西條奈加のレビュー一覧
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ネタバレ表の顔と裏の顔。二つの顔を巧い具合に使い分ける江戸は長屋の人情もの。
すりに泥棒に美人局に文書偽造、と揃いも揃って裏稼業持ちの住人たちの中に、ひょんなことからお人好しの正真正銘"善人"が紛れ込んだことから様々な騒動を巻き起こす。
唯一の"善人"加助は長屋にとって福の神なのか、はたまた貧乏神なのか、悪事を止めるストッパーなのか。
根っからの"善人"ってのはほんと始末に負えない。タイミングも容量も悪く、真面目で思い込んだら一直線。巻き込まれた方は溜まったもんじゃない。また間違ってないだけに文句も言いにくい。
悪人ぶってる住人たちも、ナンダカンダ文句を言いつつもすっかり加助のペースに振り回され、いつの間にやら善いことをする羽目に…というより、やっぱりみんな根は善人。表の人以上にしがらみや義理人情に厚い。だからこその"善人"長屋なのだ。
江戸っ子らしいテンポの良さと胸アツの人情もの。やっぱり江戸の長屋物語は面白い。 -
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業突く張りの金貸婆さんと、その金を狙うヤクザ出身の主人公浅吉が頭を振り絞って貸金を増やす話しと思ったら深い訳があった。徐々に出自が明かされ、庄屋の息子だったのだが、家を出てやさぐれる。算術師の師匠に出会い、無理矢理お供ににさせられるが算術にも目覚める。得意の算術で借金苦に喘ぐお客を助け、お客を増やす。
なぜこんなに増やしても金貸し婆さんのお金がないのか不思議に思い、お婆さんが実は良い人で施しをしていたとか勝手に想像したが、違っていたようだ。
スリや置引きをしていた子供達を更生させるために浅吉仕事を融通したが、これが足を引っ張り犯罪者に。
助けられた人々の支援や、一緒に育てた烏達の助けもあったりと、なかなか上がったり下がったりが続く。
最後に浅吉が金を欲しがる理由が明かされるが、「えー」と驚く内容。全てが丸く収まるわけでも無いが、ホッとさせられる終わり方だった。 -
Posted by ブクログ
思わず惚れ惚れしてしまう作品というべきか。いい小説を読んだなあ、としみじみと振り返ることのできる温かく爽やかな時代小説です。
ヒロインとなるのは飾り職の老舗「椋屋」の娘・お凛。若いながらも椋屋をおかみさんのように切り盛りしていたお凜は、次代の椋屋主人を決めるよう託されます。そして椋屋に先代口利きの新たな職人がやってくるのですが、これがなかなかのくせ者で……
とにかく人物描写が巧み。女性ながら細工に幼いころから情熱を注ぎ、一方で女性ゆえ男社会である職人の世界では自らの腕を発揮する機会のないお凛。そんな彼女の葛藤とそれでも断ち切れない細工への思い。そうした複雑な感情を巧みに描きます。
そして後継者争いのさなか椋屋に現れた謎の職人・時蔵。技術こそ間違いはないものの、性格に難ありで椋屋の職人たちの間には徐々に亀裂が入り始める。
椋屋をまとめなければいけないという責任のもと、時蔵に振り回されながらも奔走するお凛。一方でその卓越した技術や謎めいた人間性に徐々にお凜は惹かれ始める。
この恋愛感情の初々しさやみずみずしさも読んでいて非常によかった!
お凛以外の登場人物もそれぞれがとても人間味があって生き生きしています。お凜の友人であるお千賀との信頼関係と友情も心が温かくなる。職人たちであったりお凜の仕事相手や仲のいい同心であったり、それぞれに思いや葛藤というものが描かれていて、そして見せ場がある。それが小説の中身をより強固にしていく。
天保の改革により芸術品がぜいたく品として取り締まられ窮地に立たされる椋屋。そこを乗り越えようとする職人たちの矜持!
小説の一番の魅力としてあるのは、やはりお凛の懸命さによるものと思います。後継者問題。職人たちの派閥争い。改革による仕事への締め付け。そして自分の細工の腕が認められることの喜びと挫折。女職人としての孤独。そして恋心。
様々なトラブルに対しお凜は懸命に真っ直ぐに挑む。NHKの朝ドラのようなヒロインの爽やかさと一生懸命さにまず共感し、そしてお凛以外の魅力的な登場人物たちにも心つかまれ、権力や社会の規範と対峙し職人としての矜持を貫く姿に思わず心打たれる。
時代小説らしい人情と矜持を真っ直ぐに描いた、心に爽やかな風が吹く見事な一作でした!