遠藤周作のレビュー一覧

  • 新装版 わたしが・棄てた・女
    ミツは愚鈍で教養もなく、美しくもないけれど
    心の優しさ、暖かさ、弱い他者への共感する力を誰にも教わることなく持っていた。
    自分もそれを理想として生きているけれど、そうなりきれることもなく打算やエゴイズムで世渡りしてきたこともあり、その経験、記憶を消し去ることはできない。
    私は神や特定の宗教を信じる者...続きを読む
  • 海と毒薬
    物語の構成がうまく、世界に引き込まれ一気に読んでしまった。特に、第二章の解剖事件に関わった看護婦・戸田の手記は、彼らの思考や生い立ちの描写が濃厚で、没入してしまうほど。(個人的には同じ女性として、看護婦の壮絶な過去には胸を痛めるものがあった)
    事件自体の描写や物語の雰囲気は、想像していた過激さや生々...続きを読む
  • 悲しみの歌(新潮文庫)
    一貫して哀しみの歌がこの小説には流れている。

    奉仕の心が大切なのは間違いないが、それが実際に他人への救いとなることがいかに困難かを知らされる。

    救われることへの諦念に僕は息を止めたくなった。
  • おバカさん
    教授からのおすすめ本。
    どこまでも優しく誠実な外国人ガストンさんが日本にやってきてとある目的のために暮らす話
    思ったよりシリアスな展開で進むなかで要所要所に昭和感を感じました。
    個人的には比喩が大好きな作品!!!
    書かれた年代で雰囲気が変わるのも読書の醍醐味ですね~
  • 沈黙
    ロドリゴ司祭と井上筑後守が交わした会話の中で、井上は日本という男は異国の女性ではなく、気心の知れた日本の女と結ばれるのが最上だとし、彼らの布教活動を「醜女の深情け」と揶揄していた。異国の女性は教会のことで、日本の女性は仏教・神道のことであると思うが、井上はまた、情だけで夫婦は成り立たないとしていて、...続きを読む
  • 深い河 新装版
    河は今日まであまたの人間の死を包みながら、それを次の世に運んだように、川原に腰かけた男の人生の声も運んでいった。

    死生観と宗教
  • 沈黙
    信じるってなんだろう。

    何十回何百回と使ってきた言葉のはずなのに、
    一気に輪郭がぼやけて見えなくなりました。

    「愛する」とか「守る」とかなら実感を以ってして意味が掴める気がします。なのに「信じる」は分かりそうでよく分かりません。

    一般的な「あなたのことを信じる」というような文脈の「信じる」と宗...続きを読む
  • 海と毒薬
    実在する事件を材にとってるだけあってとても読みやすい。章立ても視点ごとに変わっており、登場人物それぞれの「心の呵責」がよく読み取れる。
    テーマは暗いのに、なぜか暗く重たい感じがしないと思った。
    「私」を用いた導入、海の使い方、占領地でのこと、戦争、医学、故意の殺しとそうでない殺し、そして神。
    新潮解...続きを読む
  • 新装版 海と毒薬
    個々人の内なる価値判断基準、神の存在、または良心とも言われるものから行動をおこすこと。このアンチテーゼをひたすら描写したのだと思う。
    あくまで組織内部の人間関係や、異性関係やなどを前提とした行動とはどのようなものかを描写したのだと思う。
    なぜ日本が太平洋戦争を引き起こし、敗戦したのか、ということにも...続きを読む
  • 海と毒薬
    戦時下、貧困、キャリアの挫折といった特殊な状況下で行われた生体解剖。
    特に戦時下という状況は当然医師だけでなく、都心郊外に住むガソリンスタンドの主人や洋服屋の亭主も人の命を奪ってる。
    命に対する価値観が揺らぐ状況で行われた実験。

    戸田の言葉がとても印象的で、「彼らの恐怖は世間や社会の罰に対してだけ...続きを読む
  • 沈黙
     難しい作品だった。面白かったが、容易ならざる問題作だ。成る程これは評価の悩ましい作品だと納得した。

     発表当初、之を禁書に指定する教会まであったそうだ。こんなものは基督教ではない、遠藤教だと物議を醸したとも。批判の内容に就いては兎も角、なかなか面白い表現ではある。言い得て妙だ。


     基督教に就...続きを読む
  • 海と毒薬
    戦時下における生体解剖を題材にした小説。医大と軍部という狭い空間における、登場人物の様々な心理、葛藤を描いており、医大の権力争いの中、その過程において、生体解剖を行うにあたっての様々な心情、生体解剖後、罪の意識はあると思うが罰せられる事を恐れ、自らの行為を正当化するよう自身に言い聞かせ、口外されぬよ...続きを読む
  • 満潮の時刻
    著者自らの闘病生活をそのまま綴ったかのような内容。主人公の明石が入院中に見た「あの目」が彼に訴えようとしていたのは人生の本質とも思われるそれ。「人生」と「生活」、その両方を行き来する時に人は何を見るのか。
    きっと読む誰しもが「共感」を感じる一冊だと思います。とても満足でした。
  • 新装版 わたしが・棄てた・女
    大学生の吉岡は遊び目的で森田ミツを呼び出し交わって棄てる。
    その後の2人の人生が対照的で、読みながら幸せな人生はどちらなのかと考えさせられた。不器用に生きるミツは石鹸工場から職を転々とし、一般的には不幸な境遇だが人生を全うできた意味で幸せだったと言える。一方、吉岡は小さい幸せを得たが、いつまでもミツ...続きを読む
  • 深い河 新装版
    何かの喪失を抱え、インドの母なる河ガンジスにやってきた日本の旅行客たち。このガンジス河は死者にはじまり、どんな醜い人間もどんな汚れた人間もすべて拒まず受け入れ、そして流れていく。
    どの人間にも我々が知らない、知りようもない彼らのドラマがある。
    三條のような旅行客もまたリアルだった。

    愛・玉ねぎとか...続きを読む
  • 新装版 わたしが・棄てた・女
    素晴らしく、そして辛い気持ちになる本。エピソードは異なれどまるで自分の影がみえる吉岡の酷さや三浦マリ子の無邪気さよりも、ミツの、自分も決して恵まれてはいないのに、自分を差し置いてでも辛い人に自然に寄り添うことができる力に涙し、自分の中にある自己中なところ、優しさに欠くところを顧みてその情けなさ涙して...続きを読む
  • 深い河 新装版
    「愛」とは。

    生きていく上で誰しもが一度は考えるであろうこのテーマについて触れている本作。

    それは、一方においては教義であり、一方ではある種のぬくもりであり、救いであり、我々の病や苦しみを共に背負う女神であり、本作においてそれは玉ねぎであった。

    それについて正答はないし、答えらしきものは人の数...続きを読む
  • 深い河 新装版
    長年お世話になった本屋の閉店日に購入した本。
    インドのガンジス河に行く日本人観光客を中心とした物語。
    深い哀しみが存在する人生の終局を目前に、人は何を想い、求めるのか。
    古い作品でテーマは必然的に重いものの、読みにくさは無い。
    忙しい毎日を送る現代人に、一度立ち止まり、死生を考える機会を与える、印象...続きを読む
  • 深い河 新装版
    自分は作品から考え方の影響を受けやすいことがコンプレックスだったから、遠藤周作さんのような宗教心が強いような小説は避けてきた。
    なんとなく読んでみたら、まず思ったよりも読みやすくて、具体的で身近な神の概念に感心してしまった。具体的なストーリーからこんなにも抽象的な問いかけとして自分の心に入り込んでき...続きを読む
  • 海と毒薬
    登場人物全員病んでる
    最高

    私もどっちかっていうと戸田寄りの人間なので
    戸田に感情移入した結果
    彼が最後まで良心を見つけられなかった事に
    すごい揺さぶられた

    また読みたいけど
    古傷を抉られる感じがするから嫌かも
    でも絶対に手放したくない
    人間の闇をどんよりと描いてる

    おすすめです心から