桜庭一樹のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
『読まれる覚悟』は、「本を書くこと」ではなく、「本が読まれ始めてから何が起こるのか」を描いた一冊だった。
印象に残ったのは、作品が世に出ると、作者だけでなく読者や批評家、ファンまで含めた関係性が生まれるということだ。人は作品をそのまま読むのではなく、自分の経験や知識を通して意味を再構成するため、誤読はある程度避けられない。一方で、批評を書く立場には、その評価に至った根拠を示す責任があり、批評そのものも読者から評価される時代になってきていることは健全な変化だと感じた。
また、ファンダムは作品を支え、作者を応援する大きな力になる一方で、過熱すると作者を神格化したり、人格への攻撃につながったりする危うさも持っていることが印象的だった。作者が解釈を固定しすぎない姿勢は、読者が自由に作品と向き合う余地を守ることにもつながるのだと思う。
本書を読んでいて一貫して感じたのは、「評価とは何か」「健全な議論とは何か」という問いだった。作品だけでなく批評にも責任があり、間違いがあれば認めて修正できる文化の方が、知識や議論は前に進む。アップデートとは新しい知識を増やすことだけではなく、自分の誤りを理解し、考えを修正することでもあるという言葉は特に印象に残った。
SNSの普及によって、作者・読者・批評家・ファンの距離は以前より近くなった。その中で、作品と作者をどう切り分けるか、評価と人格攻撃をどう区別するか、発信や批評にどのような責任を持つべきかを考えさせられる一冊だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレわたしは海無し県の田舎で育ったから、この物語の舞台の日本海に面した田舎町はなんだかファンタジーのような遠い世界にも思えて、海野藻屑の嘘ばっかりの話も何だか受け入れられてしまうような不思議な力がある文章だった。
登場人物みんな一般の感覚とはだいぶズレているように思えた。田舎町にありがちな閉ざされた空間の中で狂ってしまった価値観がそのままテクストにも通用しているようだった。「実弾」を求める主人公の「あたし」の視点もかなり偏っていて、引きこもりの兄を神と崇めるように扱うのは彼女なりの貧しい暮らしを生きぬく術なのだろう。読者である自分も兄を美形でインテリの、知識人として受け入れていたが、「あたし」の担任のセリフでその認識が見事にひっくり返される。外から見れば兄は親から自立できていない単なる引きこもりであり、「あたし」が兄を異常なほどまでに崇拝していたと気づく。担任の先生は、花名山が校長室で絞られ、野球部からの退部を言い渡された後に「これで髪が伸ばせるな」と声をかけてしまうような無神経な人間として描かれるが、その一方で教師としての理想を持ち、「あたし」や藻屑を貧困や虐待から救おうと、「あたし」の視点からは語られていない部分で奔走していたのかもしれないことが終盤で分かる。藻屑を救えなかった担任の流す涙は、教育者としての責任というよりもむしろ海沿いの閉鎖的な田舎町に暮らす一般的な大人の無力さを感じた。
海野藻屑の嘘ばかりのセリフ、「砂糖菓子の弾丸」は、最初こそ異質だが、短い物語が進んでいくにつれてどんどん悲しみを、切実さを帯びていく。愛する父を、そして自分を守るために彼女がついた嘘も全て許せてしまうようになる。本を読み終わったあとも、彼女の放つ砂糖菓子の弾丸を欲してしまう自分がいることに気づく。 -
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ネタバレ家族愛の話だと思った。歪み切ってはいるけれど……。ただの禁忌的な愛の話では終わらせない、受け入れざるを得ない説得力のある語りと設定の生々しさ。
淳悟も花も、自分に欠けていた血の繋がりのある家族愛を求めすぎた結果なのかなと思った。
淳悟は花に母の面影を重ねているというよりは母の血そのものを求めていると思った。亡くなった母の血が流れているのは、自分と、花だけだから。
6章で、花以外の家族が抱き合って津波に飲み込まれるシーンが1番残酷だった。一緒に死ねない自分だけが本当の家族じゃないとまざまざと分からせられる無慈悲で残酷な描写はこれ以上に無い。ここまで読んできた花の歪んだ感覚全てが、このシーンだけで説明がつくほどの説得力がある。
とはいえ終始グロテスクであり登場人物の誰にも共感は出来ないが、何故か登場人物たちの言動の一つ一つが腑に落ちる。良いものを読んだな、という清々しささえ感じる読後感。 -
Posted by ブクログ
目次
・仔馬のパズル
・花降る亡霊
・夏から遠ざかる列車
・怪人の夏
・絵から出てきた娘
・初恋
長編と長編の間を埋める短編集。
今回は、二人が出会ってはじめての夏休みに起きた出来事を。
フェアにミステリを書こうと思うと、ヒントや伏線が隠しきれなくて難易度が下がるか、ヒントや伏線が生かされずに難易度が上がることが多いけれど、この作品集はどちらかというと前者。
でもまあ、ミステリ小説とはいえ、この作品のメインはキャラクター小説だろうから、これはこれでいいのだ。
一弥の姉や二人の兄たちも、愉快なキャラであることがわかったし。
セシル先生がなぜ学園のOGだった(つまり貴族だった)のに、教師なんかをしているのかの理由が明らかになって、ちょっとすっきり。
まあ、そんなところだと思ってたけど。
そしてセシル先生と寮母さんの、若かりし頃の友情の話である『夏から遠ざかる列車』も、ちょっとコミカルな切なさがあって良作。
恋愛小説は苦手だけれど、不器用な初恋が可愛らしい『怪人の夏』と『初恋』がお気に入り。
どちらも妙に鈍いお嬢さんと、けなげにも奥ゆかしすぎる男性の組み合わせ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ今までは一冊ごとに違う事件で、通底するストーリーはあるものの、巻を置いたときにはそれなりに満足感があったものだ。
しかし今回は、連続殺人事件の途中、しかも自己紹介の目に3人目が殺されたっぽい。
え?え?
めっちゃ気になるじゃん。
朝から校内でヴィクトリカを探す一弥。
ヴィクトリカは父親の意向で、リトアニアにある修道院へ拉致され、幽閉されたのだと先生から聞かされた。
傷心の一週間後、ヴィクトリカの兄から、彼女が何も食べずに徐々に衰弱していると聞かされ、一弥はヴィクトリカを連れ戻しに出かける。
今回は一弥もヴィクトリカも、自分の気持ちに自覚的だ。
しかし修道院はいかにも怪しいし、含みのある登場人物たちは剣呑だし、ラブコメとはちょっと遠い舞台設定での、ストレートで幼い愛情表現がほほえましい。
ともあれ続きがめっちゃ気になる。
殺されたのは誰で、なぜ殺されねばならないのか?
ちょっと味方かなと思ってたんだよね。
だから余計に、気になる。