遠藤周作のレビュー一覧
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海と毒薬、沈黙、同じ手から生み出される作品ではあるが、こちらは遠藤周作という人物の成長と人となりが垣間見れるエッセイ。
初期のものからというが、自分を投影するその言葉一つ一つはとても完成度が高く、空気まで運んでくるよう。
遠藤周作と言えばキリスト教。宗教じみていないキリストとの関係を書くエッセイもまた魅力。
過去に読んだ中でも取り上げられていた、テレーズでルケルーも登場して、お蔵入りした書棚が読まなければと思い出した。
遠藤周作の言葉から発せられると、とても興味深くその感覚を共感したくなってしまうから不思議。
このエッセイには遠藤周作の家族や、若き日の海外暮らしも知ることができ、小説家遠藤 -
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理想像として描かれる母の青春、醜く歪んだトシの青春、そして疑問や不安を抱えながらも、清く正しくあろうとする泰子の青春。
青春という浜辺で作るそれぞれの砂の城は波に攫われ消えてしまうけど、たしかにそこにあった。泰子の清らかさに眩しくなりながらも、私もそうありたい、と願う瞬間も幾度となく。
美しい言葉が多くある本だなという印象だった。
「夢みたものは ひとつの幸福 ねがったものは ひとつの愛」「負けちゃだめだよ うつくしいものは必ず消えないんだから」「美しいものと、けだかいものへの憧れは失わないでほしいの。」「人間がつくりだす善きことと、美しきことの結集」 -
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ネタバレ大岡昇平の野火を読んだ時にも思ったけど、自分がそういう場所に立たされたときに自分ならどうするんだろうが常に付き纏う。そして解説で「日本人とはいかなる人間か」っていう問いには、安易ではあるけど「同調圧力」「派閥」ってものに弱いんだなと感じてしまった。
上田ノブという看護婦さん、25歳で嫁き遅れと感じていて、この男でいいから子供がほしいと結婚する描写…戦後70年経っているのにこういう焦燥感みたいなものが今でも残る日本、やはり同調圧力みたいなものは相当根深いのでは?って思う。
そこからの上田さんの人生はたしかに哀しみが深いものだ…お腹の中で子供が死んで、自分がこれから子供を産めないってなったら、放っ -
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ネタバレ2作品共、神を信じない男が主人公で、性質も振る舞いも好ましくないのが印象的だった。裏切り者として「ユダ」のイメージが示唆され重ね合わせていく。
「白い人」は拷問者側の視点が描かれているのが興味深かった。誰も好き好んでやりたがらないと思っていたが、志願する中には加虐心のある者もいたのかもしれない。この役目を担うまでは芸術を愛していたかもしれない。病のため、使い捨てのように配属されたかもしれない。
今の日本人の日常からは想像のできない拷問という行為が、拷問者を描くことで想像できるものに変わり、すぐ近くに浮かび上がってくる。
主人公がこのような性質になった理由として、家庭での抑圧された教育があったこ -
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読後、あぁなんかすごい小説を読んでしまった…と感嘆の声が漏れた。話の構成もとてもよく、深い海に引きずり込まれる感覚で読んだ。
戦争末期、空襲でたくさん人が死んでゆく日常の、その時代を生きぬいた日本人にしかわからない殺伐とした空気。だが、この小説の問いらしきものには現代人の私も深く考えさせられる。
「世間や社会の罰に対する恐れはある。だが、自分の良心に対する恐れに苦しめられたことはあったのか?」
「ぼくらの中には、世間や社会の罰をしか知らぬ不気味な心がひそんでいるのではなかろうか?」
「この人達も結局、俺と同じやな。やがて罰せられる日が来ても、彼等の恐怖は世間や社会の罰にたいしてだけだ。自 -
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遠藤周作『沈黙』の初版本を半世紀前に読んで以来、遠藤周作のテーマにはずっと寄り添ってきたつもりでいたが、数年前、念願かなって、二泊三日ではあったが、長崎を訪れる機会に巡り合った時、私は、彼の地の切支丹の歴史はもちろん、「長崎」というものの本質的な姿、実体などもろもろ何も分かってはいなかったことを思い知らされた。唖然とするばかりだ。
この『女の一生』一部、キクの場合を熟読した後の今も、頭の中の混迷はますます深まるばかり。
とりあえず今、言えるのは、二部の「サチ子の場合」は、これを読んだ戦前戦中を生きた人々が物語の中に「あっ、サチ子は私自身だ」と感銘をもって共感できる典型を創造していったこ -
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『イエスの生涯』の前にこちらを読んでしまったがものすごく興味深く読ませていただいた。
日本人にとって、仏教よりもよほどとっつきにくいのがキリスト教、イスラム教だと思う。キリスト教について知りたいとは思うが、聖書はとても読めないなということできっかけとしてこちらの本を読んだ。
神格化される前の無力な人間であったイエスが、如何にして人類にとってここまでの大きな存在になったのか。人間の弱さ、悩み、もがき足掻く姿が遠藤さんの読みやすく飾らない文章で綴られている。
原始キリスト教団の群像劇として読んでも面白いです。
この本を読むと“沈黙”という言葉の重みがより解るのだなぁ。
キリスト教ってなんな -
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遠藤周作は「あとがき」にこう書いている。
「どんな人間にもその人生には書くに足る劇があるのは当然だが、我々世代の一人一人にはそういう意味で個々の劇のほかに共通したドラマがある。私はその共通したドラマを主人公サチ子の中に書いてみたかった。「あっ、これは、わたくしだ。わたくしと同じだ」 毎朝、私の新聞小説を読んでくださる主婦がそこに自分の似姿を見つけられたらなら、この小説は書き甲斐があったと言うべきであろう。」
市井の庶民一人一人の戦中体験が、実は、最も貴重な歴史そのものであるという認識が、作者の心の中を占めていた。
このようなサチ子を私が初めて知ったのは岡本喜八監督の映画「肉弾」の中で、大谷直子