あらすじ
仏留学生活を瑞々しく描いた著者デビュー作。
1950年、27歳の遠藤周作は文学研究のため、いち留学生としてフランスに渡る。
そこにはいまだ大戦の荒廃が色濃い日々の暮らしがあった。ナチスの残虐行為、肉欲、黒ミサ、サド、ジイド等々、ときに霧深いリヨンの街で、あるときは南仏の寂しい曠野で、人間の魂の暗部を擬視しながら綴った思索の足跡――。
愛とは、信仰とは? 本書は、戦後初の留学生として渡ったフランスでの学生生活について日本に書き送った原稿をまとめたエッセイ集であり、著者の原点ともいえるデビュー作である。
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Posted by ブクログ
遠藤周作さんのデビュー作にして恥ずかしながら自分にとっても初の氏の作品の出発点となる一冊となりました。
当書は戦後の1950年から53年の間の氏のフランス留学時代の手記から成っています。当時のフランスはドイツから受けた戦争の傷跡が生々しく、それがフランスの若者たちの心に影を落としている様子がこの書から伺えます。当時のコミュニズムに共感しながらシンパシーは完全には抱ききれない矛盾さを抱く若者たち。
また氏は、文学の諸作家の影を追って、フランス各地に赴き、その作家と生み出された作品の業について深く思索します。最後の編のアンドレ・ジイドとその妻の悲しい愛の在り方はジイド自身が妻を愛してはいるが、男色家であるが故の2人の愛の狭間の苦しみが周作氏の筆により描かれます。氏の諸作に根ざすキリスト教私観という氏の文学の核とした視座を持って、深く人間の魂の在り方の哀しさが深く描かれていて、デビュー作とは思えないほどの作品の有り様に感銘を受けた次第です。
またデビュー作で文体も完成されている素晴らしさも味わえました。自分にとって多くの氏の作品を読んでみたくなる一冊となりました。