遠藤周作のレビュー一覧
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遠藤周作さん著「悲しみの歌」
「海と毒薬」の続編に当たる作品。主軸であった勝呂医師の30年後が描かれている物語になる。
研修医として生体解剖に携わってしまった過去のある勝呂は、罪という意識とは少し違う罰を自身に課せているように感じた。
彼はどちらかというと自分自身に失望しているように感じる。
彼自身が凄く人間らしすぎて、医師として人として、局面局面で選択せざるをえないその数多は、どの道を通っても誰もが納得できるものではないものばかり。
その中の一つは生体解剖という間違えでもあった、過ちの中でも最悪のもの。
そんな彼が辿る道は…
勝呂のその後の歩みは常に孤独感で溢れていて、まるで社会から隔絶されているような感じで切なすぎた。
今現在の感覚では、彼が「海と毒薬」での生体解剖を断らなかった行為は「PTSD」による自棄に近いものだと思える。だけど当時その精神状態には誰もが低認識だったろうから、彼の精神を更にもっと追い詰めたに違いない。
度々作中に出てくるが勝呂が町医者になりたかったという描写。人々に声をかけては勇気づけて、声をかけられては笑って談笑し、自転車に乗って各々の家へと診察に周るという小さな町医者としての理想が描かれる度に胸が苦しくなる。
そういう医者になりたかったろうに…
違った医者としての人生があったろうに…
眼で文字を追っているのにも関わらず、悲しみの歌が自分の耳にも聞こえてくるようだった。
勝呂の最期は自死という結末だったが、ある意味ではこれは贖罪のようでもありながら開放のような結末にも感じられた。
人として、医者として、
「何が正解で何が不正解なのだろうか?
誰がそれを裁けるのだろうか?」
作中あったこの言葉には深い意味合いを感じてしまう。
冷罵、誹謗、嘲笑、みな真相を知らずに…
みなが勝呂を責め立てた。
その責め立てた人達はみな自分に甘く、他人に厳しい人ばかり。
偽善の上に成り立っているだけの正義を振りかざすエゴイズム全開の暴力に感じる。
自分自身を客観視できないだけならまだしも、人を攻撃する事に何の抵抗も持たずによく言えたものだ。
人として未熟すぎる、外見だけで作られている中身の薄い人々に感じられた。
逆に勝呂はそういう意味では自分という人間を客観視できていたのだろう。彼に同情を強く覚えてしまった。
悲しい物語だった。
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第二次世界大戦中の1945年に、福岡県福岡市の九州帝国大学(現九州大学)医学部の解剖実習室で、アメリカ軍捕虜8人に生体解剖(被験者が生存状態での解剖)が施術された事件を元に書かれた小説。解剖実験に疑問を抱く勝呂、逆に全く疑問も良心の呵責もない戸田という2人の研究生を軸に話が進む。
戦時中の人体実験が、731部隊以外にも国内で行われていた事実にまず驚いた。
異常な状況下において正常であろうとする者、自分が異常であると認識しつつも正常にはなれないジレンマに苦しむ者、異常であることに気付いてすらいない者、様々な人間の心模様が交錯する。戦後80年の節目に読めて良かった。 -
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この人の小説を初めて読んだ。568ページに及ぶ、第二次大戦の頃の長崎を中心に展開する物語。リアルな描写と登場人物たちの強い想いや激しい葛藤が伝わってきて、夢中になって読んだ。
自身もキリスト教信者だった作者の戦中の想いも色濃く投影されているようだ。戦時下で押しつぶされる個人の幸福や信仰心。アウシュビッツでの描写は、この世のありったけの地獄が描かれる。そしてその地獄の中でわずかに芽生える信仰心と人の良心と激しい葛藤。極限状態での人間の姿が刺さってくる。同時に、同調圧力を振りかざしてくる人間の姿もあり、それはコロナ禍で露わになった現代にも繋がるものを感じさせる。
戦争で引き裂かれる純愛。昨今でも扱われるテーマではあるが、まだ「戦後」が今より身近だった時代の作品で非常に重みと深みがあった。「二部」とあるように、本作で度々登場する主人公の祖母の従姉妹が主人公の一部も読んでみたい。 -
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子供の頃、一人の偉人にスポットを当てた学習まんがをよく読んでいた。マリー・アントワネットもその内の一人だった。小学館のもので、ネットで調べると未だに出てくる。子供の読み物では、主人公を肯定した一面的な描かれ方をする。これは子供が読むことを想定して矛盾を生じさせないように、一貫性を持たせるということなのだろう。しかし、そんな常に善に向かって生きている人間はいないし、何よりつまらない。
今回この遠藤周作の描くマリー・アントワネット及びマリー・アントワネットを取り巻く人物がいわゆる革命前夜にどう蠢いていたのかを、関係性を持たせながら描いており、完全な善悪を区別出来ないところが非常に面白い。主人公マリー・アントワネットは可憐でどこまでも無邪気である。その無邪気さは、言い換えれば鈍感さになってしまう。浪費に浪費を重ねる王宮周辺が日常の世界であって、今日の食にも困窮している民衆に気付かない。無垢なる罪はやがて……
大人になり、自分なりの物事の物差しを用意できるようにならないとこういった物語には手を出してはいけないのか?何せ義務教育には道徳の授業があるから。要は教育しやすくする為の装置として機能させているというだけ?世の中そうも言ってられなくないかね。 -
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海外で出会う外国人との考え方や感じ方の違いに、戸惑ったり誤解したりされること。伝わらなくてまあいっかって説明するのを途中で諦めたりすること。共感する人が多いと思う。
異国でつるむ日本人のコミュニティも、けっこう複雑な心理がからんでいて、そこもうまく表現されている。わかるー。
日本に来ている外国人旅行客を見て、戸惑いを感じたり孤独に感じたりしていないか、ちゃんと旅行を楽しんでるのかなといつも考えてしまう。
それは、この作品に出てくる登場人物と同じように過去に自分が留学で孤独を感じた経験があるからだ。病気まではしなかったけど。
見ていると日本にいる外人はすごく楽しんでそうに見えて安心する。
時代が違うから今ならスマホで調べたらわかるし、昔に比べてそこまで戸惑うことが少ないかもしれない。
遠藤さんの作品において特徴的な日本人的キリスト教も散りばめられていて、癒された。 -
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正確には「作家の」日記ではない。フランスでの2年半の思索と模索の記録。研究者か小説家か評論家か、道はまだ定まっていない。
場所はルーアン、リヨン、そして時々パリと田舎の町や村。部屋には師や友人たちがよく訪ねてくるし、お茶や食事にも頻繁に招かれ、忙しい毎日。しかし本務は勉強と研究、心は時に静謐、孤独な修行僧のよう。持ち前のおどけや冗談は一切感じられない。モーリアック、ベルナノス、ジッド、クローデル、サルトル、ボーヴォワール、カミュ、マルロー、フォークナー……興味の赴くままに読み耽り、真摯にものごとを考える遠藤青年がいる
日記には、天気や風景の描写もあり、その時の空気や日差しも感じられる。どこか朝永振一郎の『滞独日記』を思わせる。
巻末の高山鉄男の解説がいい。日記そのものには踏み込まずに、この留学で遠藤がなにを手にしたのかをきっちり論じている。 -
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戦争文学の面白さが詰まった作品
共テ演習とか二次国語で扱われる小説の中でも戦争文学は群を抜いて自分を引き込むものがある。日本史選択で戦争へ向かっていく日本をマクロ的な視点でしか勉強していないせいでミクロ的な視点でその時代に生きる人々の生活文化を知ることは難しいが、戦争文学はそれを媒介してくれる。
この作品は実際の事件を取り扱っている。勝呂は冒頭では面白みもない貧しい町医者として描かれているが、医学生時代を中心に書いた物語の中盤以降では自分にとって彼が人情深い人物に映った。
彼の心を変えたのが生体解剖事件に関与したことであることは確実。
遠藤周作について。
名前しか知らないが、本をほとんど読まない自分にとって名前がわかるということは明らかに有名人。
読んでいて引き込まれるというより、臨場感が素晴らしいし、あちらこちらに心情とか時代を理解する手助けになる描写が散りばめらている。
中でも自分の中でも唸ったものが一つ。
海の波の描写。
戦時中の大学病院で研鑽を積んでいくにつれて、彼の中にある医学の在り方が変わっていく。戦争も形勢が悪くなっていく。医学部内の対立も深まっていく。それにつれて海の波は押し寄せるように感じる。
Surge という英単語がもっとも説明がきくだろうか。
医学部に進学する人、人と接する仕事をする人には、人を世話をすることとはどういうことかを捉え直す良い機会になると思うので手に取って読んでみるべき。 -
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面白かった!
恥ずかしながら高校卒業以来世界史には触れず、マリーアントワネットの名前は知っているくらいの知識レベルでしたが、それ故楽しむ事も出来た作品でした。情景を思い描きながらするすると読み進める事が出来ます。
豪華絢爛な王室の様子と対比のように描かれる民衆の暮らし、刻一刻と広がっていく革命の声。。下巻でどのように更に書き進められていくのかが楽しみです。
ちなみに、1番印象的だったのは最初の情景、マリーアントワネットがオーストリアからフランスに来たばかりの様子ですね。まだ政治的な話がそこまで介入しておらず、ひたすらに彼女の可憐な動作や周囲からの印象などが描かれており、自分自身も息を呑む民衆の1人になったかのような感覚になりました。