遠藤周作のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
心にずしっと考えさせられる小説です。けれども非常に読みやすく引き込まれるようにして中に入っていけました。
純真でまっすぐしかし弱い面を持つ主人公”一平”はもちろん、その他の登場人物”加納””朋子””藤沢”の人間描写がとてもよく書けていると思いました。
そしてそれらの人物それぞれに人間の持つ悲しさのようなものが見え隠れしていて、私はとてもつらくなりました。
日本猿の生態の記述も非常に興味深いものです。
エンディングの風景描写も、頭の中でくっきり思い描ける素晴らしいものでした。
また遠藤周作氏のいい本に出会えて非常にありがたく思っています。 -
- カート
-
試し読み
-
Posted by ブクログ
ネタバレ神も悪魔も自分の中に存在する。
キチジローの言動は矛盾しているようで、その根底にあるものは一貫している。それは神を信仰しているということ。信じているから弱くいられる。
キチジローだけが、他の人のような自分で作り上げた神ではなく、本当の神を信仰できていたのかもしれない。彼がしているような、自分の想像を超える存在を信じるということは難しい。なぜなら自分の想像できないものは作り上げることすらできないから。キチジローは司祭を通して神を見ることができていたから、自分の想像に及ばない存在を心から信じられたのかなと思う。信仰は、1人では成り立たない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ圧巻。素晴らしすぎる。
戦争下という特殊な環境において、善良な市民がごく一般的に倫理観を壊していく様を見事に描ききっている。
文章は平易だが情景描写に重みがあり澱んだ空気が広がっている。特に流される海音を聞き、人間として流動的に流されていく、というメタファーは怖しい。
勝呂に主眼は置かれているものの、序盤の「私」の平凡な日常の描写、上田の女性的な嫉妬の描写、戸田の人間失格に通ずるような描写、その全てが人間の愚かさを表現していて没頭した。
アーレントの「凡庸な悪」を想起しながら読んだ。
しかしこのような倫理観の欠落という問題を、単に日本人の無宗教的価値観のみと結びつけて論ずることは短絡的だと思う