遠藤周作のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
「眠れぬ夜に読む本」はいつも私の傍にある。難しい言葉もなく理解できない不思議もなく、その世界を共有できるところにこの本の魅力がある。
眠れないときは何を考えるか、
1 生と死について考える
2 東京について考える
3 自分と他人と動物について考える
4 趣味と興味について考える
という目次に続いて、少し詳細に題名が並んでいる。
名作「沈黙」があるように、狐狸庵先生はキリスト教徒だったけれど、難しい宗教の話や、心理学や、医学の話ではない。
好奇心の赴くままに、過去や、現代や未来を考え、そこにあるべきもの、あったもの、出会うものなどを、ユーモアをこめて、語っている。
不思議な現象を科学に照らしてみたり、人とは何なのかと、遺伝学を紐解いたり、軽い話題の中でも、死後の世界を考えたりしている。
昼間には、生活があり、合理的で、実際的で、複雑な時間が繰り返されていく、だが周囲から離れて自分ひとりになった夜の思考は、混じりけのないむき出しの心と対面できる時でもある。
そんな時、生きていることや亡くなった人や、自然や、伝聞であっても不思議な現象や、気にかかっていながら訪ねたことのない土地への思いに浸ることが出来る。 -
Posted by ブクログ
ネタバレキリスト教信仰と、被曝地となった長崎、そしてアウシュビッツ。
第二次世界大戦の被害がとりわけ大きかったこの二つの土地が描かれている。
けれどこの作品は、戦争そのものを描いた小説ではなく、
タイトルの通り「女の一生」――
サチ子という一人の女性の生き様を描いた物語だったのだと、読み終えて強く感じた。
修平にとってキリスト教は、ただでさえ制約の多い戦時中において、さらに重たい枷となっていた。
教会でも「いたずら」をしてしまうような悪ガキだった修平にとってもやっぱりキリスト教の教えは心の指針だったのに、戦争によってそれが壊されていく...
その中で抱え続けた葛藤は計り知れず、同時に彼のまっすぐな心の持ち方があまりにも綺麗で、だからこそ苦しかった。
修平の最後の手紙には涙が止まらなかった。
「辛い世代」――本当にそれに尽きる。
どれほど多くの将来を夢見た若者たちが戦争によって命を奪われたのだろう。
戦争は絶対にダメ、なんて軽く言える言葉ではないけれど、それでもやっぱり絶対にダメなんだと思った。
素直になれない性格の修平が、戦争が進むにつれて立場上ますます本心を表せなくなっていく中で、
詩を通してだけはサチ子にまっすぐな気持ちを伝えられていたことが胸に残る。
詩を通じて心を通わせる二人のあまりにも純粋な愛に心を打たれた。
二人の記憶はすべて、サチ子の心の中のチョコレート箱に、永遠に大切にしまわれているのだろうな。
-
Posted by ブクログ
ガストンが『深い河』にも登場していて驚いた。
調べてみると、ガストンのモデルは、遠藤周作がフランス留学中にお世話になった神父だという。
また作中では、ガストンがキリストを象徴する存在として描かれていることもうかがえる。
人生は辛く、悲しいものというのがテーマ。
正義と悪だけで単純に割り切れるものではなく、それぞれに深い背景や過去がある。
ガストンはキリストのように、人と共に悲しむ存在であり、その姿勢は『沈黙』と通じる思想だと感じた。
作中の神父は信じた者だけが救われると語るが、ガストンと勝呂の関わりを見ていると、必ずしもそうではないように思える。
神を信じていない勝呂に対しても、ガストンは変わらず慈悲と愛を注いでいる。
ガストンはよく泣き、苦しみを抱えているにもかかわらず、人生は悲しいものではないと言う。
人が笑う、それだけでいいのだと。
暗く悲しい物語ではあるがその中には、神が人と共に悲しみ、寄り添う姿が確かに描かれていた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこんなに悲しい悲劇的な小説もないというほど悲しいが、文句のつけようのない面白さだった。
イエスという未知の大きな存在、それらに惑わされ翻弄される人々、想像もしていなかった世界に対する戸惑い、これらが全て余す事なく表現されており、続きが気になって仕方なかった。風景や船旅の描写もとても素晴らしく、どれだけ過酷で残酷であったのかが分かりやすく伝わった。大袈裟な表現は一切ない。あれが現実なんだと心から納得させられる、だからこそ辛い感情もたくさんあった。
この作品の登場人物達に何か共感する事などとてもおこがましく感じる。日本とは狭く小さな国だと自分たちが言うのと、当時の侍が言うのでは重みが違う。
うまく感想が書けないが、この作品は長く自分の心の中に残り続けるだろう。ぜひ大人に読んでほしい作品だ。 -
Posted by ブクログ
あくまでユダヤ教の一派、それも異端派として十字架にかけられたイエスはもういない。存命中に関わった人間と、人間としては関わりが無く信仰の対象として伝えられた人間とが発生する。見聞きしたか、聞いたかで神格化の度合いは異なってくる。発生発展展開の時代がやってきた。
キリスト教がヨーロッパを席巻した後にも、宗派の違いで異端にされたり、火刑にされたり、戦争になったりってあったよなというのを踏まえると、人それぞれがキリスト教の中から信じたいエッセンスだけ抽出して、形作って固めて唯一無二にするみたいなことになるんだなって、解釈の違いってやつ?
最初期にも解釈違いが起こってた上に、"総本山"が跡形も無くなるんだったら、そりゃ地域ごとに芽吹いた信仰がバラバラになるよな。人は信じたいものだけを信じ、見たいものだけ見たいもの。 -
Posted by ブクログ
名作。
胸が熱くなり、最後は涙が出そうだった。
死を迎えるためにガンジス河へ向かう、貧しく苦悩に満ちたヒンドゥー教徒たち。
ガンジス河は人生を、罪を、そして死を流していく場所で、生と死がそこで交わる。
全てを優しく包み込む深い河。愛に満ちた河。
本書にはキリスト教、ヒンドゥー教、仏教が登場するが、特に大津の思想が強く印象に残った。
神は多面的であり、どの宗教にも存在すると語る彼は、周囲から異教徒とみなされてしまう。
宗教の違いで争いが起こるこの世の中で、私は無宗教だからかもしれないが、大津のような考え方があってもいいのではないかと思った。
人生で一度は、聖なるガンジス河、そして飢えと病苦と慈悲の女神チャームンダーの世界を、この目で見てみたい。
-
Posted by ブクログ
西洋(キリスト教)の「永遠」の感覚と日本(仏教)の「無常感」の対比が面白かった。
キリスト教では罪を犯しても神に懺悔して赦しを乞えば救われる、死=永遠の命への入り口っていう考え方。
対して日本では抗えない運命への静観、移ろい衰えていくものへの諦めに近い無常感が根底にある。
根本的な感覚がこんなにも違うのに、日本でクリスマスとか祝われてるのが陳腐に思えてくる。
あと日本人キリスト教徒はこの辺りの感覚の違いをどう対処しながら自分をキリスト教徒たらしめているんだろう。機会があれば当事者に聞いてみたい。
以下、読んでいて感じた疑問とchatGPTの回答
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
•なぜキリスト教では罪の意識が強いのに、日本より西洋の方が一般的に犯罪率が高い?
⇨キリスト教における「罪の意識」と法的な犯罪はそもそも別の概念。前者は神に背くこと、欲望を抑えられないこと、心の中で誰かを恨むことなど。
•キリスト教における「地獄」と仏教における「地獄」の言葉の重みが違う気がする
⇨その通り。日本での「地獄」は罪人が死後に罰を受ける場所だけれど、「仕事が辛くて地獄のようだ」など比喩的•感情的に軽く使われる事が多く、現世的な苦しみの延長線上にあるイメージ。対してキリスト教の「地獄」は単なる火に焼かれる場所ではなく、神の光に二度と触れられない「完全な孤独」。地獄に行くとその人が永遠に救われない、魂の破滅そのものを意味する。
•人種を指す「ユダヤ」の語源とキリスト教上の背教者「ユダ」の語源に繋がりがあって、そこからドイツのナチスによる迫害対象をユダヤ人にしようとなった訳ではない?
⇨背教者を意味する「ユダ」は聖書に出てくる個人名で、人種の「ユダヤ」と直接的な繋がりはなく、そこに由来してホロコーストが起きた訳ではない。ただし両者は同じ語源(ヘブライ語のユダ族=Judah)を共有しており、長い歴史の中でそれらが結び付けられ反ユダヤ感情の土台にはなった。ヘブライ語でユダはיְהוּדָה(Yehuda)、ユダヤも同じくיְהוּדָה(Yehuda)。
•教会で行われる罪の告白に対峙する神父の対応がまるでカウンセラーのように感じる(罪を責めるのではなく優しく助言するところ等)が、西洋では神父と別に心理セラピーの利用も流行っている。神父様に話を聞いてもらうだけでは不十分なのか?
⇨神父の告解はあくまでも宗教的•霊的な癒しが目的で魂の次元が中心。対して心理セラピーはより現実的•心理的な問題に焦点があてられており、PTSD、うつ、パニック障害など感情や脳の働きに関するケアを行うという棲み分けになっている。
•キリスト教において自殺も罪の1つだけど、年々西洋での自殺率が増えてるのは神の教えが抑止力になってないの?
⇨その矛盾には現代社会の価値観や孤立の変化が要因となっている。そもそも自殺が罪になるのは神への反逆とみなされるからで、「神から与えられた命を自ら奪った」「希望や信仰を放棄した」等の理由から救いようのない大罪とされていた。昔のヨーロッパでは自殺者は教会の墓地に埋葬されないほどのタブーだった。
しかし近年では信仰が形骸化•個人化していること、社会的孤立や精神疾患の増加、教会の権威の弱体化、科学的•心理学的な知識の広まりなどから、自殺に対するハードルが下がってしまっている。
-
Posted by ブクログ
名作だった。
戦時中、捕虜となった白人を生体解剖するという、倫理的問題を真正面から描いた作品。
実際の事件を基にしている。
どうせ死ぬ命なら、実験で多くの人の役に立てるほうが良いとして行われた行為に対し、勝呂医師は深い葛藤を抱く。
一方、戸田医師は自分には心がないのかと良心の呵責を求めて実験に参加するが、恐怖も罪悪感も湧かない自分に気づき、諦めにも似た無感情な境地に至る。
時代背景や環境の影響が、人の倫理観をどれほど左右するのかを考えさせられる。
著者の遠藤周作はクリスチャンであり、キリスト教には明確な倫理規範があるが、日本人にはそうした指針が乏しいため、流されやすいのではないかと彼は考えていたらしい。
重く暗い題材ながら、深く考えさせられる価値のある作品だった。