大江健三郎のレビュー一覧
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購入済み
あ、ああー、理想欲望暴発ですよ
先を読みたくなる作品だった理由の
2つ目は、破滅に向かうような
ダークな事件が連発していくことだ。
「……ですよ」と鳥の声を識別する
声のリフレインの中、何を目指すのか
わからない若者たちにとって、祈りは
聖なるものではなく熱中と解釈され、
『地下室の手記』的に先の読めない
自由が追求される。
主人公は、陸上では動けない樹木や
鯨の代弁者で、幼児を守る、知的存在
だが、一方、青年たちに好感を持つ中で
その無茶が樹木を傷つけるのを黙認し、
それは機動隊の指揮官が私刑的なことを
黙認するのと同じだし、政治家の秘書
だった時に少年に対する大罪を犯して
おり、中庸 -
硬派なファンタジー
解説では、文化人類学やら神話学やらという小難しいことが書かれていますが、それはこの本の文体の難解さの所以でしょう(でもクセになるんですよねぇ)。
この本以降の大江文学を読んでも、「死と再生」についてはより深く書かれることはあっても、神話についてはこの本より詳しく書かれたものはありません。そういう意味では、この本を読めば、大抵の「大江ワールド」には難なく入ることができます。
文体は難解ですが、大江さんがおっしゃっていたように、「百年の孤独」を意識されて書かれたこの作品は、多分にラテン文学的なファンタジー要素を含みます。この作品を読んで、大江さんの生まれ故郷を訪ねた人は、きっと私だけでは -
Posted by ブクログ
戦争末期
山奥の谷のむこう側に、外界と隔絶された村があって
そこに町の「不良少年」たちが集団疎開する
村人たちからしてみれば、厄介者を押しつけられる形だった
しかし数日後、村に疫病が流行ったため
村人はみんな隣村に逃げ出してしまい
少年たちは全員取り残されて
それだけならまだしも
線路の橋をバリケードで封鎖され、閉じ込められてしまうのだった
ところがこれを幸い
病原菌の蔓延した村で、少年たちは限られた食糧を分け合い
同じく取り残された疎開者の少女や、朝鮮部落の少年
それに予科練の脱走兵も加え
村を自分たちの理想郷に作りかえようとする
それがしょせん短い夢にすぎないことは
事の初めからわかってい -
Posted by ブクログ
超良かったです。こんなのも書けるのかと驚いた、なんか初期作品読んだだけのイメージではもっと文章固くて泥臭くて何書いてるのかわからないけど力押しで読め!って押し付けてくる感じだったのが、だいぶ透き通った文体になってたのも衝撃。死者と「これから生まれてくる者」との間のChangeling。なんて優しい祈りのような小説なんだ……
個人的には終章が白眉。性描写が尊い。千樫は強い。古義人がすっと物語から身を引いて女たちだけで結末を迎えるというのが美しいね。新たな生命が託されるものとしての女性。
時差ボケの深夜テンションで、いきなりスッポン解体しだすシーンも笑いましたが。