺棄事件との関連性も浮上し -
Posted by ブクログ
夫の友人からお借りしました。初めての作家さんです。
表向きは自警団や自治会でがっちり守られた平和な田舎町なのですが、実はそのせいで犯罪の温床となってしまっている、コワイ町のお話でした。
次第に明らかになってゆく田舎ならではの歪んだ倫理観や正義感がだんだん恐ろしく感じられ、最後の章は特に面白かったです。
また、捜査の主導権を握ることはないけれど、立場をわきまえたうえで警察官としての職務を実直にこなしてゆく主人公の姿には好感が持てたので、これからも彼が本当の意味で町の治安向上に貢献し続けくれる希望が持てて、読後感もよかったです!
本作は連作短編だったので、今度は著者の長編作品を読んでみたいと -
Posted by ブクログ
ヨーロッパ戦線、ナチス優勢の頃パリ在住の異邦人が、友達のレジスタンスを庇った疑いでドイツに連行され、ベルリン侵攻に乗じてストックホルムに辿り着き、彼の地の駐在武官、そこに出入りするユダヤ系ポーランド人と親交を深める。一方、同じく前線での敗北により急速に敗色濃厚となりつつある日本にも早期の終戦を模索する帝国海軍の一団があり、終戦に向けた研究を内密に進めていた。ドイツが敗戦し、東方戦線から圧迫していたソビエト軍は、ヤルタ会談以降日ソ不可侵条約破棄のタイミングを計りながら、軍を極東地域に移動させつつあり、戦後を有利に計りたい英米は、早期かつ日本に本土決戦を諦めさせるため、原子爆弾の使用を検討していた