岸本佐知子のレビュー一覧
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暫く前から、マグリットの≪マック・セネットの想い出に≫が表紙になっているこの本が気になっていた。
51篇の短編が詰め込まれているこの本の最初の物語の冒頭はこうだ。
---十二人の女が住む街に、十三人目の女がいた。---『十三人めの女』より
この不可思議な矛盾はルネ・マグリットが何枚も描いた≪光の帝国≫にみられる 昼間の晴天の真下の夜と似ている。
51篇の作品の中には、30ページ近くの長いものからたったニ行のものもある。
寓話的なものやマグリットのような一見自然にみえるがよく読むと矛盾を孕んでいるというような文章や順番をふられたもの同じ名詞や動詞を多用するもの さまざまなパターンの散文が散りばめられている。
作者のリディア・デイヴィスは1947年生まれのアメリカ人。
大学卒業後はアイルランドやフランスで暮らし、現在はニューヨークで教鞭をとっている。
プルーストの『失われた時を求めて』の第一巻の『スワン家の方へ』の英訳は高い評価を受けたらしい。
本国では彼女の本は5冊出版されているが、日本でははじめての刊行となる。 -
Posted by ブクログ
これもまた奇書。
前半は空回りが激しいイタイ中年女性のひとりコメディ。
しかし、中盤以降物語の性質が一気にかわる。
本当に同じ主人公なんだろうか、同じ物語なんだろうかと不思議な感覚になる。
中学生が一気に大人になる様を見ているようだ。
孤独、親、妊娠と出産、子育て、そして死の物語なんだろうとは思う。
しかしこの物語に重みはなく、どこか軽薄なところが好みが分かれるところなんだろうか。
中盤、物語の転換場面で思わず、えっ、と声が出てしまったけれど、その他の部分で面白みはあまりないかもしれない。
その他、胡散臭いセラピーやら主人公が勤務する存在意義不明の財団(税金控除対策なんだろうけど)が米国都市部在住のアッパーミドルカルチャーっぽく笑いどころのはずが笑えない。
これでお金を稼げるのが信じられないけれどそれが米国のアッパーミドルという人たちなんだろう。
日本も同じような気もするが・・。 -
Posted by ブクログ
翻訳家である岸本佐知子の主に90年代のエッセイ。
岸本佐知子という翻訳家の名を初めて認識したのは恐らく高校時代のこと、それは例の『中二階』という奇妙な小説の存在を知ったのと同時であったと思う。しかしそのときは、『中二階』も彼女の他の翻訳も手に取ることはなかった。その後、大学生となった2000年代初め、朝日新聞の「ベストセラー快読」という書評コーナーで初めて彼女の文章を読むようになった。それ以外にも、確か白水社だったか筑摩書房だったかが出していた出版情報誌に連載されていたエッセイなどにも目を通していた。
当時と云えば、小泉政権下、人の生を「勝ち/負け」という思慮の陰翳を欠いた暴力的な記号で序列化可能なほどに平板化してしまえると浅ましくも思い上がった即物的な(無)価値観に社会それ自体が同一化し始めていた頃、そんな卑しい世相を軽妙なユーモアと皮肉とで茶化してくれていたのがこの岸本佐知子の書評だった。私は毎週その文章に大いに笑いながら、彼女のいつも的確な標的を選定してくるセンスと毒気を笑いに包むユーモアとのおかげで、なんとか当該の社会の中で正気を保てているように感じていた。そのくらいに、当時の私は社会というものによって精神的に参っていた。だからいまでも、彼女の感性は信じられるものだと、どこかで思っている節がある。
そんな彼女の文章を書籍で読むのはこれが初めてだった。ただし冒頭の「空即是色」を読むのは二度目で、一度目がどの媒体だったのかははっきりと覚えてはいないが、やはり何度読んでも面白い。
今度ようやく『中二階』を読んでみようと思っている。朝日新聞の「ベストセラー快読」は、どこかで書籍化されているのだろうか。もしそうなら読んでみたいし、もしそうでないならどこかから出版されることを期待している。