遠藤周作のレビュー一覧
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中年に入り、自分よりも親が先に逝くのだろうと思うけど、考えるのを避けられなくなってきた『死』について。
『老いる』すら(しばらくはいいか…忙しいし)と深く考えずに、『命の結末と向き合う』ことを先延ばしにしているのは、わたしもそう生きているなと思いました。
準備して置かなければ、いざその時にやってしまうかもしれない…それは、特に先輩の文豪たちをみてきた小説家の心に深く残ったことでしょう。
狐狸庵先生はクリスチャンですが、仏教にも造詣が深くて、キリスト教至高!みたいなところが好き。
しかし、キリスト教の「運命は神に委ね、罪は神に判断してもらい、人はそれを粛々と受け入れる」というのは相容れないで -
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あらすじを見て、読んでみたいと思った作品。
テーマは興味深いのだが、「導入」「起承転結」「終わり方」「題名」がそれぞれ別の方向を向いているような、長編なのにチグハグさを感じた一冊で、
一つ一つのものはとても興味を持てるのに、全てを線で繋げられていないような不安定さを感じた。
しかし遠藤周作自身が伝えようと思ったテーマはしっかりと書かれており、読み進めることで考えさせる本だったと思う。
チグハグさを感じたが、それは逆にいえば全てを集中して記憶するように読まなくても楽しめるということなので、病院内のことが多く明るくはない内容だが興味がある人は手に取ってもらいたい一冊。 -
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ネタバレ深い河
著者:遠藤周作
発行:2021年5月20日
講談社文庫(新装版)
1996年6月刊行の講談社文庫を改訂
初出:1993年6月、講談社より刊行
あるエッセイが読みたくて、ついでに数冊まとめて買った遠藤周作の古本も、これが最後の1冊。若い頃になんとも思わなかった作家が、妙に心に優しい。書いてあることは結構きびしく、人間の弱さや自己矛盾などをついているが、どうしてかそれが優しく響いてくる。文法的にはあまり正しい日本語とは言いづらいけど、とても読みやすく気持ちがよくなる文章にも惹きつけられる。人柄だろうか、文体だろうか。
解説によると、深い河は、著者が病気を抱えながら必死で書いた小説だと -
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歴史の教科書で知った「踏み絵」の裏に、こんな苦悩のストーリーが刻まれていたとは
江戸時代、キリシタン狩り真っ盛りの九州を舞台に、「神はいるのか」という禁断の問いを文学という形で昇華させた遠藤周作の代表作です。
キリスト教イエズス会の司祭であるロドリゴは、日本での布教に貢献した尊敬する恩師フェレイラが、弾圧により棄教したという伝聞が信じられず、真相をさぐるために同志と鎖国中の日本へ密航するも…というお話。江戸時代のキリスト教弾圧や島原の乱、隠れキリシタンへの糾弾、踏み絵などは学生時代の日本史で習いましたが、実際に司祭や隠れキリシタンたちがどのような仕打ちを受け、どのような心の動きがあったの -
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ネタバレ主人公をとりめぐる、冒険小説のようなハラハラ感。無惨な世界の中、神はなぜ「沈黙」を保っているのか。
以上のように、エンタメ性(失礼な表現かもしれませんが)と深遠な哲学が両立している文学は、読んでいて楽しい。
一方、個人的に気になった点もいくつかあった。
一貫したテーマである、「神の実在性」の答えは、どこへ行ったのか。
最後の最後で主人公が意味深な事を言っていたが、私の頭ではあまり理解出来なかった。
主人公が転んだ理由についても、明確な思想や哲学がが語られる訳ではない。
また、主人公が少し捉えられてからのテンポが悪い気がした。
ここでの心情描写や思想に本作の魅力があるのは分かるが、もう少し省 -
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神が運命をさだめるのではなく、運命から自由にしてくれるのが神だという考え、神は無力であれ、可能性さえ示してくれればそれで良いのだと感じた。
人間は善悪の外には立てない。
人によって罰と感じるものは違う。
ならば正義もみな形が違うのも当然で、
その混沌のなか、正しい倫理観を求められる。
私達はかなり難しいところにいるのではないか。
戦時中の命の重さ、同じでなくてはならない。
私はその中で今の価値観を貫けるのだろうか。
多く自分に問いかけながら読み進めた。
海が癒しから大きな不安にかわるその瞬間
恐ろしくて黒い黒い海が脳を絶えず侵食した。
見た事のない手術室の血を流すための
小さな川の流れを連 -
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ネタバレ海と毒薬
著者:遠藤周作
発行:1960年7月15日
(2004年6月5日 91刷)
新潮文庫
初出:1958年4月、文藝春秋新社より刊行
遠藤周作のエッセイを読みたくて、古本をまとめて購入。エッセイ2冊を読んだので、久し振りに小説。代表作が何冊もあるけど、この本はとくに有名なので読んだ人も多いかと。戦争末期に起きた九州大学医学部事件をもとに書かれている小説だけれど、事件小説やモデル小説など歴史小説的なものではない。軍部と九州のF市にある大学病院の教授や医局員たちが、計画的に行ったアメリカの捕虜達を生体解剖した事件について、あくまでフィクションで書かれたもの。したがって、関わった医師や軍部 -
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『海と毒薬』の続編です。
NSFMさんのレビューがきっかけでこの本を知り、ヒボさんに応援されながらこの本を読みました。お二人ともありがとうございました。
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戦後の日本の暗い部分にすっぽりと収まってひっそりと暮らす勝呂。戦犯として罪を償った後も医師を続けている彼は、フランス人のガストンから、ある老人の診察を頼まれます。癌の苦しみから老人を救うために勝呂が選択したことを、新聞記者の折戸は彼の過去と同様に追い詰めます。折戸の正義感は一種の暴力のよう -
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読者の私が高校生のときに、この本は絶対に読んでおくべき本だと言われた本です。当時の衝撃は、とてつもなくて言葉を失ったことを覚えています。少し前にNSFMさんのレビューを読んで、続編を読みたいと思いました。まずはこの本をもう一度読んでからと思い、再読しました。
新宿でひっそりと開業医をする勝呂。彼の過去へと話が進みます。戦時中、大学病院の研究生の時、空襲か病気でいずれ皆死ぬんだという希望のない日々を過ごします。そして彼が生かしたかった女性の死後、大学病院の勢力争いに巻き込まれ、アメリカの捕虜の生体実験に参加します···。
時代が起こした罪なのか、本当にそれだけなのか。平和な時代の感覚では考え -
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倫理観は、個人の中に生まれるものではなく、世間が作り出すものだと再認識した。それでも私は人が悪魔なのではなく、戦争が人を悪魔に変えてしまうだけと信じたい。
最初は利己的な戸田は純粋で不器用な勝呂のことを馬鹿にしてると思っていたが、生い立ちを知って見方が変わった。小説のセリフを用いるなら、勝呂にとってのおばちゃんのように、戸田にとっては勝呂が運命から自由にしてくれる神に見えていたんだと思う。それは、残された「良心」の部分であったに違いない。
後味の悪さが残る話だったが、読むことができてよかった。本書はあくまで創作なので「九州大学病院解剖事件」の経験者が書いた本も読み、もっと事実を確かめ